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・INORI・  作者: 曖昧 もこ
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占術師・橋本昂祈【INORI/04】

◎人を惹きつける占術師・橋本昂祈を知る小説◎

INORI/04


エレベーターを降りるともうそこは広い現場で、高い天井には風力発電所にあるような4枚の大きなプロペラがゆっくりと回っていた。

そして、私たちが降りたエレベーターを正面にして両サイドの長い壁にはメタル製の棚が設置され奥まで続いている。棚の仕切り板ごとにカラフルな商材がびっしりと詰め込まれていて、各棚はA〜Zのアルファベットで分類されているのが見えた。


右壁側付近には畳4枚程の大きな作業台がエレベーターと並行して手前から5つ並び、それぞれの作業台で6〜8名位の従業員が必死に商材を箱に詰めていて、それらを取り囲むように堆く積まれた風船のような緩衝材がプロペラの風で靡いている。

 

左壁側付近にはメタル製の棚と並行して、幅1メートル程、距離は…奥まで続いている…ここから見えないが相当な距離と思われるレーンが設置されている。商材の梱包が完了した様々な大きさのダンボールが一定の間隔を置いてレーンの上をコトコトと流れて行く。


どうやら右側のチームから梱包を完了した箱がレーンに乗せられ、左側のひとりずつ待機している従業員の元へ行くらしい。良く見ていると、流れてきた箱をレーンから一旦取り上げパソコンで何やら作業した後に再びレーン戻し今度は現場の奥へと流れていく。従業員と箱の数を見だだけでもかなり忙しい状況だと推測されるが皆黙々と働いている。職場内でも私語厳禁なのか?不自然位に静かなのだ。


見るもの全てが新鮮で圧倒されっ放しの私、

こんな最先端の現場で働けるかなと不安が過ぎる。


ん?現場内にクラッシック音楽が流れている…??


「お気づきになったでしょうが、従業員の方々には常に自律神経を安全させた状態で仕事に取り組んで頂きたいのでクラッシック音楽を流しています」


「EDMだったら最高だったのに…」

タツキが小さな声で残念がっている、


EDMかぁ…私も好きなジャンルだけどノリ良すぎて仕事集中出来ないわ。


この瞬間にタツキとEDM談義に大いに花を咲かせたかったのだか新人研修の真っ最中だからグッと我慢した。



突然、大谷のスマホが静かな現場で鳴り出した。慌てて取り話し出し少し会話をした後スマホを肩に当てたまま


「ごめんなさい、少しここで待機をお願いします」

そう言ってまたスマホで話し始めた。



しかし、クラッシック音楽か…自律神経を安定って

美味しい酒を作るため麹にクラッシック音楽を聴かせるというのは聞いた事あるが…自律神経の安定に従業員へ聴かせるなら、いつも不機嫌な大谷が真っ先に聴くべきだろうと思ったがクラッシック音楽の流れる職場は気に入った。


タツキはというと、現場に流れているクラッシック音楽に合わせて右手の人差し指で小さく指揮を取ってリズムを刻んでいる。

タツキはどうやら緊張感は持ち合わせていないようで、むしろ今を楽しんでるように見える。

それが若さから来るものなのか生まれ持ったものなのか今はまだ分からなかったがどちらにしても今の私はタツキのそんな無邪気さに救われている。



「そうですか…了解です…」

大谷が神妙な面持ちでスマホを切った。


「石森さん、桐山さんのお2人には大変申し訳ないのですが今日は入荷が多くてかなり忙しい状況です。現場リーダーから直接指導して頂く予定でしたが、リーダーらが他の階の応援に行き現在不在でして…」


申し訳なさそうに大谷は続けた。


「この後は出退勤の手順だけお伝えして今日は研修終了と致します。ご足労頂いたお詫びとして1時間分の時給を加算させて頂きますのでご了承下さい」


タツキが私を見て小さくガッツポーズを見せた。本当に自由で無邪気だわ…




「出退勤時は必ずこちらに寄って下さい」


大谷はそう言いながら、私たちをエレベーターの右横にある小さな机まで誘導した。壁には無数のマグネットが付いている。


「このホワイトボードには従業員の名前が記載されたマグネットがあります。出勤時は左側の退勤枠にご自分のマグネットがありますので出勤した際には、右側の出勤枠に移動してください」


