黙して語らない騎士のお兄さん。
今日は午前中から、訓練をするらしい。
団長さんもラフさんもニルギさんも行ってしまった。
私とライ君、フランさんで書類仕事をする事になった。訓練場を見に行きたいけれど、見るだけで心臓に悪いし・・、でも心配だし・・と、ちょっと悩ましい・・。
ちらっと窓から訓練場を見る。
フランさんと目が合うと、
「今日は個人練習ですから、あんなに集中砲火のような攻撃の訓練ではないですよ、大丈夫」
「・・・・すみません、お仕事中なのに」
「お仕事でも気になるのは当たり前ですよ。大事な人なんですから」
思わずフランさんの言葉に顔が赤くなる。
フランさんもそう言う事いうんだな・・。フランさんも窓の外を見る。
「ずっと平和で・・、騎士団の練習が無駄であればこれ以上の事はないんですけど」
「フランさん・・」
ポツリと話すフランさんの横顔はどこか寂しそうだ。でも・・そうだよね、騎士さん達には申し訳ないけど、ずっと平和でいて欲しい・・、元気でいて欲しい。
ライ君は、書類をサクサク整理しつつ、
「本当です。あの無駄に余る体力をこちらで見て頂けるだけで十分なんで、戦争なんて御免です」
あら・・、それってお兄さん心配してるってこと?
フランさんと顔を見合わせて笑ってしまう。昨日の練習で、ちょっとライ君も変わったのかも?なんだかくすぐったい気分で、午前中は仕事をした。
お昼の鐘が鳴って、私は食堂に行きがてら医務室へ寄った。
医務室へ静かに入ると、お医者さんはちょうどお昼を取りに行こうとしたらしい。戻るまで、様子を見ている事を話すと足早に食堂へ向かって行った。
私はルーンさんのベッドに近寄ると、静かに寝ていた。
よしよし、ちゃんと寝ているな。
額のタオルを一度取って、冷たい水に浸してよく絞ってまた乗せた。
魔術師も魔力が切れると、こうして倒れちゃうんだな・・、キラさんなんか魔術も使うし、剣もすごいけどどうなってるんだろ・・。そんな事を考えていると、ルピスさんが静かに医務室へ入ってきたので、小声で挨拶した。
「お疲れ様です」
「ああ、様子を見に来てくれたのか・・ありがとう」
「いえ、私も今来たばかりです」
小さく笑うルピスさんは、キラさんに似ているなぁ〜って本当に思う。
「・・・ルピスさん、キラさんにやっぱり似てますね・・」
言葉が思わず出てしまった。あ、やばい・・。あんまり直接言わないようにしてたのに・・。ルピスさんは、少し驚いて・・その後小さく微笑んだ。
「・・そうかな?それなら、私は嬉しいが、ウルキラは違うかもな」
「なんでですか?」
「捨てられたのを、助けることができなかった」
「でも、それは・・理由があるんじゃないですか?」
この優しい笑みができる人に、そういう事はできないと思う・・。
ルピスさんは小さく首を振る。
「・・助けられなかったのは、事実だ。父が亡くなるまで会いにも来られなかった・・」
「でも、様子は見に行ってたんでしょう?」
私がそういうと、じっと顔を見る。
「・・・ニルギ殿か・・・」
「・・はい、知ってましたけど、口には出さなかったみたいです」
「本当にあの方に助けてもらって、良かった・・」
そう言ってルピスさんは近くにあった椅子に静かに腰掛けた。
「・・・助けたかったけれど、私も魔術師として父に厳しく育てられてね・・、いつ捨てられるんだろうってよく思っていたよ・・。シーヤへ移ったと聞いた時は安心したよ」
「・・それは・・・」
ルピスさんは・・?そう思ったけど、言葉にならなかった。
ルピスさんは、ルーンさんの顔を見る。
「・・弟を頼む・・。私にそんな事を言う権利はないけどね」
「そんな事・・ないです!」
ルピスさんが嬉しそうに笑う顔は、やっぱり似ているけど・・お兄さんだなって思った。