黙して語らない騎士の口を動かすお仕事です13
団長のラトルさんは、面白そうに笑いながら私に机の横にあったソファーを促す。
私は、ちょっと警戒しつつそっとソファーに座る。お、フカフカだ。
「・・・あの、手なづけた・・とは?」
聞き間違いでなければ、そう聞かれたはずだ。
「いや、そのまんまだよ。ウルキラは私より強いし、実力もあるんだけど・・あの無表情だろ?何度かウルキラも、異界人を保護した事はあるが、手を繋いで部屋へ入って来た事は初めてだ」
「・・・・はぁ・・」
ものっすごい間抜けな顔で聞いてしまったかも。
「いや・・、今回初めて私は馬に乗って来たんで、体がガタガタでして・・、それもあってキラさんは、手を繋いで来てくれただけだと思いますよ・・・?」
「キラさん・・・?」
「そう呼べと言われたんで・・変ですか?」
団長さんは、それはそれは面白そうな顔をしていた。
美形の笑顔って、破壊力すごいな・・・。団長さんは机の上にあったお茶を入れて差し出してくれた。い、頂きます。
「・・・・ふむ。あいつがねぇ・・・」
手に顎を当てて考えているだけで様になるなぁ・・そんな事を思いながらお茶を一口飲む。あ、美味しい・・
「それより、私と結婚してもらえるかい?」
ブハッと、思いっきりお茶を吹き出した。
「は、はぁあああああ???!!!」
「驚くのも無理はないが・・・、異界人のこの世界での立ち位置は、ウルキラに聞いたかい?」
「騎士団に見つからないと、売られる・・ことくらいしか」
団長さんは、ハーッとため息をつくので、私はまた不安になる。だって、キラさん・・・無言だし。聞かないと答えてくれないし・・。
「この世界はね、異界人は物として扱われる。つまりは人権がないんだ」
「人権・・・」
「特殊な力を持っている・・と認識されているが、攫われても、暴力を受けても、売られても、国に惨状を訴えても、そもそもこの世界の人間じゃないからといって受け付けないんだ・・。ずっと国にはどうにか人権を保障しろって言ってるがね・・。ここでの異界人は、まったく人権がない。尊厳もない。」
「な・・・」
言葉にならない・・・。いきなり来て、売られたりしても仕方ない?
「・・で、でもどうやって異界人ってわかるんですか?だって、私・・みなさんと同じような姿、形してますけど・・」
私は自分の体を見回す。
「あ〜、そうだよね・・。こっちの世界ではオーラって言うのかな・・人の体から淡く出ているんだ。私達は見えるけど、君達異界人は見えない。それで、我々は君達を異界人だと見分けている」
「はぁあああ・・そうだったんですね」
自分の格好を見てキラさんは判断したと思っていたけど、私の体からオーラが出てなかった事を指差したのかもな・・。出会った時を思い出す。
「それで、結婚だ。一時的でも、書面上でも結婚した・・となると、不思議な事にオーラが出る。そして別れたとしても、この世界の人間になった・・と認められ、人権と安全を得ることができる」
「なるほど・・」
それで、突然のプロポーズ・・。
ようやく腑に落ちた。いや、それなら説明を先にしてくれ・・。
「ただ、これは上層部の一部の人間しか知らない事だ。異界人の保護を求めている派閥と、使えるものは使いたい・・という派閥が戦っている最中でな・・。我が騎士団は保護派だが、使いたい派閥に目をつけられると面倒だ・・。秘密裏に結婚して、生活に慣れたら離婚して、一人で生きていけるようにしている。まぁその辺に拘るなら、他の手を考えるが」
なるほど・・・。
それでキラさんは、ちょっと辛そうな顔をしていたのかも・・。
「もちろんこの結婚の事は、私と君だけの秘密だ。外部に漏れると、君の身の安全も保証できない」
「・・・わかりました・・。」
俄かには信じ難いが、売られる・・と言っていたキラさんの言葉を思い出すと、信ぴょう性はある。
「・・結婚のお話、お受けします。すみませんが、しばらくよろしくお願いします」
「ナルさん、即決だね〜。結構迷う子いるのに」
「これ以上お世話になるのも悪いですし、早く生活できるようになりたいので」
「なるほど、いい心がけだ。では、一旦ウルキラを呼ぶか・・、あいつ扉の外で相当心配していると思うからね」
そう言うと、団長さんはまたも面白そうに、扉を見る。
・・・この人、いい性格してるな・・・。