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サン広場

作者: 旬過愁到

昼下がりの陽光に包まれた埃の匂いを纏い、サン広場は回っている。


広場の中心にほんの百年前にこの国の独立を祝賀するために作られた噴水の中央に、ギリシャ神話に登場する太陽神アポローンの石像は、三半規管を持たないおかげで、直立不動の姿勢を崩さないでいる。


それは数キロほど離れた山間部の浄水場も街の水道管も敵国の戦闘機による空爆を受け、全滅し、太陽神の口から透き通った雪解け水に代わって真っ黒な泥水が迸る数分前、スカートがさかさまに咲いている白い紫陽花の花びらのように風を孕み、膨らんだ裾を柔らかい両手で軽く抑えながら、踊り回っている五歳の女の子が闇に呑まれる数分前、サイレン、飛行機の爆音、そして、市民たちの悲鳴とともに、存在の終焉を告げられたサン広場で、永遠に散りゆく運命を知らない紫陽花が宙に舞う一塊りの灰になる数分前、まだ耳元に届いていた幼い笑い声を、呼び戻そうと今でも必死に娘の名前を叫んでいる男の目に刻まれた最後の景色だった。


たとえ生まれ育った街は中心部の教会以外すべて木っ端微塵に爆破されていても、両手両足を空襲を免れた教会の「神殿」に設置された仮設ベッドに縛りつけられても、笑顔を失った白衣の「天使」たちから無慈悲に針を刺されても、薬による眠気に襲われながら「太陽神」のように反吐を吐き倒しても、回り続けるサン広場にもう一度会いたい娘がいる。

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