黙して語らない騎士の口を動かすお仕事です9
体がものすごく緊張していたのが、わかる。
目をそっと開けると、うまく見えない・・パチパチと瞬きをすると、ようやく周囲が見えてくる。そこは川が近くに流れる平原だった。
よし、魔物はいない!確認した!!
「・・・・大丈夫か?」
「・・・・率直に言うと、めっちゃ怖かったです」
そう言って、後ろを振り返ると・・、キラさんの顔に血痕ーーー!!!!!
「キラさん!!!血!!!顔!血!!!!」
「さっきの魔物の返り血だ。俺のじゃない」
「・・あ、そっすか・・・でも、落とした方がいいですよね。って、ああーーーーー!!!」
「どうした?」
「・・・すみません・・、リュック・・めっちゃ抱えたんで、朝食・・多分潰れてるかも・・・・、食べられるかな・・」
いや、確かに怖かったから、不可抗力だけど・・だけどさぁ、キラさん・・めっちゃ食べる人なのに、中身ぐしゃぐしゃだったら嫌じゃない?
そう思っていたら、ククク・・と笑う声が聞こえる。
え?!
リュックの中身を確認しようと、前を向いていたけど、勢いよく後ろを振り返る。
口を手で隠して、じっとこちらを見ているキラさんと目が合う。
「・・・・笑いましたね?」
「・・・・いいや」
「いや、笑ってましたよね?隠さなくていいんですよ?」
「・・・・少しだけ」
「ほらー!!」
私が笑うと、キラさんは少しだけ目がニコリとする。
すこーーーーーーしね!!!
なんだかその様子が嬉しくて、くすぐったい気分だった。
そうして安心した途端に、私のお腹が勢いよく鳴った。
「・・・朝ご飯のお知らせです・・・」
ボソッと言うと、キラさんは口を隠したまま横を向いた。いっそ素直に笑え。
また今日も川の近くに座れそうな場所を探して、下ろしてくれた。
昨日、雨が降ったからだろうか・・、水の量が多い感じだった。
馬が美味しそうに水を飲むのを、ぼんやりと眺めていると、キラさんもついでのように、血がついていた所を洗い流していた。またその姿がかっこいいんだ・・・。
血を落として、タオルで拭いてるだけで様になるってなんなのだろう。
陽の光が、キラさんの綺麗な銀髪をキラキラと輝かせているからだろうか・・・。
私は、綺麗だなぁ・・とぼんやり見ていた。
彼女とかいるのかな・・
あ、待てよ?!彼女・・いるんじゃない!?なのに、2人とかで泊まっちゃっていいの?!大丈夫なの?なんか、いきなりこっちに来て、やっぱりパニックしてたんだなぁ・・そんな初歩的な事に気付かなかった・・・。距離感とか、狂ってるかも・・気をつけよう・・。そう、思っているとキラさんが馬の手綱を木に巻きつけて、こちらにやって来る。
「・・・朝食、食べるか」
「あ、はい・・えっと、予想通り潰れてましたが、中身は大丈夫そうです」
「そうか」
奇跡的に無事だったサンドイッチの中身は、今日は卵とサーモンっぽいのだった。肉より魚が割と好きな私は、感動した・・。脂っこくない料理・・・!!!2つあったけど、今回は完食できた。
「・・・今日は、食べられたな」
「魚・・結構好きなんですよ。今日のは美味しかったです!」
「・・・次の宿は、魚料理もあるぞ」
「え!!そうなんですか?うわーーー楽しみ!!」
キラさんがじっとこちらを見る。
「いや・・肉は美味しいけどね、量が多すぎてですね・・文句を言ってるわけではないんですよ?」
「ナルは・・・もう少し食べた方がいい」
「逆にキラさんは、なんであんなに食べられるんですか?」
「体を動かすと食べられる」
「じゃあ、そこに野菜も入れてください」
「・・・・・野菜・・・・」
「肉ばかりだと、体に悪いですよ?血液どろっどろになりますからね?心配になります・・・」
肉ばかりの食生活なんて、若いうちはいいけど、年取ったら危険!って、私の世界じゃあよく言われてたんだから・・。まぁ、一人暮らしの私の食生活は大変貧相だったんで、言えた義理はないが。
「・・・・心配?」
キラさんが不思議そうに見てくる。
え、なに誰かに心配された事のない食生活だったの?!
「今日は一緒に野菜食べましょうね!」
そう言うとキラさんの淡い水色の瞳が、少し遠い目をしていた。