黙して語らない騎士の兄。
私と魔術師のお供としてきたルーンさん(とっても失礼な人)と、一触即発な所へ、ルピスさんが止めに入ってくれた。
まだルーンさんはこちらを睨んでいるけど、無視しよう。
今は、ルピスさんを見る方が先決だ!
ルピスさんは、少し迷ったようにしてから・・、
「・・ナルさん・・、」
「はい」
な、何だろう・・ルピスさんがこっちをじっと見るので、私も思わずじっと見てしまった。
「・・・野菜を」
「・・野菜・・・」
聞き返しちゃった・・。いかん、黙って聞こう。
「・・あいつは食べてるか?」
あ・・・
薄い紫の瞳が、迷いながら言ってる。
キラさんの事だ。
すぐにわかった。
野菜が嫌いで、なかなか食べないキラさん・・、みんな知っているけど・・。
みんな気にしない事を、この人は気にしてる。
私と同じように・・。
そう思ったら、あ、何だ・・・情、あるんだ・・そう思えてきて・・。
じわじわと嬉しくなった。
「無理やり食べさせてます・・ちょっとは食べるようになりましたよ」
笑って、ルピスさんに伝えた。
「・・・・・そうか」
ルピスさんは、名前を言わなくても伝わったらしい。
静かに微笑む姿は、キラさんにそっくりだった。なんだ・・すごく想ってくれてるんじゃん・・・。
「あの・・、声はかけないんですか・・?」
思い切って聞いてみた。
ルピスさんは、少し口を引き結んで・・、そっと首を横に振る。
「仕事はしっかりする・・。安心してくれ」
「・・・・でも・・・」
・・そうじゃなくて、そう言いたかったけれど、私があれこれ口を出す問題じゃない・・。というか、そう言われると何も言えなくなってしまう。後ろのルーンさんは、自分で置いてけぼりな感じに焦れているのか・・、
「ルピス様、そろそろお仕事へ・・」
「・・・ああ」
そういうとルピスさんは、ちらっと私を見る。
「失礼する」
静かに踵を返して行ってしまった。
・・・ルーンめ。
私たちの様子を見ていた騎士さん達は、大丈夫だろうかと声を掛けてくれて、大丈夫!って伝えたが・・、ルピスさんの気持ちを思うと、どこか気は重くて・・。
私は親とは疎遠気味だったし・・、こういう時、どうすればいいか分からなくて歯がゆい。・・きっとキラさんの事、悪くは思ってないはずなのに。
ちょっと複雑な顔をして食堂を出ると、ラフさんがちょうど歩いてきた。
「大丈夫か?眉間にシワが寄ってるぞ」
「気のせいだと思います・・」
まぁ、嘘ですけど・・。
眉間のシワを指でちょっと伸ばしてみると、ラフさんがハハっと笑う。
今日もイケメンですな・・。
どこかモヤモヤした気持ちを聞いて欲しくて、思わず呟く。
「・・・ラフさんは、親子の情ってわかります?」
「・・・王族のスペアみたいな俺だぞ?」
「・・・・・・・すみません」
「ナルの言いたい事は、少しはわかるがな・・。お互い言葉の足りない者同士だしな・・」
さすが。詳しい事を言わなくても、理解しちゃう王子!
私はラフさんを見上げる。
「・・・何か、何もできなくて歯がゆいです・・・」
「それは大丈夫じゃないか?」
「何でですか?」
「少なくとも、あそこにいる男は幸せそうだ」
そう言って指差す向こうに、訓練場で騎士さん達に号令をかけているキラさんを見る。
「人を一人幸せにできる事は、ある意味すごい事だ。今できる事をしっかりすればいい・・」
ラフさんが、静かに微笑む。
めっちゃ・・・いい人だな王子・・。メンチ切りあったのに。
「そうですね」
私も笑い返した。
そうだな・・。とりあえず、今日は帰ったらキラさんとゆっくりしよう。
あと野菜食べさせよう。
ルピスさんが安心できるよう、多めに。