楼蘭国
ガーディアン・クリスシリーズ3作目。
シルクロード・楼蘭王国にて妃となる。
協会から持ち出された【暁】の行方を追う。
雲ひとつない空に、色の濃い虹が出た日。
目を瞑ったまま、一人の少女が呟いた。
「その時が、来た。未来を知る、道しるべ。兆しが、今、現れる。」
目の前にあるのは何の色?
空と水面との間を、平行に浮かんでいる虹だなんて、初めて見た。
{おい、ここはどこだ? また奇妙なモノを見ちまったぜ。}
「さあ、息が出来るんだし。地球には違いないでしょ?
大気があるから、虹が出来るって聞いたことがあるわ。」
{ああ、そうかい、博識だな。
しかしよ、虹って、普通はこう・・あっちから、そっちへと半円を描くように。
アーチ橋のような形だろう?}
「いいじゃない、虹がどんなだって。それよりも、ここは海なの?」
吹く風に潮の匂いがあるようだ。
{ああ、そんな気もするが・・なんだかなあ。}
クリスの足元に座るキツネは前足で顔をこすった。
「大気が暑いわねえ。南国かしら。」
人の声がしたようで振り返ると
どうやら、自分たちが建物から飛び出た橋
~短い桟橋とでもいうのだろうか~
そのつきあたり、円形になっている場所に居ることが分かった。
テーブルとイスがあるので、ここは休憩所だろうか。
建物自体は大きく、ざっと左右を見渡したところ、途切れがない。
「なんだか立派なとこね・・寺院?
それともお屋敷かしら?」
やたら目につく赤い提灯。
それらが風で少し左右に揺れている。
「何かお祝い事でもあるのかな?」
{おいおい、悠長なこと言ってやがる。
それより、俺たちは歓迎されているのか?}
少しずつこちらを遠巻きに見る人の数が増えて行く。
女性たちの服装はとてもカラフルだ。
長い衣をまとっているようにも見える。
「あれは着物・・? 民族衣装かな。」
裾が風にはためいて少し揺らいだように見え
集まった女性たちの中から、ひときわ大きく澄んだ声が響いた。
「ようこそ、楼蘭国へ。 お待ちしておりました!」
声の主が進み出た。
左右の両手を両脇の女性たちに支えられて、一人の少女がこちらに顔を向けている。
{ほうお、ここの主は子供なのか?}
ネスは顔をそむけて、欠伸をした。
彼は子供が嫌いだ。特に人間の子供は。
理由は、意味不明に泣き喚くからだ・・とか。
キツネを見るのが初めてなのか、女性たちが目を大きく見開いてネスを凝視する。
けれども、少女は瞬くこともせず、視線を動かすことさえしない。
「あなた・・目が見えないの?」
{盲いているな、こいつは。}
{でも、私たちのことを知っている素振りだったわ。ようこそ、だなんて。}
{目が見えないってことは他の感覚が発達している場合が多いだろ。
それに、占者かもしれんしな。
どこの時代・国にも、居る者だ。}
ネスは湖の国に
〈自分を封印した者が魔法使いに違いない〉と思っているせいか。
そういった類の人間に好印象を抱いていない。
「私は香月、ここでは天姫と呼ばれております。
瞳に周りの世界は映りませんが、後宮に住む場所を与えられた、予言の(徒い女・つかいめ )です。」