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ラッキースケベの極み

 ということで、まず先ほどの変態メイドを呼び出した。


 部屋にある呼び鈴には魔力が込められていて、鳴らすと同じ呼び鈴を持つメイドの耳まで、どんなに遠くにいようと音が届くらしい。


 さっき部屋に通りてもらった時からいくらか時間が経っていて、すっかり日がくれていたからか、何を勘違いしたのか、むちゃ透けの薄ピンクのネグリジェに着替え部屋の前に現れた。セックス、という果実をぎゅっと絞って固めたような、そんなエロスだった。尊い。


 いや今はそんな場合ではない。



「あの、聞きたいことがあってだな、とりあえず中へ……」


 その言葉と俺の挙動で察したのか、どこかエロティックだった顔を取り直し、一瞬で真面目寄り顔に戻り部屋に入って来た。

 プロだ。


 しかし座ったのは椅子ではなくベッド。


「何でもお答えいたしましょう……勇者様。」


 その視線と、声色と、独特の間で誘導され、気づけばすぐ隣、肩の触れ合う距離に腰掛けていた。

 おかしいな、俺は冷静でいるためにも立ったまま会話をするつもりだったのに。

 惑星が、その巨大な質量から重力を生むかのように、巨乳もまた重力を発生させるのだろう。着陸したい。


「聞きたいことというのは、ギーク、という男についてだ。実は先程大広間で……」


「なぜあのような男について聞きたいのですか?」


 事情を知らないであろうエロメイドに説明をしようとしたら、それをカットインして凄まれた。

 なんだ?嫌いなのか?


「あのような男?というのは……」


「救世主様を疑うなど、あってはならないことです。」


 あ、事情知ってたのね。


「しかし、あの男は、国のことを思って、ああやって質問をしたのではないか?」


「それすらも不敬です。我が国の教義は正当にして正義。その下に召喚されたあなた様は、神の力を持っていて当然。確認せずとも天使様の力が強力、かつ絶対であることはわかります。ゆえにギークのあれは、背信行為です。」


 目がめちゃくちゃ怖い。

 熱狂的な信者というのはここまで頑固なものなのか。


「それは、神の使徒たる私が許すと言っても変わらないのか?」


「神が許すはずがありません。」


 え?いやだから。


「私の言葉は、神の言葉に等しいはずだろう?」


「そうですが、神があのような不敬を許すはずがないですから。」


 話にならない。


「いや、それでは、私の言葉にしたがって、許さないことの方が、不敬に当たるとは考えないのか?」


「私たちの教義は絶対です。聖典によると、我らが神は非常に厳しい存在です。不敬を許すはずがない。ですから、もしあなたが許すとのことでしたら」



 首に冷たい感触があった。

 硬く、思い、鋭いものが、皮膚をわずかに押し込む。

 見なくてもわかる。

 ナイフだ。

 いつのまに。


「あなたは神の名を語る偽物です。」


 狂ってる。

 目の前の、神の使徒らしき存在よりも、自分たちが今までに頭の中だけで凝りかためて来た教義の方を優先して考えているんだ。

 見ず知らずの神よりも、今まで自分たちが信じて来たルールの方が正しいと。

 盲信者とはこうまで理屈の通じないものなのか。


 俺がなにを言っても無駄だ。

 その目は完全に俺を敵として見なしている。やばい、突っ込んだ質問をし過ぎた。殺される。

 また殺される。

 もうきっと生き返れない。

 無理矢理にでも軌道修正しないと……!何でもいい……起死回生の一手を……。


 ああ!そうだ!


 あの手でいこう!


 俺は突然大きな拍手をした。緊張を破るようにできるだけ大きく。そして大笑いしながら、満足そうに言った。


「合格だよ。」


「……合格?」


 ナイフに力を入れかけた殺人メイドの動きがピタリと止まる。


「試すような真似をしてすまない。その言葉が聞きたかったんだ。」


 これだ。前の世界の漫画だとよくあるやつ。

 いやいや、そんなんで取り戻せないだろ、と思わずつっこんでしまうやつ。

 だが、もうこれしか方法がない。頼む。


「まさか、今の質問は、私の信心深さを試すための……?」


 ウケる。

 いけてしまった。


「その通り。」


 そんなわけないだろ。


「ああ、なんと……お許しください。白状いたします。私は一度だけ、あなた様のことを疑ってしまいました。」


 セリヌンティウスかよ。


「私のことも許してほしい。一度だけ、お前のことを疑ってしまった。」


「滅相もございません……!」


 涙を流しながら刃物メイドが抱きしめて来た。


「ああ、この身など、粗末なものですが、いますぐ天使様のお慰みをください……!その大いなる愛に、報いたい…!」


 え?あれ?


 そう言って、メイドはナイフを床に落とし、その腕をきつく首に巻きつけてきた。


 なにこの流れ。


「あぁ、お助けください。一度あなたを疑った罪悪感で体が砕け散ってしまいそうです……今すぐ抱きとめてくださいまし……!」


 湿った息がものすごい温度で俺の首にまとわりつく。足もすでに絡み合っていて、今にも脱がされそうだ。


 これに抗える童貞は、


 残念ながら皆無。


「いいだろう……。」



 こうして、18禁メロスのようなやり取りののち、なし崩し的に童貞とグッバイしてしまった。



 目覚めた後、今もなお囚われているだろうギークくんを思い、1人プレイの時とは比べものにならないぐらいの罪悪感に襲われ、トイレで吐いた。


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