黙して語らない騎士は心配性。1
トントン・・・
扉をノックする音で、目が覚める。
・・・あれ、ここどこだっけ・・?
頭がうまく動かない・・窓の方を見ると、夕焼け空だ。
ああ、そうだ・・ここ宿舎だっけ。
ドアをノックする音で少しずつ覚醒する。
ひとまず扉を開けよう・・そう思って、ベッドから降りてドアへ返事をしつつ向かってドアを開く。
「あ、キラさん・・」
キラさんは、いつもの無表情でトレイにご飯を持って入ってきた。
夕食持ってくるってフラウさん言ってたけど、副団長使っていいのか・・?確か団長と実力が変わらないって言ってたけど・・?
「夕食・・持ってきた。食べられそうか?」
テーブルにキラさんがトレイをそっと置いて、こちらをじっと見る。
ふわぁ・・といい匂いがして、急にお腹が減ってくる。
「はい!あ、持ってきてくださって、ありがとうございます」
「・・ああ」
そういうと、テーブルの椅子を引いて、座るよう手で合図される。あ、はい、座ります。私が座ると、向かいにキラさんが座る。いや、貴方ここで食べるんかい。
トレイに乗っている小さな鋳物のお鍋を私の前に置いてくれる。
「熱いぞ」
「あ、はい」
蓋をそっと開けると、煮込まれたシチューのような物が入っている。お、美味しそう!
「いただきます」
手を合わせてからスプーンですくって、息を吹きかけつつ食べる。トロっとお肉が口で溶ける。
「お、美味しい〜〜〜!キラさん、これすっごく美味しいですね!」
顔を上げてキラさんを見ると、夕陽に照らされてキラキラ光る銀髪から、淡い水色の瞳が少し嬉しそうにこちらを見ている。一瞬、あまりに綺麗で驚いてしまって、体が固まる。
「・・そうか」
「・・はい・・」
「・・今日はすまなかった」
「へ?なんでですか?」
「・・・・結婚・・したかったかもしれないのに、止めた」
2口目を食べようとして、口を開けた私は止まった。
あ、それ・・理由があるんです。一身上の都合で言えないけれど・・。
「・・・いえ、止めてくれたおかげで色々考えられるし良かったです。キラさん、心配してくれてありがとうございます。今度は何かあったら相談するんで、お願いしますね」
「ああ」
ちょっとホッとしたのかな?キラさんも蓋を取って、食べ始める。
私も安心して2口目を口に入れる。あ〜美味しい!
「・・服」
「はい?」
「似合ってる」
「あ、ありがとうございます。こんな可愛いのあまり着た事ないんで、自分が着ちゃっていいのか?なんて思うんですけどね・・」
高校の文化祭で着た以来のメイド服に、自分としては気恥ずかしいわ、違和感ありまくり・・なんだよね。ちょっと胸元を摘んでみる。
「・・似合ってる」
「あ、はい、2回も言って頂いてありがとうございます。明日からこれを着て仕事するのか・・って、ちょっと気恥ずかしかったんですが、頑張れそうです」
ヘラっと笑ってキラさんを見ると、キラさんは静かにうなずく。うーん、言葉・・というか、会話を広げようぜ!と、思うけど・・まぁキラさんだしな。気を取り直して、ご飯を食べる。
キラさんは、こちらをまたじっと見てるので、ん?と首を傾けると、
「明日・・、朝起きられるか?」
「え、もしかして仕事って、朝早いですか?」
「早い」
「・・・・・えーと・・・、キラさん明日、出勤ですか?朝早いですか?」
「早い」
「あの・・、大変申し訳ないんですが・・・、ぜひとも同じ階に住んでいるよしみで起こして頂けたりとか・・」
「起こす」
「ありがとうございます!!!お願いいたします!」
あ、うら若い乙女が若い男性に起こしてもらうって、まずいかな・・。でも、この3日間散々起こしてもらったり、世話してもらったし・・今更か!・・そう思い直す事にした。目覚ましってないかなー・・。