黙して語らない騎士、温泉旅行。5
温泉から出ると、騎士団御一行様はちょっと休憩してから牧場へ寄って帰るコースである。
・・これ、スライム退治がなかったら、完全に遊びだな。
よくクリスさん首を縦に振ったな・・。
キラさんと木陰でお茶を飲みつつ休憩していると、ライ君も休憩なのかこちらへやって来る。
「温泉とか最高だけど・・、よくクリスさん許可したよね・・」
私がそう話すと、ライ君はちょっと声を潜めて・・
「どうも牧場の近くで、悪霊が出るそうです・・」
「え、悪霊って・・・」
私とライ君は顔を見合わせた。
以前、騎士団の寮で悪霊が出て思いっきり驚かされた記憶を思い出した・・。
「に、ニルギさんいないのに!!」
「大丈夫です!僕も慌てて確認したら、フランさんが、護符を持って来てくれました。」
「フランさん、最高にできる男!!良かった・・、アレにはもう出会いたくない」
私とライ君で、ホッとしていると、団長さんに呼ばれてライ君は行ってしまった。
と、キラさんが私の腰を掴んでそばに引き寄せた。
「き、キラさん?!!」
「・・・俺は・・?」
「・・ん?俺は・・?とは・・・?」
キラさんが、少し拗ねた顔をする。
「・・・さっき、スライムを倒した・・」
「・・・うん・・?」
あ、もしかして、フランさんを褒めたから、もしかして拗ねてる?
キラさんを見上げると、私をじっと見つめている。
「・・・キラさん、さっき助かりました。か、格好いいなぁ〜、素敵だなぁ〜」
わかりやすくおべっかを使ってみると、キラさんは無表情だけど嬉しそうにする。
・・・うん!言葉をもう少し言ってくれると、フォローも楽かなぁ??
思わず笑ってしまうけど、まぁキラさんだしな・・。
そうして、移動の時間になってキラさんの馬に乗るけど・・
ほどよい揺れと、温泉の心地いい疲れで、船を漕ぎそうになる・・。やばい、眠い・・。
前を進む新人騎士さん達が「すごい!ウルキラ団長補佐の馬に乗ってるのに、寝てる!!」って言ってるけど、すまない・・私は結構どこでも寝ちゃうんだ・・。
キラさんが、小さく笑って胸元に引き寄せてくれたので爆睡しそうになる・・。ダメだ・・、一応仕事だし。
団長さんが、私を見て・・
「ナルさん、一番満喫してるね!!」
そう言いますけど、私知ってますよ?さっき温泉で、お土産を買っているの・・。まぁ、団長さんのおかげで目が覚めた。牧場が見えてくると・・、みんなちょっと顔が明るくなる。
と、向こうから何か大挙して来る・・???ど、動物・・・?
クリスさんがギョッとした顔で、
「う、馬と、羊と、牛が逃げてる!!!か、各自、柵の中へ追い込め!!!」
「「「「ええええ??!!」」」」
新人騎士にものすごい無茶振りである。
団長さんが、ゲラゲラ笑いながら・・「ほら、頑張れよ〜」と、言いつつ、これ以上外へ逃げないように馬で通せんぼしている。そういうさり気ない所、偉いよね・・。
私はキラさんを見上げると、
「フラン!護符はどこだ?」
「あ、ウルキラさん、ここに!!」
フランさんが慌てて、持っていたカバンからニルギさん作の護符を出す。それを受け取ると、クリスさんに渡しに行く。
「クリス、こんな一気に逃げるはずがないから、恐らく低級な悪霊の仕業だ。柵に入れたら、これを貼れ」
「は!ありがとうございます!!」
「・・・後は、動物か・・」
キラさんは、ざっと周囲を見る。
新人騎士さん達は、馬に乗りつつなんとか逃げた動物達を柵の中へ追い込んでいく。
柵の向こう側で、農場の管理人さんが「ありがとうございます〜〜!!」って叫んでいる。・・こういう訓練も、普段はあるのかな・・?キラさんを見上げると、ちょっと小さく笑って・・
「初めてのケースだな」
「・・あ、やっぱりそうなんですね・・」
新人騎士さん達は、温泉でさっぱりしたのに・・。お疲れ様です!!!
あとで、飴を配ってあげよう・・。




