黙して語らない騎士、団長補佐仕事1
執務室へ戻ると、キラさんはニルギさん、フランさん、ノーツさんと港の地図を調べ始めた。
私は・・とりあえず出来る事・・うん、お茶でも出そう。
四人にお茶を出してから、明日の仕事の準備をする。
「遠征の機会に逃亡を計画していたらしい。なかなか鮮やかな逃げ足だったらしいぞ」
「・・・も〜、大人しくしていて欲しかった・・」
フランさんが小さくため息をつく。全くです。
キラさんは、港と停泊している船の情報をざっと見る。
「・・昨日、風が吹き荒れていたから、船が出られなかったのは良かったな」
フランさんが頷いて、船の名簿表をキラさんに渡す。
「港の話だと、明日には出港するできるそうです」
「じゃあ、今晩までに突き止めるのか・・」
ニルギさんが、うんざりとした顔で船の名簿表を覗き込む。
「それか・・、離れている所から無許可で船を出す可能性もある・・。警備隊に、すぐに周囲を回ってもらい、漁師からも怪しい船がなかったか聞いてもらう。騎士団は、隠密に港で待機させる」
キラさんがノーツさんを見ると、ノーツさんはすぐに準備へ向かった。
フランさんは、キラさんを見ると・・
「夜までに船は用意しておきましょうか?」
「頼む」
フランさんは、にっこり笑って港へ行く・・。
う、うーん・・・、何か出来る事・・ないかな?
お弁当か夜食作っておいてもらおうかな・・。私がそわそわしているのを、ニルギさんが面白そうに見つめる。
「・・ナル、落ち着け」
「そ、そうなんですけど・・。何もできないので・・歯がゆいというか」
そう言いつつ、何もできないんだけど・・。
ニルギさんは、ちょっと考えて・・
「港の方にあるケーキ屋で、新作買ってきてくれるか?」
「え?まぁ・・いいですけど」
「・・・ニルギ・・」
キラさんが、ニルギさんをちょっと睨むけど、全く気にしないニルギさんは財布をポンと投げてくるので、慌てて受け止める。
「俺は、クリームがたくさんあるのがいいな」
「はい、甘そーーーなのですね」
そう言うと、ニコニコ笑うのでカバンに財布をしまって、行こうとすると・・キラさんが、私の側へ来る。
「すぐ帰ってきますから、大丈夫ですよ。お仕事、気を付けて下さいね」
「・・・ああ」
私の手をそっと取ると、模様が入った手の甲を指差す。
「何かあれば、呼んでくれ」
「・・・いや、キラさん・・お仕事だからね?」
大丈夫だから・・。
超絶強い守護魔法ついてるから・・。しかも魔法かけたの貴方ですからね・・?
手を振って、執務室を出ると・・、港にあるケーキ屋まで歩いていく。あそこのケーキは美味しいんだけど、坂を登って帰るのがちょっとしんどいんだよね。
夕陽が傾いてきて、街全体が夕焼け空に染まっていて綺麗だ。
キラさんと最近デート出来てないし・・、今度団長さん達が帰ってきたら、一緒に出かけよう。茜色に染まった街並みを見ながら、ちょっと気分も変えられて良かったかも。
港を見ると、漁師さん達が網を繕っている。
ふと目が合って、挨拶するとニコッと笑って挨拶してくれた。
「こんにちは、今日は漁はお休みなんですか?」
「昨日、風がすごくてな、船が出せないんだ」
フランさん達が言ってた通りだな・・。そんな事を思いつつ、周囲を見ると・・、出航しようとしている船がある?
「あれ?あの船は?」
「ああ、あれは遊覧船だよ、港の辺りを一周するんだ」
「一周・・・」
「隣町の港へも一度立ち寄って、土産物を買うんだよ。あっちは土産物の絹が有名だからな」
ふと、ドキッとした・・。
隣町の港へは手配しているんだろうか・・。
漁師さんにお礼を言うと、急いで人気のない所へ行ってから、そっと手の甲に話しかけてみた。
返事はなかったけど、手の甲が淡く光ったので
大丈夫かな?
そう思ったけど、心配で生クリームたっぷりのケーキを買うと、急いで坂を駆け上がったのだ・・。あ、足、痛い!!