黙して語らない騎士、記憶が戻らない。
お昼近くになって、フランさんとライ君と一緒にお昼ご飯を食堂から貰って、執務室へ持って行く。
仕事が片付いた人から、執務室の横の部屋でお昼を食べてもらうので、お茶を淹れてポットとカップを用意しておく。団長さんは絶対終わらないと思って・・あらかじめ、お茶とご飯をデスクに置いた。
半泣きですが、頑張って下さい。
「お先にいただきます〜」
執務室にいる人達に言って、横の部屋でお茶を淹れて食べようとするとキラさんもやってきた。
「キラさんも食べます?」
「・・ああ」
「あ、じゃあお茶どうぞ」
先に私のお茶を渡して、自分のをまた淹れた。
キラさんは、そんな私をじっと見つめているけれど・・なんでしょうか?こっちのお茶がいいのかな?
「お茶、こっちがいいですか?」
「・・・いや、大丈夫だ」
「そうですか・・」
うん、まぁいいならいっか・・。
お弁当の包みを開けると、大きな分厚いハムが挟まっているパンだ・・。お、重い・・、食欲がないのに・・分厚いハムは無理だ。一つ取って、キラさんに・・
「すみません・・、二つは食べ切れないので、一つ貰ってもらえますか?」
「・・・ああ、いいのか?」
「ちょっと・・食べ切れる気がしなくて・・」
もう一つの入れ物に入ってるサラダは食べよう。
キラさんをちらっと見ると・・サラダの入れ物を見つけた途端、眉をちょっとひそめていた・・。
そこは変わらないな・・と思って、ふふっと笑ってしまう。
「・・野菜は、食べてくださいね」
「・・・ああ」
「見てますよ〜〜」
「・・・・そうか」
苦い顔をして、サラダをフォークで突いていた。
面白くて、つい笑って見てしまうと、キラさんが私を見る。
「・・?なんですか?」
「・・・笑ってるな・・と」
「あ、すみません・・つい面白くて・・」
そういうと、キラさんも小さく笑って私を見つめる。
「・・笑ってる方がいい・・」
・・・そ、そういうの言われると、まんまキラさんなんですけど。いや、キラさん本人なんだけど、記憶を失う前のキラさんがいるようで、泣くまいと思ったのに・・ぼろっと涙が出てきてしまった。
「・・す、すみません・・、いま、笑ってた方がいいって言われたのに・・」
慌てて、涙を拭くけど・・ボロボロ出てきてしまう・・。
キラさんがそっと横に来て、ハンカチを渡してくれるから・・以前にもハンカチを貸してくれた事を思い出して、ボロボロ泣いてしまう。
「ごめ・・なさい、キラさんの方が大変なのに・・」
「ナル・・」
キラさんがそっと頭を撫でてくれるけど、余計に泣けるからやめて欲しい。
いかん・・この場からちょっと離れよう。
やっぱり側にいると嬉しいけど、辛すぎる。
借りたハンカチで涙を拭いて、席を立とうとすると・・キラさんが、私の手首を掴む。
「・・キラさん?」
キラさんを見上げると、キラさんも辛そうな顔をしてる。
あ、そうだよね・・、私も辛いけど、キラさんのがずっと辛いよね。
「えっと・・ちょっと頭を冷やしてきますから、大丈夫ですよ?」
キラさんは、無言で私を見つめる。
淡い水色の瞳が揺れている。ああ、こんな時でも綺麗だな・・、座っているキラさんの前髪をちょっと触って瞳を見つめた。
「・・キラさんの瞳は、変わらず綺麗ですね」
頑張って小さく笑うと、キラさんは切なそうに私を見る。
大丈夫・・、ちょっと泣いたら、また戻ってくるし。仕事はするし・・。キラさんの掴んでいる手をそっと離すように触れると、離してくれた。
「すぐ戻りますよ」
そういうと、キラさんの顔を見ないでそのまま部屋を出て行った。
胸がギリギリと痛んで、もうどうしたらいいのか分からなかった。




