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・INORI・  作者: 曖昧 もこ
8/8

占術師・橋本昂祈【INORI/08】

◎人を惹きつける占術師・橋本昂祈を知る小説◎

INORI/08


「僕は今日ラッキーだな(笑」


橋本昂祈(以降、昂祈と呼ぶ)は笑顔を見せた。


梱包作業の研修を必死で受けているタツキと私だが

昂祈の「ラッキー」というまだ意味は分からない。


「新人が2人とも器用だからびっくり。

梱包を教える時間はもう必要ないね(笑」



なるほど、昂祈のラッキーとはこの事だった。


この人の魅力は的確さと笑顔だ。

私は他人様の長所を探すのが趣味でもある。



ふとタツキを見ると荒さはあるが、周りの従業員の作業を見てマネしながらせっせと梱包をしている。

見て盗む、まるで一昔前の板前修行のようだが覚えるにはきっとこれが1番の近道だろう。



緩衝材も様々な種類がある。 


風船のようなふわふわしたタイプ、昔からあるプチプチタイプ、そして藁半紙みたいな紙製の緩衝材(最近では紙の緩衝材も見るようになった)、透明のビニール袋、乳白色のビニール袋、完全に中身が見えないタイプのビニール袋…



液体系は1度透明のビニール袋に入れる、紙類と一切に梱包する場合には液体商材と紙系商材の間に紙の緩衝材をくしゃくしゃに折り曲げて入れる。


液体類の緩衝材にあえて紙製を使用するには理由があり、輸送中に於ける万が一の液漏れを防ぐ為だと言う。


紙の緩衝材が液漏れを吸収してくれるそうなのだが

私はてっきり、エコの一環として紙使用だと思っていたので緩衝材の奥深い世界に再び感動していた。



箱の種類も実に多種多様だ。

呼び方も、FO-07、XX-23、HM-55、LW-05…

まるで科学数式のようでさっぱり分からない。


普通に、S、M、Lではダメなのか…?



科学数式的な呼び方に完全に気を取られ手が止まってしまっていた私に昂祈が言う。


「桐山さん、無理に覚えようとしないで大丈夫。

スーパーで買い物した商品をマイバックに入れていくイメージをしてみてください(笑」


なるほど…ユニークかつ斬新だか凄く分かりやすくて関心した。確かに買い物した商品をマイバックに入れる時、無意識だが自分なりのルールがある。


重たいものは下、軽いものは上、液体類は1度ビニール袋に入れる、食品と洗剤類は別の袋にする。



昂祈の斬新な指導のお陰でスムーズに作業が出来るようになってきた。

単調な作業ではあるがこれがなかなか楽しい。



箱や緩衝材の選択に迷う時間をいかに短縮するか?

運送中の箱の中の状態をイメージする事も大事なんだなぁ…


梱包に一途な自分に気づき思わず笑ってしまった。



しばらくすると、

クラッシック音楽が控えめに流れている

静かな作業場に昂祈の声が大きく響いた。



「あっ!石森さん!それはダメだ。

教えてなかった僕が悪いけど、ハズフラだ!

一旦作業止めてください」


少し前まで穏やかだった昂祈は真剣な表情へと一変していた。しかし他の従業員らは一切動じる事なく黙々と作業を続けている。



みんなドライだなぁ…

まるでロボットみたい…



しかし突然の指摘にタツキはびっくりして箱の前で小さくなっている。


(タツキ!ファイト!!by 誓)



「石森さんが悪い訳じゃないから…桐山さんも一緒に見てください」そう言いながら昂祈はタツキにゆっくりと歩み寄った。


タツキが梱包していた箱の中を覗いたが商材が綺麗に梱包されていて一見何の問題も無い様に思えた。



「これはハズフラ、通称ハズマットフラグと呼びますがこのままでは出荷が出来ません」


「えっ?!これ出荷出来ないんっすか?!」

驚いたタツキは思わず叫んだ。



「箱の中の商材をひとつひとつ良く見て下さい。

食品とハズマットと呼ばれる可燃性の高い商品が

同梱されています」



昂祈に言われてひとつひとつ見てみたが、

乾燥ピーナッツとライターの補充用オイルが同梱されているが、

どちらも指示通り丁寧に梱包されている。



「何故ダメなのですか?」私は昂祈に聞いた。



「食品とハズマットと呼ばれる商材の同梱発送は禁止されています。なのでこの場合には2つの伝票を作成し別々に発送するので、ハズフラは少々手間が掛かります」



「別々…?」タツキが言う。



これまでネットショップを利用して来たが全く知らなかった、気づかなかった。



「ハズマットのアイテム数はたくさんあります、日々増えていますから覚える必要はありません。

可燃性=ハズマットと認識してもらえれば充分ですが最近では一部の化粧品のクレンジングオイルもハズマットに指定されましたよ(笑」


「クレンジングオイルも?」

私は思わず昂祈に聞き返した。


クレンジングオイル…毎日使っているがこれが

同梱危険度が高いとは…



「ハズフラは割と頻繁にありますよ、

梱包作業中にハズフラが発生した場合には箱を閉じずにこの赤い旗を箱に差して下さい(笑」


そう言いながら昂祈は作業台の脇にあった筒の中の

真っ赤な旗を1本取り出して私たちに見せた。



「かわいい旗ですね(笑」私は昂祈に言った。



それはまるでお子さまランチのライスの上に、

ちょこんと差してある三角形の旗を

そのまま大きくしたようなかわいらしい旗で、

持ち手はカラフルなストローで出来ている。


そして旗の中央には

「ハズフラ」と黒のマーカーで書かれていた。



「かわいいでしょ?みんなの手作りです(笑」


昂祈が旗をちょこっと振りながら笑った。



的確さと笑顔。

無邪気さと器用。


一緒に頑張って行きたいと思える人たちがいる、



そして

真っ赤な三角の旗は私にエールをくれた。



next chapter→【INORI/09】

・登場人物・


橋本 昂祈 Akinori Hashimoto(28歳・独身)

→世界一のギタリストを目指していたがある人物との出会いから占術に魅了され、沖縄で有名な占術家がセミナーを開催するという情報を得て急遽沖縄の浦添へと向かった。家元と呼ばれる占術のセミナーは橋本を更に夢中にさせ「占術と祈り」の密接な繋がりに興味を持った。占術とは相手の心を真摯に学び、己を深く知る為のものであり、幸せを願う事だけでなく突然この世を去った兄と繋がる事が出来る唯一の方法が祈りだと気づく。この気づきをきっかけに次々と奇跡が訪れるようになり、東京に戻った橋本は桐山 誓、石森 健騎と出会い本格的に占術師として活動する事を勧められ対面占術をメインとした占いカフェバー

【REZAR】(レサル)を新宿にオープンさせる計画を始める。REZARはスペイン語で「祈り」



桐山 誓 Chika Kiriyama (37歳・独身)

→長年勤めていた会社が吸収合併される事になり転勤を命じられるが辞退して退職した。この時2年交際していた男との別れも訪れ試練の日々を送る中、橋本と出会い占術の魅力を知りやがて夢中になっていく。



石森 樹騎 Tatsuki Ishimori (23歳・大学中退) 

→左手首に星のタトゥーを入れている。両親が離婚し2人の弟たちを支える為大学を中退し派遣社員となる。桐山とは同期。趣味はビリヤード。

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