黙して語らない騎士の口を動かすお仕事です。
今回もラブです。
糖分は、じわじわ増えていく予定です。
うちの近くには電車が通るんだけど、向かいの本屋へ行くには、その電車が通るトンネルを潜らなければならない。ちょっと昼間でも暗いし、怖い。でも、向かいの本屋は充実している‥。
大好きな本屋なので、新刊も出るし、トンネルを通って行く。
トンネルを抜けたら、そこは雪国だった‥って、話あるじゃない?
私は、なぜか狼の群れの中にいたんだ。
なにを言ってるかと思うかもしれないが、ありのままに言おう。
狼の群れの中だ。
灰色の毛並みをしている狼達が私を取り囲んでウーウー唸ってる。
きっと、突然現れた私に驚いているのだろう。奇遇ですね!私も同じです。
後ずさりながら、元来たトンネルへ戻ろうと後ろを見ると‥、
「まじかー‥‥」
森だよ!森。
そりゃ唸っちゃうね!
うん、うん、わかる!!
でも、安心して‥私、何もしないよ〜。
そっっと、そぉっっっっと、後ろへ後ずさる。あ、お願い右隣の狼さーん、動かなくていいよ?すぐどっか行くからね‥?ゆっくり後ずさり、木の茂みの中へ引っ込もうとした時、足元に落ちていた木の枝を踏む。
バキッ!!
「あ」
その音で、真ん中の狼がこっちへ飛びかかってくる。
さよなら人生。
私は、速攻で諦めた。無理無理、スローモーションで走馬灯見えた所で、何もできないから。
そう思っていると、私の右端の視界から、これまたスローモーションで銀色の剣が横から滑るように入ってきた。
「…へ?」
狼の首元に、思いっきり剣が入ると、スローモーションが解除され、かばうように濃紺のマントが目の前にいっぱいに広がる。尻餅をついて、見上げると‥めっちゃでかい人が立ってる。頭見えないんだけど…。
すると、低い静かな声が
「‥立てるなら、下がれ。茂みの中に身を隠せ」
的確な指示が来る。
「…あ、はい‥」
私は、震える膝をなんとか引きずって、後ろの茂みの中へ転がり込むようにダイブした。ポニーテールにしている長い髪が枝に引っかかるけれど、構うものか!
と、木の茂みの中から、ギャン!!と、鳴き声が聞こえて慌てて顔を上げると、マントをつけた人は、飛びかかって来る狼を蹴飛ばしたり、剣で殴ったり‥、あっという間に追い払ってしまった。
「すっご…」
ポカン‥と、口を開けてその光景に圧倒されていると、マントの人はこちらを振り向いて、茂みにいる私に向かってやって来る。あ、お、お礼…お礼を言わねば!
「あ、あの助けて頂いて‥ありがとうございました!!!」
お辞儀をして、マントの人の顔をようやく見るとびっくりした。
マントの人は、結構な長身だった。年は20代後半くらい‥?
銀髪で前髪が長めで、薄い水色の瞳がそこからチラチラ‥と見える。わぁ〜色が綺麗。ニコリともしない顔だが、ものすごく綺麗な顔だ。流し目なんてされたら、イチコロだろうな‥っていうくらい綺麗で、美形だった。
「‥‥お前は、異界人か?」
「‥‥異界人?」
「ここは、ティルトいう国だ。お前はここの世界の人間…ではないだろう?」
私の服装を指差す。
そうね〜‥お兄さんの着ている銀色の甲冑と比べたら、パーカーにジーンズにリュック姿は、どうみたってそうだよね〜。私もお兄さん見て、そう思ったもん。
「…多分、そうだと思います。あの、帰れたりは‥」
「しない」
「あ、ですよねー…」
ものすごく重要な事をあっさり否定したよ、このお兄さん。
私は遠い…遠い目をした。
あー‥帰れない…あー、そういう‥。どうすればいいんだよ…。
途方に思いっきりくれた顔をしたよ。
お兄さんは、私の遥か遠くを見た目を見て、ちょっと何かを感じてくれたらしい。
「‥…私は、ウルキラ・ディートリアだ。この近くの都市の騎士をしている」
「あ、ナルって言います‥。見ての通り、異界人です」
暗い森で、ひとまず自己紹介をしたのだった。