黙して語らない騎士、一旦休憩。
しばらく魔術の訓練をしていたけれど、魔術師さんの魔力が切れそうな頃合いで号令が掛かって、ようやく演習が終わった。周りで見ていた騎士さん達のため息と、私のため息が重なった。
・・・良かった・・、とりあえず終わった。
まだ私は胸がドキドキしているけれど、団長さんやキラさん、側で補佐していたニルギさんは涼しい顔で、色々話している・・、やっぱりすごいんだな・・。そう思うけれど、私みたいに戦いをほとんど見たことのない者としては、心臓が縮みそうだった。いや、確実に縮んだ・・。
隣で見ていたライ君と目を見合わせて、一緒に息を吐く。
「ドキドキしたね・・」
「本当ですね。こんなに激しい演習、普段はしないでしょうし・・。騎士の皆さんも緊張感が凄かったでしょうね・・」
「そうだね〜・・、お兄さん凄いね」
「・・・・・今日は、そうですね」
ライ君がちょっとにやっと笑う。
うんうん、いいなぁ男の子兄弟・・。
私は、訓練場に立つ・・もう一組の兄弟を見る。
お互い涼しい顔をして話している姿は、本当にそっくりだなぁって思っちゃう。どこでボタン・・掛け違えちゃったのかなぁ。私は、またもどかしい思いに胸がもやっとする。
「休憩に入る!15分したら、もう一度違う隊形で訓練する!」
団長さんの言葉で皆、一旦休憩するため水を飲みに行ったり、武器の調整をし始める。私は、思わずキラさんの所へ駆け寄りたくて・・、でも、まだ団長さんやラフさんと話をしているのを見ると、邪魔しちゃいけないかな・・と思って。足が迷って、動けない・・。
すると、ルピスさんが側に来た。
あ、あれ?!大丈夫ですか???
「怪我はないか?」
「あ、大丈夫です!!守って下さったんですよね?ありがとうございます!!」
頭を下げてから、にっこり笑うとルピスさんは、小さく微笑む。
・・・そういうとこ、本当に似てる。
「ルピスさん・・、お話しなくて大丈夫ですか?」
「ああ。今から・・」
そう、ルピスさんと訓練場を見ると、キラさんがこちらへ来る。
私がドキッとしてルピスさんを見ると、離れようとしたので・・思わず、ルピスさんの服の袖を掴んでしまった・・。
「・・・ナルさん?」
「あ、あの・・ええと・・ですね、お、お礼を・・お、夫も・・」
うぁあああああああ、自分で言っててめちゃくちゃ恥ずかしい単語言った。でも、もっともらしい理由がこれしかない!
「ナル」
服の袖を掴んでいる私を見て、驚いたんだろう。
キラさんが小走りでこちらへ来る。
「キラさん、あ、あのルピスさんがさっき守ってくれて・・」
「ああ」
キラさんはルピスさんを見る。
ルピスさんもキラさんを見る・・。
「ありがとう・・」
キラさんが静かにいうと、ルピスさんは小さく笑って、
「ああ・・」
そう返事をする。
そ、それだけでいいの?何か・・何か・・こう、さあ?
すると後ろから、ラフさんもやって来た。
「すみません、ルピス殿・・休憩後の練習の話をしたいのですが・・」
「ああ、今行きます」
仕事じゃ仕方ない・・。
そっと手を離すと、ルピスさんは私を見て少し眉を下げて笑う。
「・・・ありがとう」
「いえ・・」
なんとなく、キラさんに話せたお礼を言ってくれたような気がした。
静かにラフさんの元へルピスさんが向かっていく姿をぼんやり見てから、キラさんを見る。
「キラさんもありがとう・・。あんな訓練するんだね・・、すごく恐かった・・、無事で良かった」
なんだか言いたい事はいっぱいあって、どうにもできない自分が歯がゆいし、あんな怖い練習をしているキラさんが心配だったり、無事で良かったと思うのに・・・言葉が思い浮かばない。
キラさんは、小さく笑って頭を撫でてくれた。
「・・・帰ったら、甘えたいです・・」
私はキラさんを見上げてぽつりと呟くと、キラさんは少し驚いた顔をして、すぐに嬉しそうに微笑む。その姿に、またちょっと胸が痛くなった。