黙して語らない騎士の口を動かすお仕事です14
団長さんが扉の向こうにいるキラさんに「入れ」と声をかけるとキラさんが無表情で部屋へ入ってくる。私はソファーから立ち上がって、キラさんを見上げると、無表情だけど心配している・・ような気がする。
「ウルキラ、彼女と結婚する事になった。書類をすぐに用意してくれ」
「嫌です」
間髪入れずにキラさんが返事する。
「・・・・へ?」
思わず声が出て、澄ました顔の団長さんを見る。すげえ、ポーカーフェイス!!ピクリともしない。団長さんは、ソファーに座ったままキラさんをじっと見る。
「・・彼女と、今語り合い、運命の人と確信したにもかかわらず、横槍を入れるのかい?」
「う・・???」
思わず顔が赤くなってしまう。
う、運命の人???あ、そっか・・一部しか知らない・・って言ってましたね。
キラさんは苦虫を潰したような顔をする。
ツカツカと歩いてきて、私の肩に手を置くと、
「彼女は、まだこの世界に来て、日が浅い。結婚は無理だ」
「・・・・それはお前の考えであって、ナルさんの考えではないだろう?」
そう言われて、黙ったキラさんを団長さんはじっと見ている。
・・・めっちゃ煽るなぁ〜。
いじってるな〜。
キラさんは、私を見ると
「本心か?」
「え?」
「本心から結婚したいのか?」
「え、えっと・・・」
り、理由がありまして・・・
でも、多分、今、私の一存では説明できない状況でして・・。
どうしようかと思って、団長さんをちらっと見ると、キラさんは、さっと私の手を取り、
「失礼します」
そう言って、部屋を出て行こうとする。
「え、ちょ・・」
慌てて振り返り、団長さんを見ると、めちゃくちゃ笑って手を振ってるしーー!!!!おおーい、私の人権と尊厳と安心で安全な生活の保障ーーー!!!??
バタンとドアが閉まって、キラさんはどんどん前へ進む。
「き、キラさん・・・!!」
私は思わず声をかける。
ちょっと待ってくれ!せめて、その長いコンパスの足幅と、私の歩幅が違うのを説明させてくれ!!ハーハーと息が上がって、ギュウッと手を握ると、ようやく足を止めて、こちらを見た。
「・・・余計なお世話だった・・か?」
キラさんは、静かな瞳で私を見る。
・・・このイケメン・・ずっるいなぁ!
そんな風に言われて、はいって返事ができるか!!
「・・・余計ではないです、私もキラさんに相談してからでも良かったかな・・て思いました。今ですけど」
「・・・そうか」
あ、キラさんのいつもの返事だ。
そう思って、じっとキラさんを見る。
淡い水色の瞳が、ちょっとだけ笑っているように見える。
なんだかその表情を見て、私もほっとする。
「・・あ!ただ、仕事はどうしようかなー・・とは思ってます。異界人って、なんか雑に扱われるか、さらわれちゃったりするみたいですし・・」
「・・・仕事・・・」
「危険な時もありそうだし、住む場所も適当には決められないし・・」
「住む場所・・」
私もキラさんも、思わず考え込んでしまう。
この世界のことを何も知らない私と言葉の足りないキラさん・・手詰まり?
うーんと、二人で考えていると、
「じゃあ騎士団で、とりあえず働けば〜?」
振り向くと、笑顔の団長さんがこちらへ歩いてくる。
「騎士団の宿舎に寮もあるから、住み込みで働いてくれると、助かるなぁ〜!」
「え?い、いいんですか?」
「もちろん!・・・・その方が安全だし?」
「・・・・なるほど」
確かに、人権も尊厳も安全保障もない身だけど、異界人保護派の騎士団に身を寄せていた方が安心だろう。・・・結婚の問題は、おいおい考えるとして、今は仕事とお金と明日のご飯が大事だ。
考え込んでいると、団長さんは私の肩に手を置いて、耳元で囁く。
「・・・それに、近くにいれば、もっと愛を深められるだろう?」
「ひっ・・・・」
低く掠れる声に、顔が真っ赤になる。
思わず体が固まると、キラさんは団長さんの手を払いのけて、私をキラさんの背中に隠した。あ、ありがとうございます・・。とりあえず就職先は決まった・・。ようやく一安心だ・・。