黙して語らない騎士、お手紙を書く。
キラさんが団長補佐業務をして一週間。
大分サイクルが定着してきて、書類仕事やそれ以外の仕事もスムーズにできるようになってきた・・とは、本人談。
いきなり王子逃亡事件だもんね。
それにしたって、手薄とはいえよくやるなぁ・・王子様・・と思ってしまう。
ノーツさんにとっても、初めての副団長の仕事で気が引き締まる思いだったらしい。手紙がクリスさんから来たらしいが羨ましい!!と書いてあったらしい・・・。そっちの仕事も結構な大仕事だと思うけど。
遠征の方は、オルク団長さんの人柄もあって良好な感じだそうだ。団長さん、良かったね・・。
さて・・、そんなある日。
食堂のおじさん二人が腰痛になった・・。
流石に二人いなくなってしまうと、食堂も困るし、何より手が欲しい。けれど機密事項を取り扱う機関だから、おいそれと雇えない・・。そこで白羽の矢が立ったよ・・、私に。
キラさんは大分迷っていたが、騎士さん達の食事作りは大事な務め!ひとまず一週間だけお手伝いすることになった。
まぁ、キラさんが事務仕事もそつなくこなすし、フランさんやライ君、事務員さんもいるし・・と、いう安心感もあるし・・。そんなわけで急遽私は食堂のお姉さんになっている。
「ナルさ〜〜ん!!そこ、洗い物お願い!」
「はい!!」
まぁ、洗い物担当だけど・・、手が足りないので重宝してもらえる。
そこはちょっと嬉しい。
急いで洗い物をして、使う道具を拭いて元の場所へ片付ける。食堂で働いているお姉さん達も優しいし、いい職場だなぁ〜。味見もさせてもらえるし、結構楽しい!
騎士さん達も結構気さくに話しかけてくれるし、普段はなかなか話せないので、面白い。キラさんの裏話みたいなのも聞けるし・・。
問題はといえば・・、
その、キラさんである。
流石に仕事なので、勤務中は食堂に来ることはないが、お昼になると静かにやってきて調理場を見つめている・・。なんだろう・・、この忠犬ハチ公を待たせている気分は・・。
食堂のお姉さん方が、忙しいのにも関わらず・・
「行ってあげな、ナルちゃん・・。団長補佐のご機嫌を保つのも仕事よ」
と、すっごくいい笑顔で言ってくれるので・・、なんというか恥ずかしいんですよね・・。いつものように籠に入れてくれて送り出されると、照れくさいんです・・。キラさんは、滅茶苦茶いい笑顔ですけど。
「・・ナル、外で食べよう」
「はい・・」
うー、なんで半日ぶりなのに、こんなに照れ臭いんだろうか。
キラさんは、無言で手を繋ぐと訓練所のいつもの木陰に私を連れて行く。
「キラさんは、ここが好きですね・・」
「そうだな・・」
二人で座って、お弁当を渡すと・・気持ちいい風が吹いてくる。
「ナルも気に入ってるようだし・・」
「まぁ、それはそうですね・・」
キラさんとの思い出の場所の一つ・・みたいなものだし。
「キラさん、執務室での仕事は今日はどうでした?」
「寂しい・・」
「キラさん、寮へ帰ったら私と一緒ですから・・」
とはいえ、寮へ戻ってもノーツさんと交代で仕事をしているので、最近はすれ違いも多いけど・・。このままでは、キラさんは食堂に張り付きそうだな・・。どうしたものかとちょっと考えて、ふと思い付いた。
「あ!手紙!!」
「手紙?」
「仕事でなかなか会えない時に、手紙を書いておきますよ。そうしたら寂しくないかなって・・」
キラさんは、少し目を丸くして・・でも、次に嬉しそうに笑う。
良かった・・、食堂でストーカー状態は回避したい。
「キラさんも書いて下さいね」
「ああ」
「一文じゃダメですよ?」
「・・・・・・・ああ」
ちょっと今、戸惑ったな?
とりあえずキラさんの仕事がスムーズにできる工夫しよう。
そう思って、お昼のサンドイッチを食べていると、今の内に私を補充しておこうと思ったのか、キラさんがぎゅうっと抱きしめるのだった・・。早急に手紙を書いておこうと誓った・・。