さっきまで無邪気だったタツキは既に真剣にメモを取っている、


「退勤時は必ずマグネットを退勤へ移してからお帰り下さい。万が一出勤のまま退勤されてしまうと緊急災害時の時に大きなトラブルとなります。

現在倉庫内に居る従業員の安全確認を警備員がこのホワイトボードを見ながら日々チェックしておりますが、出勤のまま退勤されてしまうとまだ現場に従業員が居ると警備員は判断し従業員の安否を確認するまでは避難完了にならず大きなトラブルにまで発展してしまったケースがありますので、

出退勤の際は必ずエレベーター脇のこのホワイトボードに必ず立ち寄る習慣を付けて下さい」


大谷の流暢な説明を聞きながらホワイトボードに付いている無数の名前を見ていた。


高橋 リサ…

渡辺 航…

園田 莉子…


橋本…昂祈…



ん? 昂…祈?



祈り…いのり…


何て読むんだろ、珍しい名前だなぁ。占い師みたいな名前…



「キリヤマさん、俺の名前あった!」タツキは嬉しそうに自分のマグネットを指差している。


「桐山さんもご自分をマグネットを確認して下さい」


大谷に言われて探したが私は1番下にあったので見つけやすかった。


「大谷さん、私のありました」


「了解です、それでは今日はこれで終了となります。お疲れさまでした、お帰りは正面のエントランスからではなく警備員の事務所からお願いします」


ちょうど開いたエレベーターから数名の従業員が降りて来て、入れ替るように私たちは乗り込んだ。


ゆっくりと降りて行くエレベーターの中で私はまた思い出していた。



さっきの名前…


昂…祈…


イノリ…



祈り。



エレベーターは1階で止まり3人は降りた。

正面のエントランス、大きなガラスの自動ドアの向こうから春の柔らかい風が吹いてきた、見れば遅咲きの桜も揺れている。


「今日はこの正面エントランスからではなく左手にまっすぐ進んでください今回だけ警備員事務所からお帰り頂きます、次回から正面エントランスにてIDカードを提示して入館して下さい。

ご不明な点があればいつでも連絡下さい。

次回は午前中研修、午後からそれぞれの部署にご案内してお仕事をして頂きますので宜しくお願いします」


そして私たちは深々とお辞儀をした大谷と別れた。



next chapter →【INORI/05】

・登場人物・


橋本 昂祈 Akinori Hashimoto(28歳・独身)

→世界一のギタリストを目指していたがある人物との出会いから占術に魅了され、沖縄で有名な占術家がセミナーを開催するという情報を得て急遽沖縄の浦添へと向かった。家元と呼ばれる占術のセミナーは橋本を更に夢中にさせ「占術と祈り」の密接な繋がりに興味を持った。占術とは相手の心を真摯に学び、己を深く知る為のものであり、幸せを願う事だけでなく突然この世を去った兄と繋がる事が出来る唯一の方法が祈りだと気づく。この気づきをきっかけに次々と奇跡が訪れるようになり、東京に戻った橋本は桐山 誓、石森 健騎と出会い本格的に占術師として活動する事を勧められ対面占術をメインとした占いカフェバー

【REZAR】(レサル)を新宿にオープンさせる計画を始める。REZARはスペイン語で「祈り」



桐山 誓 Chika Kiriyama (37歳・独身)

→長年勤めていた会社が吸収合併される事になり転勤を命じられるが辞退して退職した。この時2年交際していた男との別れも訪れ試練の日々を送る中、橋本と出会い占術の魅力を知りやがて夢中になっていく。



石森 樹騎 Tatsuki Ishimori (23歳・大学中退) 

→左手首に星のタトゥーを入れている。両親が離婚し2人の弟たちを支える為大学を中退し派遣社員となる。桐山とは同期。趣味はビリヤード。

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