雄弁な騎士団長は語る。
団長さんの独り言です。
ティルト国の第二首都シーヤは、国防の面で重要な都市だ。
そのシーヤの第一騎士団と言えば、下手すれば首都の騎士団よりも強い・・いわば精鋭中の精鋭。
それを取り仕切る、私、ラトル・ユリ・ファルトは、異界人の保護へも力を入れていた。個人的に、人道を無視した行為は嫌悪の対象だったのも大きい。異界人と結婚をする事で、こちらの世界の人間へと変化する事を突き止め、極秘に友人だった魔術師ニルギ、寮長のフランにだけその事を告げ、保護すると匿っていた。
そんな私の姿を見て、何も言わず、異界人を連れて来てくれたウルキラは、実力は自分よりも上だったが、いつもどこか遠くを見つめ、権力にも全く関心を示さない。・・生い立ちに色々あったことは知っていたので、首都にある騎士団から、ウルキラを寄越せとの声もあったが、ことごとく断っていた。
無表情で、言葉少なく、ストイックに自分を鍛え、優しいくせに全くその素ぶりを見せない男・・そんな印象だったウルキラが、ある日異界人を保護して帰って来た時は、本当に驚いた。
扉の前で、まず戸惑っている。
あいつ、蹴破るくらいの勢いでいつも無遠慮に入ってくるのに!
あと手を繋いでる!!10人以上連れて来たことがあるが、初めて手を繋いでる!!!
言っとくけど、女の子だってその中にはいたぞ?
そして極め付けに、声を掛けてる!!!
話しかけても、何も出てこないあの口から!!!
ポーカーフェイスが得意で本当に良かった。でなければ、目を大きく開いて驚愕の顔をしていたに違いない。あ、でも笑顔は抑えられなかった・・。あれは仕方ない。
保護された女の子は、少し短めの前髪に、長い黒髪、黒曜石みたいな瞳をした子だった。
14.15歳くらいかと思ったら、まさかの20歳!
ハキハキと答える様子は、確かに年相応だった。
出会ってすぐに、ウルキラが愛称で呼べ・・と言ったという事実に更に驚いたが、結構わかりやすいくらいのウルキラの好意にまったく気付いていなくて、もう笑いが止まらなかった。
あの男が!!・・もう面白い以外に何か言葉があるのか?
ナルに異界人の立場の話を説明すると、さっさと結婚して生活に慣れたいと話していたが、扉の向こうにいる男は、絶対阻止するであろう。それもわかっていたが、あえて提案した。
ウルキラは、本当に頭もキレる。実力もある。騎士団内では誰もが認めている男だ。
その男が、この異界人の前でどんな顔をするのか・・、
どんな風に変化していくのか・・、
できれば、幸せになって欲しい・・。
そう思って、俺は扉の向こうから焦れて、怒りを発する気配をさせるウルキラを呼ぶ。
まあ?その後、ウルキラからものすごい嫉妬と牽制を受けまくって、ナルさんからもニルギからも、フランからも、冷ややかな目で見られるけど、私って優しいと思うんだよね?
ナルさんとウルキラがうまくいくように、ウルキラに「強い男が好きみたいだよ〜」と言えば、鍛錬するし、「野菜食べないと嫌いになるって言ってた〜かも・・?」と言えば、野菜を食べるし。
すごく優しい上司だと思わない?
あいつの目が優しい色で、ナルを見るたび嬉しくなる。
寂しそうに遠くを見ていた目が、嬉しそうにしているのを見ると、上司としては安心するんだ。
窓から訓練場が見える。
嬉しそうに木陰で待っているナルに近付いていくウルキラに
幸せになれよ〜と、聞こえないであろうが声をかける。
まぁ?僕・・優しい上司ですから。
あとでまたからかっておくけど。




