黙して語らない騎士、潜入捜査だよ!
ひとまず、キラさんはお弁当を食べに行ったので、キラさんの代わりに宝石を磨く。
うーん・・怪しさ満載なんだけど、表立っておかしい所はないな。
ふと、カーンさんがいないな・・って思って、コリンさんに聞いてみた。
「・・ああ、時々商談に行くって言って出かけるのよ」
「そうなんですか・・、仕入れとかもあるでしょうしね・・」
コリンさんは、「そうよね〜」と言いつつ、帳簿をつけているようだ。
宝石を拭く布を取りに行くふりをして、コリンさんに近付く。
「コリンさん、帳簿までつけてるんですか?」
「あ、見えちゃった・・?そうなのよ・・、こんなの私がやっていいのかしら・・て思うんだけどね」
「え〜〜、お給与弾んでもらわないとですね」
「ふふ、そうよね」
「宝石店って、やっぱり儲かってるんですか?さっきもお客さん来たけど、結局買わずに帰っちゃったし・・」
そう・・、さっき男性が入って来たけど、ちょっと話をして帰ってしまったのだ・・。デザインの話はしてたみたいだけど。
「そうね〜、トントンって感じかしら?まぁ、売れる時は売れてる感じね」
コリンさんは、帳簿をパラパラとめくってそう答えた。
・・・そうか・・、トントンなのか・・。
帳簿付けを任せちゃうくらいだし、店の運営に薄暗さはなさそうだな・・。
そんな事を話していると、キラさんが小部屋から出てきた。
コリンさんは、キラさんと私をみて、
「二人は一緒に来たけど、お友達なの?」
「あ、はい。私がこっちに来てから、キラさんにお世話になってて・・、仕事がちょうどお互いなくて・・、ツテを頼って紹介状を書いてもらったんです」
・・・と、いうことにしてまーす。
横でキラさんが静かに頷く。
「一緒に仕事までしようなんて・・仲がいいのね」
「あ、はい・・」
コリンさんに言われて、キラさんを見ると柔らかく笑ってくれるので・・、ちょっと照れる。
そんな風におしゃべりしてると、カーンさんが店へ戻ってきた。
カーンさんは私達を見ると、
「お疲れ様です。二人とも初めてのお仕事なのに落ち着いていて、素晴らしいですね・・。前職は事務員だったと紹介状に書いてありましたが、どんな事務仕事を?」
「えーと、雑貨店の事務員です。ただ、そこの店主さんが引退して閉めちゃって・・」
急に話を振られて、慌てて設定を作った。
うう、突っ込まないでくれよ・・・。
「・・・そうですか、雑貨店、店頭での販売も手伝っていたのですか?」
「いえ、そこまでは・・何ででしょう・・?」
カーンさんはキラさんをちらっと見る。
「・・・佇まいが、綺麗だから・・ですかね」
「ああ、キラさん・・綺麗ですよね〜!私も見習いたい所です!」
キラさんから、視線を外したくてカーンさんに思いっきり笑いかけてみると、カーンさんは私を見て静かに笑う。
「・・ナルさんは、そういう人が好む笑顔がいいですね」
「そうですか?それは良かったです!!」
隣に立っているキラさんから、警戒レベルが上がる圧を感じる。大丈夫・・、大丈夫だから・・。
そうして、就業時間まで仕事は何事もなく終わる。
キラさんと制服を順番に着替えて部屋を出ると、カーンさんがやってきて、私を呼び止める。
「ナルさん、明日ここへ宝石を持って行って欲しいんですけど、出勤したらお願いできますか?」
小さな地図が描かれた紙を見せてくれて、場所を把握する。
もちろんキラさんも後ろから見ている。
「・・あまり高価な物だと緊張しますけど・・」
そろっとカーンさんを見ると、小さく笑う。
「これは、あくまでイミテーションです。お客様にこの形でいいかを確認したいので・・、安心して下さい」
「あ、それなら良かったです〜!」
にっこり笑って、宝石店を後にするとキラさんがものすごい早さで手を繋いでくる。・・・えーと、女子同士だけど・・。まぁいっか・・、キラさんを見上げると、ちょっと思いつめた顔をしている。
「キラさん、明日・・」
小さく頷いて「団長に伝えておく」と言うので、ホッとすると、キラさんが手をギュッと握る。
「・・・・ナルといるのに、話せない。寂しい」
「・・キラさん、家まであと少しですよー・・、我慢して下さいねー」
うちの旦那さんは、本当に私が好きすぎるな。ちょっと照れ臭いけど、遠い目で答えた。