黙して語らない騎士は心配性。2
夕食後、食器の片付けを手伝おうとすると、
「この階はいいが、外へは出るな。危険だ」
と・・・、この先が不安でいっぱいになるような言葉をかけられる。え、ええ〜〜・・・・。仕方なく食堂への片付けはお願いする事にした。ドアを静かに閉めると、思わずため息が出る。
人権も尊厳も安全保障もないこの世界・・。
結婚する以外に方法はないのだろうか・・、お日様の下を堂々と歩きたい・・。なんだか悶々となってしまって、一旦頭をスッキリさせたかった。
お風呂・・ないかな?
トイレは部屋の中にあったが、お風呂はない・・。
そういえばフランさんがお風呂もあるって言ってたな・・。部屋の外にあるって事かな・・?私は、そっと扉を開けて、長い廊下を見てみる。ランプに照らされた廊下は明るいけど、ちょっと怖い。
今日は諦めて、明日キラさんに起こしてもらった時にでも聞こうかな・・
そう思って扉を閉めようとすると、
「あ、ナルさ〜ん」
と、明るい声が聞こえる。
見ると、階段から団長さんがおりてくる。そうだった・・上には団長さん、住んでましたね。
「いやぁ〜、面白い事になったね〜」
「・・団長さん、いい性格ですね・・」
「だって、あのウルキラが、あんなに喋ってるなんて、信じられないし〜」
「どんだけキラさん、喋ってないんですか・・」
「しかも、あの顔・・!あいつ・・人間だったんだな〜って感動したね」
「いや・・キラさん、人間ですよね?」
面白そうにキラさんを語る団長さん・・・。
仮にも部下をそんな扱いしていていいのか?
「あの、それで私の人権問題・・どうしたらいいですかね?」
「そうだね〜・・今、本当にちょっとやばい時期だしなぁ・・。ウルキラと結婚しちゃえば?」
「そんないい加減な・・。キラさんに失礼ですよ」
「ええ〜、あいついい奴だよ?」
「散々面白がっていて、その言い方・・。いや、キラさんが優しい人なのはわかってます」
団長さんは驚いて、私をまじまじと見る。
「・・・優しくしてもらったの?」
「え、普通にご飯食べたり、馬に乗せてもらったり、話をしただけですけど・・・気遣ってもらったと思ってます。」
「話・・・・!!!!」
驚愕・・といった表情になる。まぁ・・会話らしい会話だったか・・といえば、確かにちょっと怪しいけど。お花屋さんを見せてくれたり、魚が好きだと言ったら、魚料理を注文してくれたり・・うん、やっぱり優しいな。
「あいつがねぇ・・・。」
手に顎を当てて考え込む団長さん・・。
うーん、いい性格してるけど、綺麗な顔だなぁ・・。
「ひとまず、魔術師に友人がいるから、ナルさんの身の隠し方をどうにかできないかは相談しておくよ。ずっとここで過ごすわけにもいかないしね」
「ありがとうございます。助かります!」
「あ、そういえば何で廊下を見てたの?」
そうだ、お風呂を探していたんだ。
「あの・・」
言いかけた時、
「ナル!」
後ろの方から、食堂から戻ってきたキラさんがやってくる。
「あ、キラさん」
ツカツカと私のそばへやって来たと思ったら、素早くキラさんの後ろに私を隠す。
「え〜・・そんな感じ〜?」
「・・・・・」
無言で立っているキラさんの表情は、当然ながら背中側にいるので、全く見えないが、何となく背中から怒ってる・・?という感じは受け取れる。
「キラさん、大丈夫ですよ?何も悪い事されてませんよ?」
「え〜・・・そんな説明〜?」
団長さんは、面白そうに笑いながら去っていき、背中に隠された私とキラさんが長い廊下に残された。
キラさんは、ゆっくり振り向くと
「ナル」
「はい・・?」
「あれが一番危険だ」
至極真面目な顔で言うものだから、思わず笑ってしまった。
確かにそうかも・・・そう思いつつ、キラさんを見ると、じっとこちらを見ている。
「・・はい、気をつけます」
そう言うとやっと納得してくれたようで、こくりとうなずく。
えらい心配性だな。
お風呂の場所はちゃんと説明してもらったので、ありがたく入る事にした・・・。