黙して語らない騎士の口を動かすお仕事です1
狼の群れから助け出してくれたウルキラさんは、広い場所に馬を止めてあるので、そこへと移動しようと提案してくれた。さっと背中を向けてスタスタ歩いていくので、付いていくが、・・足!早えよ!!!コンパスの差がえぐい。
「う、ウルキラさん・・ちょ、まっ・・」
ちょっ、待てや!!!早えんだよ!!と、マイルドに言おうとしたら、こっちが追いつくのに必死な様子に気付いたのか、一旦止まってくれた。あ、良かった・・息を整えよう・・。
「キラでいい」
「あ、はい?」
「ウルキラは、呼びづらいだろうから、キラでいい」
「ああ・・、じゃあキラさん・・」
「キラでいい」
「・・いきなり会って、呼び捨てできませんって・・」
はぁー、やっと息整った・・・。
キラさんの顔を見ると、無表情でこちらをじっと見ている。
「・・・・ええと、キラさんは、何でこんな森の中を?」
「・・隣の町へ手紙を渡し、元の町へ戻ろうとしていた。いつもは他の兵に頼むが、ここいらは獣や魔物が出るし、危険だから」
ああ、先ほど会いましたね・・獣。魔物もいるんかい。
「よく私が森の中で狼に襲われてるって、わかりましたね・・」
そう言って、後ろを振り返る。
結構、木が茂ってて・・向こう側が見えないのに。
「獣の気配でわかる」
「へー、便利ですね」
簡潔な答えである。気配でわかるのか、そうかそうか・・。
「ええと、元の町って・・近いんですか?」
「3日かかる」
「遠い!!」
「ここでは、近い方だ」
「広い国なんですね・・。あの、私もそこへ連れて行ってもらう事ってできます?あと、住む場所とか・・」
帰れないって、あっさり言われてしまった以上、腹を決めて生きていくしかない。いや、ものっすごい動揺してますけどね?でも、どうにもできないしさ・・。
「・・・騎士団は、異界人を保護する役割も担っている。住む場所も、仕事も用意するから安心しろ」
「え!?そうなんですか!優しい国ですね」
「騎士団に見つかる前だと、売り払われる事もある」
「優しくない・・・厳しい・・・。キラさんに会えて、すっごく良かった」
思わず遠い目でそう話すと、
「・・・・そうか」
静かにうなずくキラさん。
ちょっと嬉しそう・・???ダメだ、無表情すぎる。読めない。
「じゃあ・・町まですみませんが、よろしくお願いいたします!!あ、なんかお手伝いできる事があれば言ってください!あとこの世界の事とかも教えて頂けると助かります!」
「・・・・わかった」
コクっとうなずくと、私の前にスタスタと歩いてきて、
突然両脇に手を入れて、持ち上げる。
「え???!!」
両足浮いてますけど?重くない??
いや、その前になぜ持ち上げた???
「き、キラさん・・・何で持ち上げた・・・???」
「馬」
「へ?」
「馬に飛び乗れるか?」
「無理ですね」
「そうか」
そのまま、私はブラブラと足を揺らしながら、目線が高くなったので、キラさんの銀髪や薄い水色の目をした綺麗な顔をまじまじ見ながら馬まで運ばれ、鮮やかな手並みで乗せられた。
濃茶の毛並みをした馬の鼻をポンポンと叩くキラさんを見て思った・・。
このイケメン・・・言葉少なすぎない?
普通・・という概念は、人それぞれだろうけど・・それにしたって言葉足りなくない?
馬に乗った私の後ろへキラさんが飛び乗って密着した状態になる。あ、二人乗り・・。事前に言って?この状況、結構恥ずかしいけど・・?しかし、そんな私を気遣う事はないのであろう。
「行くぞ」
低い声が頭の上で告げる。
急いで、目の前の鞍を掴むが、揺れる。
だって、めっちゃ走ってる。あの、現代日本において、乗馬の経験があるのは、ごく一部ーー!!!!
「わ、わわ・・・」
こ、怖い・・!落ちそう!と、思っていると、私のお腹にキラさんが腕を回す。
だぁあああああ?!!びっくりして腕を見る。
「・・・危ないから」
「す、すみません・・・」
お気遣いは嬉しいのですが、一言!
一言欲しいんですよ?!
ちょっと・・いや、かなり照れくさかったけど、私はそのまま突然の乗馬体験をする事になった。