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姉後!


 「「お疲れさまー!!」」


 弾んだ声でグラスを合わせ、とりあえずビールとはならず。とりあえずの梅酒ソーダとハイボールをそれぞれ流し込む。

 ビールが飲めないからって子ども扱いはすることなかれ。今の時代そういう若者が多いというデータはすでに発表されているのだ。


 別に私が若者だという訳ではないけれど。

 えぇ、まったく。若さアピールはしておりませんとも。えぇ。


 ……という事にしておいてもらって。


 それに別に飲めなくはないのだ。ただ美味くは感じない、というだけで。

 よぉ俺、麦芽! なんてはっきりと主張されるなんとも言えないあの苦みがどうも、気に入らない。


 まぁ、どおでもいいか、こんな事! どうでもいい事は梅酒ソーダと共に流し込むに限りますな、うむ。


 という訳で。

 同期であり友達である、お姉様と言わせてください! 

なんて見ず知らず性別不問の子猫ちゃん達から言われ慣れているだろう、出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。スタイルばっちり美人さん。


 始めて会った時は、私もお姉様と呼んだ方がいいのかと悩んだものだけれど。

 私よりも年上に見えた色気ありありパーフェクトボディの持ち主が、同い年だという事で。


 人から年上に見えると言われるお姉様、あ、違った。きょうちゃんと、人から年下に見えると言われる私は何だかんだと話が合い。

 入社以来配属部署は違えど、今の今まで仲良くさせてもらっている。


 そんな響子ちゃんと、華の金曜日。華の仕事終わり。会社の最寄り駅周辺、行きつけの居酒屋に来ていた。

 ここに来たからには食べたい物は決まっていて。ほとんどいつも通りのメニューを席に着くなり頼んでいたので、お通しをつまみながらジョッキを片手に後は待つだけ。


 月一、二回の催しの始まりは、相も変わらずそれぞれの近況の話し合い。

 どーしたあーしたと、それぞれの部署の愚痴を言いあい、まじか、ありえない、大変だったなとお互いを慰め励まし、うまい酒で流し込むのだ。


 ……あと、そうだなぁ。

 いい感じに高揚してきた気分で、話の種を脳内検索にかけてみる。


 うーんと……。

 おぉ! そういえば、


「今日イケメンと出会った!!」

「おー!! 声かけた!?」

「かけた! てかかけたらイケメンだった!!」


 社会人になると出会いがないとよく聞くし、よくよく実感しますけれど!

 今日はその、出会いがあったのです! それも、同志の!!


 切々と語り語って気付いた時にはいつの間にか、最近出来たラーメン屋さんの話をしていた。


 なぜ。


 えぇと、……道案内ってところでそういやあの角に新しくできたお店なんだっけ? そんなのあったけ?

あんじゃん、あのいつもの道から一本早めに曲がって、やらどうたらこうたら。


 うん、まぁこれもどうでもいいわな! と三、四杯目のグラスを空にして、次の一杯を待つ間にお手洗い。

 

「といれー」

「いってらー」


 ひらひらと手を振られた向かった先には、こちらも三、四人の待ち人。

 あらまーと目を瞬きながらその最後尾に私も加わった。


 ここのお店のトイレは二つあって、男女兼用になっているからそれほど待つ事もないしなぁとぼーっと待たせていただく。


 すると、なんだか聞き覚えのある声?


「あれ、松本さん?」


 掛けられた声の方に顔を向けて、えーっと、ぽややんとした視界を振り払えば。


「お兄さん!」


 おぉ! 十二時間ぶりの再会ですね! お久しぶりです! しばらく見ない内にまた男前度を上げられましたね! よっ!

 なんて適当なことを色々と言って一人盛り上がる。

 その間にもトイレから人が出てきたので、一歩進んでいつの間にやらあと二人。

 ほろ酔い気分の頭では会話が飛ぶのは当たり前の事で、浮かんだ思いをすぐに口にした。


「そうだ、お兄さん!」


 せっかくお名前を教えてくれたのに、呼ばないのは心の中でお兄さん呼びが定着してしまったからで。

 ついでにいうと、あらあらそこ行くお兄さん的なニュアンスなので、私より年上に見えるとかそういった事ではないですよ。今更だけど。


 朝に分かれた時に被っていたお猫様は、夜にはどこかにお隠れになられました! 

またたびならぬお酒にやられちゃってます、です、ハイ! 状態の私を見たお兄さんはこんなお店にいるのに素面の様で。

 こんな私にか苦笑いしつつ、優しくお相手してくれる。


「どうかしました?」

「長いもの素揚げ、食べました?」


 頭に? を浮かべて目を瞬くお兄さんにぐっと拳を握り、ぴーあーる!

 私のこのお店のおススメは数あれど、中でも一押しが長いもの素揚げなのです!


「ほっかほかで、さくっさくっで! ちょうどいい塩加減がとってもおススメなんですよ!」


 美味しいから、ぜひぜひ食べてみてください!

 握りこぶしで熱弁してみたところ、あっという間に私の番になったので、そこでお別れ。


 またねーとぶんぶん手を振って、すっきりトイレから出てきた頃にはなんだか少し、頭がクリアになっている。


 先ほどまでのお兄さんとのやり取りを思い起こせば、


 ……やっば、典型的な酔っ払いやんけ、われ。


 一期一会の出会いならいざ知らず、せっかく出会えたお仲間さん。これっきりにはさせるつもりはないし、本気で聖地には行きたい気持ちがある訳で。


 やっちまったと頭を抱えるレベルでごわす。


 けれどそれでもまだ、お酒は抜けていないので。

 後悔は明日の朝に持ち越させていただこう。そしてそのまま忘れてしまえばこっちのもんだ!


 自分を主観とした記憶ではばっちりでも、素面だろうお兄さんはばっちり覚えているだろう事もこの際投げ捨ててしまう事にしよう!


 ちょうどおりしも明日の土曜日は可燃ごみの回収日。

 いつぞやのテレビで見た都会と違って、夜の間に出してしまってもおーるオッケーな田舎であるからして。今日の内に捨ててしまえば万事解決。順風満帆。ピッチャー満塁ホームラン!


 いやぁ、大逆転、松本 晴美選手、素晴らしいホームランであります!


 脳内解説もばっちりに、ヒーローインタビューまでこなしてお姉様が待つお席に帰る晴美でありました、まーる。


 うむ、完璧だ。


 いや、戻ってみたらきっちり二人分のラーメンが待っていたから、響子お姉様の方が完璧なのかもしれない。

 さすが姉後! 一生ついて行きますぜ! と叫んではみたものの。


 姉後、あっしらそこそこ食べてるでやんす。

 腹がいっぱいいっぱいでやんすと、泣きながら残さず食べ終わるまでして完璧なのでありました。


 先は、長い……。


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