黙して語らない騎士、大慌て。
キャンプから帰ってきて、一週間。
・・・やってしまった・・。
古い牛乳を、大丈夫かな?って思いつつ飲んだのが、まずかった・・。気持ち悪い。ムカムカする。吐き気があるけど、今日の書類だけは、団長さんに確認して提出しなきゃいけない・・。
提出して、確認してもらったら今日は帰ろう・・。
キラさんがトイレから出てきた青い顔の私を心配そうに見る。
「・・・休んだ方がいい」
「・・私もそうしたいけど、今日提出期限のある書類だけはやっておきたいんだ・・、ごめんねキラさん・・、心配かけちゃうけど・・、今日はそれだけやったら帰りますんで・・・・」
・・・自分の中に、こんな社畜魂があったとは・・。でも、あれは引き継いでない分だからな・・。
キラさんは真剣な目で、
「おぶっていく」
「・・・いや、キラさんの背中にリバースしたくないので、根性で歩きます・・・。気持ちは受け取っておきますから」
ごめんよ・・、本当にごめんよ。
心配するキラさんを横目に一緒に出勤する。うう、気持ち悪い。
詰所前で別れると、キラさんは何度も振り返って私を心配そうに見ていた。す、すみません・・。古い牛乳のせいです。
執務室の階段さえも辛い・・・・。
青い顔をして執務室へ入ると、団長さんが驚く。
「ナルさん、真っ青じゃん!!大丈夫なの??」
「・・・すみません、全然大丈夫じゃないので、この書類だけ確認して頂けたら、今日は帰ります・・・」
そっと書類を渡すと、ぐっと吐き気が来る。
慌ててトイレへ走ると、途中でニルギさんに会ったけど、トイレまでダッシュした。
・・・セーフ・・。
間に合ったよ、ちょっとスッキリして口をよくゆすいでから、執務室へ戻ると一斉にみんなが私を見る。
・・・・え?
何・・・???
ニルギさんが、静かに近づいてきて肩に手を置くと、
「ナル、今日は早く帰りなさい。体は大事にしないと」
「あ、はぁ・・・?」
ちょっとスッキリしたし、そのまま働いて帰ろうと思ったんだけど・・。ライ君は、私を心配そうに見つめて、
「ナルさん、今は無理しちゃいけない時期ですよ・・・」
ライ君の隣にいるフランさんが、静かに頷く。あ、そ、そう???仕事・・、まだ残ってるけど?団長さんは、私をじっと見つめて、
「団長命令です。今日は帰ってとりあえず病院行ってきなさい」
「あ、命令・・、珍しいですね。じゃあ、そこまで言うなら・・?お、お疲れ様です」
なんか・・皆、嫌に真剣な目つきだったな・・そう思って、家に帰る途中、病院に寄って診察を受けた。案の定、「古い牛乳なんて飲むな」と言われて、綺麗な看護師さんから整腸剤をもらった。
薬を飲んで、ベッドに入ると大分体が楽になってウトウトしていると、階段を駆け上がる音が聞こえて、ドアをバタン!!と思いっきり開ける音がして目が覚めた・・。
キラさんが、息せき切って部屋へ入って来るので、目を丸くする。
「・・・え??キラさん、お仕事は???」
「ナル・・」
「は、はい・・・?」
ど、どうしたの??何かあったの??一気に緊張が走る。
「・・・赤ちゃん」
「・・・っへ?」
キラさんの口から、全く聞いた事のない単語が出てきて、首をかしげる。なぜ、赤ちゃん・・???疑問符が浮かぶ私にキラさんが私の側へやってきて、ぎゅっと抱き寄せる。
「・・・一人の体じゃないから・・」
「え?私の体に誰かいるんですか???」
キラさんが、私をそっと離して不思議そうに見る。
「・・・ニルギ達が、そういった・・」
「え・・、あ!!もしかして、吐き気があったんでトイレに駆け込んだの見て、妊娠したと思ったのかな??・・すみません・・、あの、古い牛乳を昨日、飲んじゃって・・、ただの食あたりです・・・・けど」
あと病院へ行って、念の為調べてくれた上で食あたりという診断でした。
キラさんは、ホッとしたようなちょっと残念そうな複雑な顔をしていた。そんな顔もできるんだ・・、初めて知った。あ、そうか・・でもキラさん心配してくれたのか・・、嬉しくも思ってくれたのかな?そう思ったら、頬がにやける。
キラさんの手を握って、見上げるとキラさんはまだ心配そうに私を見つめる。
「・・心配かけてごめんなさい。でも、残念だけどえーと、赤ちゃんはまだですけど・・いずれ、その・・、来てくれたら嬉しいな・・とは思ってますよ・・」
うう、ちょっと照れ臭い。
キラさんは嬉しそうに笑って、私を見るけど・・、顔が赤いと思うので勘弁して欲しい。キラさんは、私の頬をゆっくり撫でると、頬にキスする。キラさんの瞳を、私もじっと見つめるとキラさんはにっこり笑って・・
「じゃあ、今・・」
「いや、何が???!!!」
思いっきり部屋で叫んだ私は、何一つ悪くない。
そう思っている。