占術師・橋本昂祈【INORI/07】
◎人を惹きつける占術師・橋本昂祈を知る小説◎
INORI/07
私は生まれてから37年経過したが、
「誓ちゃんは何でも出来るよね!」幼い頃から周囲の人たちから言われて来た。
自画自賛する訳ではないが、どんなジャンルでもチャレンジすればある程度のレベルではまでは確実に行き不思議な事に結果も出せる自分は確かにいた。
だから器用な印象を持たれてしまうのだが、そんな私だってただの人間、苦手なジャンルはある。
それはズバリ恋愛なのだ。
少し前まで2年交際していた男がいたが別れた。
男に甘える事が出来ず、いや違う。甘える方法が全く分からなかった。
「誓ちゃんは、俺が居なくても大丈夫だね」
これまでの恋愛でこのような内容の事を言われ、
私の前から去って行った男が何人いただろう?
必要とされたい、愛されたい。この気持ちは私にもある。が、大好きな人には私といる時は楽しく過ごして欲しい、絶対に迷惑掛けたくない。ずっとそう思ってきた。
そしてこんな私を象徴する悲しいエピソードがある。
私はウォーキングが好きで休日に横浜から湘南まで歩いたが帰りに足の痛みが激しくなり、止むを得ずタクシーで帰宅そのまま整形外科で診てもらったが大事には至らず、湿布を処方されて終わった。
この時交際していた男はいたが一切を言わず、全てが落ち着いてから報告したら怒られたのち、激しく落ちこまれた。
「どうして俺を呼ばなかったの?
俺、誓ちゃんを車で迎えに行きたかった…誓ちゃんを助けたかった…他の誰かに助けてもらったの?」
最終的には他の男に助けを求めたのでは?
という疑惑まで持たれてしまった。
結局この件が互いの痼りとなりやがて別れた。
泣くに泣けないさらりとした恋愛の終わりだった。
ボロボロに泣いてすがってみたかったが、
やはりここでも大好きな人には迷惑掛けたくない。そんな思いが強く働きかけてしまい、黙ってこの恋の終わりを見届けるしかなかった。
私には恋愛は向いてない。
そう思ったら胸がすっと軽くなった。
「キリヤマさん!大丈夫ですか?」
タツキが心配そうに顔を覗き込んできた。
「ごめん、緊張しすぎて(笑」
私とタツキのやり取りを見て、橋本昂祈が笑いなが言った。
「それでは今僕がやったように梱包作業を進めてください」
え?! 私…全然見てなかった、どうしよう…
過去に浸りすぎた…(笑
すると橋本が
「桐山さんそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、もう1度教えますから見ていてください」
「すみません!ありがとうございます」
橋本の綺麗な手で商材が梱包されていく無駄の無い動きに圧倒された。
なんて美しいのだろう…
ふと見ると、タツキは楽しそうにテキパキと梱包作業をしている。ここにも器用な人がいた。
無邪気さと器用。
この組み合わせが凄くおもしろいと思った。
これからどんな毎日になるだろう?
そう思えただけでも2人に感謝してる、
ありがとう。
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・登場人物・
橋本 昂祈 Akinori Hashimoto(28歳・独身)
→世界一のギタリストを目指していたがある人物との出会いから占術に魅了され、沖縄で有名な占術家がセミナーを開催するという情報を得て急遽沖縄の浦添へと向かった。家元と呼ばれる占術のセミナーは橋本を更に夢中にさせ「占術と祈り」の密接な繋がりに興味を持った。占術とは相手の心を真摯に学び、己を深く知る為のものであり、幸せを願う事だけでなく突然この世を去った兄と繋がる事が出来る唯一の方法が祈りだと気づく。この気づきをきっかけに次々と奇跡が訪れるようになり、東京に戻った橋本は桐山 誓、石森 健騎と出会い本格的に占術師として活動する事を勧められ対面占術をメインとした占いカフェバー
【REZAR】(レサル)を新宿にオープンさせる計画を始める。REZARはスペイン語で「祈り」
桐山 誓 Chika Kiriyama (37歳・独身)
→長年勤めていた会社が吸収合併される事になり転勤を命じられるが辞退して退職した。この時2年交際していた男との別れも訪れ試練の日々を送る中、橋本と出会い占術の魅力を知りやがて夢中になっていく。
石森 樹騎 Tatsuki Ishimori (23歳・大学中退)
→左手首に星のタトゥーを入れている。両親が離婚し2人の弟たちを支える為大学を中退し派遣社員となる。桐山とは同期。趣味はビリヤード。