黙して語らない騎士は心配性。7
ニルギさんから魔道具のブレスレットを頂き、キラさんに説明すると、朝晩2回欠かさず魔力を流しに来てくれるようになった。すごいや、ニルギさんの言う通り、キラさんちゃんとやってくれてます!団長さんが来ると、キラさんが追い払う・・っていうのもあるけど。
そのおかげで掃除係として、宿舎だけでなく、寮の掃除もできるし、何より・・気持ち的に楽!
見つからないように・・目立たないように・・は、もちろん心掛けているけど、私はお日様の下を歩ける事で、大いに晴れ晴れとした気分だった。
今日は、キラさんのいる訓練場へお弁当を届けて欲しいと、団長さんに言われる。・・この人、絶対楽しんでいるんだろうなぁ・・と思いつつ、初めて入る訓練場にちょっとワクワクする。
訓練場は、建物で囲まれていているのだが大きな門があるので、門番さんに声をかけて、通してもらう。
石畳で出来ている廊下を歩いて、中庭を見ると、広い訓練場で、騎士さん達が剣の打ち合いをしたり、掛け声を出しながら、走っている。お、おぉおおお〜、異世界だ!こんなの漫画で見た事しかない光景だ!!
感動して見ていると、真ん中にキラキラ光る銀髪が見えた。
いつもは静かに話すキラさんが、
「腕を振れ!」
「あと5周!!」
と、大きな声で話している。
キラさん、大きな声・・出せたんか〜〜〜〜!!!!
汗を拭いつつ、指導をしている姿を見ると、やっぱり格好いいなぁ・・様になるなぁ・・と思わず見惚れてしまう。
すると、遠くにいるはずのキラさんと目が合う。
私は小さく手を振ってみると、キラさんは、一瞬固まって・・それから、小さく手を振り返してくれた。
思わずドキリ・・とした。なんだこれ・・不整脈?
そんな歳ではないはずだけど・・、ええい、顔が熱い!!早く冷めろ!!思わずペチペチと叩いてしまう。
と、お昼の鐘の音がして、号令がかかる。
昼休憩の時間になったため、騎士さん達は、汗を拭ったり、使っていた道具を片付けながら、食堂へ向かって行く。
キラさんは、こっちへ真っ直ぐ来る。
うー・・、今ちょっと、頬赤くなってるから、心配されそうだな。
そう思っていると案の定、
「顔が赤いが、大丈夫か?」
と、聞かれる。さすが安定のキラさん。
「大丈夫です。ちょっと暑かっただけです。それよりお昼のお届けで〜す」
「・・ありがとう」
「団長さんから・・」
「・・・・・・」
スン・・と、表情を消すキラさんに笑ってしまう。
「まあまあ、私の分も持ってきたんで、良かったら一緒に食べませんか?」
籠を持ち上げてみると、キラさんは少しだけ嬉しそうにうなずく。
大分、表情でてきたな〜なんて、そんな顔を見て思う私。
キラさんは、手を洗って来るから・・と言って、木陰で待つように指差して行ってしまう。私は、指示通り木陰に座る。少し傾斜があって、中庭の訓練場がよく見える。と、さぁっと風が吹いてきて、頬を掠める涼しさが気持ちがいい。
手を洗ってきたのであろうキラさんが、銀髪をサラサラ揺らしながら、こちらへ来るのが見えた。水色の瞳が嬉しそうにこちらを見ているのに気付いて、なんだかこそばゆい気持ちになる。う・・、手汗すごい、エプロンで拭いた・・。
「・・待たせた」
「大丈夫ですよ、そんなに待ってません。お疲れ様でした。今日はサンドイッチと、ゆで卵と、果物と、ピクルスです!」
「・・・・ピクルス」
「食べましょう!野菜!!」
キラさんは、ちょっと遠い目をしていたが、ひとまずサンドイッチを渡す。私もサンドイッチの包みを開いて、齧り付く。こっちの世界のハムって美味しい・・!マスタードも程よい辛さで私でも食べられるのが有難い。
「美味しいですね〜」
「ああ」
キラさんも、隣に座って一緒に食べ始める。甲冑を脱いで、シャツの腕をまくっているので、腕の筋肉がよく見える。うーん・・ムキムキだ。綺麗な顔にムキムキ筋肉。いいわ〜、眼福だわ〜。
良い筋肉を育てるためには、野菜も不可欠なんだけどな・・。
でも、野菜を食べそうにないよね・・。ピクルス、まんま野菜だしなぁ・・。タレとかソースついてないしな。
そう何も考えず、スティック状に切ってある人参をつまみ、キラさんの口元に持っていく。
「あーん」
って、思わず言ってしまった。
キラさんが一瞬目を丸くして、固まった。あ、そうですよね・・。すみません、考え無しに衝動的にやってしまいました。私は無言で手を下ろそうとすると、手首をキラさんに掴まれる。
「え」
そのまま、パリッとキラさんが人参を噛む。
「え」
どんどん指に、口が近付いてきて、目がじっとキラさんの唇を見る。
え、どういう事???心臓が破けそうなんですけどっ!!!!????
「キ、ラさん・・、ゆ、指!!」
きっと私の顔は真っ赤であろう・・。
私はなんとか声を絞り出して、キラさんの唇が指に触れるのを阻止する。
手首を・・、手首を離して欲しい。切実に願う!!!
キラさんは、残り少ない人参を持つ私の指をじっと見て、少し考えると、私の指をぺろっと舐める。
「ひゃあああ??!!」
びっくりして、指から人参が離れると、器用にキラさんの口はキャッチして食べてしまう。
ボーゼンとした顔でキラさんを見ると、水色の瞳がこちらを面白そうに見ている。
「もう一回」
ピクルスを指差すキラさん。
私は叫んだ。中庭いっぱいに叫んだ。
「無理です!!!!!」
・・・・と。
甘さがアップを始めました。




