黙して語らない騎士は、寡黙すぎる。
緊迫の演習が終わって、見学していた私はようやっと力が抜けた。
いや、演習してたのはキラさん達なんだけど。
団長さんやキラさん達は、王都の騎士さんや、魔術師のルピスさん達と、演習での課題を話し合って、次回の訓練の調整をするらしい。は、働き通しでない??
一旦執務室へ移動するというので、私はお茶を淹れるために先に戻ってお湯を沸かす。
ケトルを見ながら、知らずため息が出る。
・・あんな演習、本当に怖い・・。
滅多に魔術を使う魔物はいないらしいけど、火を吹くとか・・全然想像してなくて、いつもキラさんは早く帰って来てくれるから、あんな恐ろしい事をしてるなんて思わなくて・・。
団長さんの「命はいつまでもあるわけじゃない」っていう一言が、ずうーんと頭に落ちてくる。わかってる・・わかってるよー!!いきなり現実が突きつけられて、怖くて足がすくんじゃったんだよ!
ルピスさんの事もあるのに、あんな訓練に驚きすぎて・・いや、あんなん私の世界で見たって動揺するわ。後ろから給湯室の扉が開いた音が聞こえて振り返ると、ニルギさんが立っていた。
「お疲れ様、見ていて疲れたろ?」
「に、ニルギさん〜〜〜〜〜!!!」
「あんな演習、一年のうち一回あるかないかくらいだ、安心しろ」
「え、でも確実に一回はあるんですよね??現場はもっとハードな時もあるんですか??」
私は、思わずニルギさんに詰め寄ってしまった・・。
だって、だって、キラさん・・・心配だし。
ニルギさんは、小さく笑って私の頭を撫でてくれた。
「・・・ウルキラは幸せ者だな」
「・・・・キラさん・・、いつも当然のように帰ってくるから・・、全然わからなくて・・」
「そうだな、あいつナルに会いたい一心で帰ってくるしな」
「ああいう事・・・、現場ではあるんですか?」
小さくニルギさんは頷く。
「稀ではあるが、ある・・。だが大丈夫だ」
「・・何でですか?」
「会いたい奴がいるんだ。絶対帰ってくるぞ、あいつ」
キラさんの執念にも満ちた顔が思い浮かぶ。・・・確かに。
「以前、ナルが誘拐された時あったろ?」
「あ、はい・・」
「あの時、相当な人数がいて、結構強かったが全部のしたのはウルキラだ」
「え?!!!今、初めて知りました!!え?そんなに強い人達いたんですか?私、2人しかいなくて・・」
今になって驚愕の事実。
あ、そうだ・・汗も凄かったし、息も上がっていた・・。さっきは涼しい顔をしていたのに・・。
「・・・キラさん、ずるくないですか?」
なんか・・その話を聞いただけで、胸がぎゅうっと痛くなるけど、嬉しいんですが・・。ニルギさんは、ちょっと拗ねた私の顔を見て、小さく微笑んで頷く。
「だから、大丈夫だ」
「・・・はい、ありがとうございます」
気にかけてくれて、じんわりと胸が温かくなる。
ニルギさんに、にっこり笑った。
「お茶菓子・・、先に食べていいので、持っていくの・・手伝ってもらっていいですか?」
「もちろん。お菓子・・、クッキーあるか?」
「はい!ニルギ様のお気に入りのクッキー、もちろんご用意してございます」
「うむ、よろしい」
二人で笑いあって、トレイにお茶とお菓子を持って執務室の扉の前へ行くと、ノックする前にキラさんが扉をあけてくれた。
「ありがとう、ございます・・」
「ああ」
なんだか照れくさくて、ちょっと俯くとキラさんがそっとトレイを持って、テーブルまで持っていってくれた。す、すみませんね・・。またお礼をいうと、キラさんが優しく笑ってくれるから・・、さっきニルギさんに聞いた話もあって、なんだか抱きつきたい気分だったけど、我慢した。
・・・・なんか、今日は私がキラさんみたいだ。そんな事を少し思った。