黙して語らない騎士の口を動かすお仕事です10
少し遅い朝食を食べてから、川沿いを馬でまた進む。
林を進んで行くと、時折海が木の間から見えた。
「キラさん!あれ、海ですか?」
「ああ、明日着くシーヤはもっと海が近い」
「へぇ〜〜楽しみだなぁ」
「・・・・・・・・そうか」
なんだかキラさんの声が重い・・・?
「キラさん、シーヤって・・怖い所ですか?」
「・・いいや?なぜだ?」
「うーん・・、なんかいつもの返事じゃなかったような気がして・・」
「・・・・そうか、シーヤは確かに気をつけないといけない場所はあるが、活気もあって治安もいい。安心してくれ」
「あ、そうなんですね。それは良かった」
じゃあ、私の気のせいかな・・?
そう思い直して、また木の合間から見える海を見る。
「・・・ナル・・・」
「はい?」
振り返ってキラさんを見ると、無表情だけど水色の淡い瞳が、なんだか揺れている。
「何かやっぱりあるんですか?」
「・・・・・いや、すまない、何でもない・・少し、急ぐぞ」
「あ、はい」
お腹に回されている腕に、少し力がこもる。
馬にかけ声をかけると、馬の歩く速度が少し早まる。
どこか引っかかるものはあったがキラさんは何も言わず、昼は携帯食を食べて休憩して、夕方着いた町の宿に泊まる事になった。
夕食の時間を、心待ちにしていた私は食堂へ行く。
メニュー表・・そういえば読めるかな・・。
お、読める!・・っていうか、この世界って、言葉も文字もわかる!今気付いた!!すごい遅いけど!!
「キラさん、このマッテリ風バンチャ・・って何ですか?」
「ティルトがここだが、その隣のソルニという国の地方料理だ。魚だ」
「・・・魚!辛くないですか?」
「どちらかというと、酸味が効いているな」
「じゃあ、これ食べてみたいです。あ、お金は働いたら返しますので、ちゃんと覚えておいて下さいね」
「お金は経費で落ちるから大丈夫だ」
「・・・・・・キラさんが、経費・・なんか、面白い・・・」
いやだって、王子様みたいな顔してる人が経費・・って、違和感ありまくりなんだもん。不思議そうな顔をしつつ、キラさんは注文してくれた。
私は、ニヤニヤする顔を誤魔化すために、店の中の人の様子を見る。
そういえば・・と、食べている人達の髪をみる。
皆、伸ばしていても肩くらい・・。肩甲骨の辺りまで伸ばしている私は、確かに長いな。私は髪の毛先を指でクルクルと巻きつける。
「シーヤに着いたら、髪・・切ろうかな」
「なぜ?」
「いや・・、生活するのに手一杯になりそうだし、確かに短いと手入れは楽なんですよね・・」
キラさんは、じっと私の指先に巻きつけた髪を見て、
「・・・綺麗だから、切らないでいいと思う」
「・・・へ・・」
すっごく真面目な顔で突然言うものだから・・、一拍おいてから、顔が赤くなった。イケメンの「綺麗」って、最強だな。
「・・・顔が赤いが」
「・・すみません・・、今追求しないで頂けると、ありがたいです。急に褒められて、ちょっと動揺してるんで」
キラさんは、しばらく黙って・・
「・・・髪だけではない」
と、またも真面目な顔で言うものだから、私は両手で顔を隠した。
やめてくれ!!イケメンの美辞麗句など、私の頭ではキャパオーバーだ!!!
どうにかこうにかお礼を返した私は、心臓が痛かった・・。
「・・そういえば、キラさん、野菜・・頼みましたか?」
「・・・・・・」
「私の料理に入ってたら、分けてあげますね」
「・・・いや、結構だ」
「遠慮は無用です」
私は少しでもやり返したくて、メニュー表に野菜っぽいの書いてないかな?!と、読みまくった。・・・結局はわからなかったので、私の魚料理についていた野菜をシェアした。
キラさんは、大分苦戦していたが、ちゃんと食べた。