ハッタリ
昨日中にあげると言っていたのにすみません。
むちゃくちゃに寝てしまいました。
それはもう猫のように寝ました。
すみません。
俺が突然意味不明な大声をあげたことで、兵士が即座に警戒態勢に入って殺気を振りまいている。
周りの貴族風ジジイたちは困惑している。
「ク、ソゲー……?と言ったか?」
「邪神の名前か……?」
訝しげな目をしてこちらを伺っている。玉座の王様風ジジイも警戒したような目を向けている。これはまずい。また串刺しになってしまう。あいつらは俺に戦争の手伝いをさせたくて召喚したはずだ。とりあえず協力するという姿勢を見せなければ、きっとまたなすすべも無く串刺しだ。何か話せ。余裕を持って。怪しまれないように、余裕、余裕だ。よし。
「失礼……取り乱してしまったようだ。
人間よ。よくぞ我を召喚した。」
どこのラスボスだよ。
焦って喋ったため、想像以上に人外感がでてしまった。
合ってるのか?
人間じゃない設定になったけど。
もしかしてこいつらは力のある【人間】を召喚しようとしてたんじゃないのか?勇者とか言ってたし。勇者の相場は人族だろう?こんな邪悪な感じで、敵認定されないだろうか。
そんなことをコンマ何秒のうちに、脳みそフル回転、ブラック企業よろしくニューロン総動員休み無しで考えていると、
おお……と周りがどよめいた。
怖がっているというよりは、神々しいものにたいして感嘆してる感じ。
いいのかこれ?
ええい、このまま行ったれ。
「我を召喚した理由を述べよ。」
王族っぽい人相手にこの態度はいいのか……?不敬罪とかで問答無用で串刺しコースとかの可能性もあるか。いやもう引っ込みはつかない。頼むうまくいけ。
心配していると、王様風はおもむろに立ち上がり、ひざまづいて、片手を握りこぶしにして床について頭を下げた。
「呼びかけに応じていただき感謝します。勇者殿。」
ウケる。
うまく行きまくっている。
まさか頭を下げるなんて。
王様風の態度に、周りの貴族は驚愕しながらも、すぐ気を取り直し同じポーズをとって頭を下げた。
そうだ。こいつらからしたら、歴史上初めて召喚に成功したんだ。どうやって扱おうか測りかねているはず。だからさっき殺されたルートとこんなにも態度が違うんだ。
「呼び出した理由は他でもありません。我らが聖戦に力を貸していただきたのです。隣国ヤシキアリとの戦争を、あなた様の力で収めていただきたい。このままでは民は疲弊し、国は荒れるでしょう。ヤシキアリが掲げているのは、我らと同じ神の名であれど、その思想は至極邪悪。正義ははこちらにあります。どうかご助力を。」
言葉遣いは違えど、話す内容はまるっきり一緒だ。
だか同じようにはしない。
さっきは感情にまかせて断ってしまったが、クソ神が偽チートを寄越した今となっては話が違う。
刺されるのは嫌だ。
「任せよ。我が必ずや勝利をもたらそう。」
おお!と周りから歓声が上がった。希望に満ち溢れた表情で、お互い手を取り合って、喜び合っている。俺もなんとなく満足げな表情でそれを眺めてみる。なんの意味もない笑みだ。内心はいつ槍が飛んでこないかと漏らしそうなほど焦っているし、実際少し漏らしている。
しかし、よっしゃとりあえず。
乗り切った。
あとは隙みてここから逃げ出そう。ステータスを見れる能力もある。もしかした占い師的なことで食っていけるんじゃないか?そんな職業があるかもわからないが。そんなことを考えていると、歓声の合間を縫って、神経質そうな声で質問が飛んで来た。恐ろしく鋭い質問だった。
「それで、勇者様は、一体どのような力をお持ちなのでしょうか?」
「ギクッ!」
まさしくギクッである。漫画だけの表現かと思ったが、完全に口に出してしまった。質問をしたのは、厚手のメガネをかけた、周りよりも若く、それでいて聡明そうな青年だった。貴族というよりは学者のような風貌だ。その目は周りのように浮かれていない。
「ギクッ…?」
ああほら疑ってる。
そうだ、なにしろ前例がない召喚なのだ。この質問は当然だ。
やばい、その力を示してみよ、とか言われたらおしまいだ。
昔気まぐれで1週間だけ習った通信講座の空手しか披露するものがない。
まだ柔軟しか習っていない。
こんな普通のおじさんが、長座体前屈を披露したところでだれがひれ伏すと言うのだ。
どうしよう、何かうまいこと煙にまかなければ……
「なぜ、私の名前を……?」
え?
「もしかして、勇者様は、神に謁見したことがあるのですか……?」
意味不明だ。神に謁見?
何言ってるの?
「それでなければ、私の名前を言い当てるなど……」
言い当てた?
何が?
「どういうこと?」
思わず普通に聞いた。さっきまでのラスボス感はいざしらす、完全に、前世の冴えないアラサーサラリーマン、有島翔平の話し方である。
「ギク、とは私の愛称であります。あなたには、見えておられるのでしょう……?」
ギク?
ああ、ギク!
もしかして!
先ほどのように、強さを知りたいと念じてこの少年を眺めてみた。
名前:ギーク・レビスナード
性別:男
年齢:20
職業:学者、魔術師
LV:16
HP:109/109
MP:220/220
攻撃:39
防御:11
敏捷:24
魔力:146
スキル:
回復魔術lv16
重力魔術lv8
補助魔術lv12
「回復魔術、重力魔術、補助魔術……」
「おお……!そうです、その3つは、私が扱うことのできる魔術でございます!」
これだ。
「名をギーク…レビスナード……20歳というところか。」
「そうです……!神に謁見を果たした神官は、この世の断りを理解し、ステータスの全てを見通す能力を得るという……!やはりあなたは間違いなく神の使徒であるようだ……!」
ものすごく都合よく勘違いしている。いいぞ。攻めるならここだ。
「当たり前であろう……まさか、余を疑っていたのか……?」
やば、一人称間違えた。とりあえず強気に出ようとして勇みすぎた。余て。
「ああ……申し訳ありません……そのようなつもりは……」
その瞬間、怒号が鳴り響いた。
「レビスナァァァァァド!」
声の主は未だ階段状で膝をついている王様である。大広間に響き渡る声で叫んでいた。
「不敬であるぞ……!使徒様を疑うなどと……あってはならないことだ……!」
呼び方が変わっている。どれなんだ一体。どれのつもりでいたらいいんだ俺は。
「おい…」
「はは!」
王様が右手をあげると、兵士があっという間にギークと取り押さえてしまった。
ギークはそのまま大広間を連れ出されようとしている。
「待ってください…お許しを…!私は王のためを思って確認をしたまででございます……!」
「ならぬ。このような無礼を働いて、生かしては置けぬ。」
あれ?いや待って待って。
「そこまで……する必要はないのではないか。」
「何を仰られます。天使様を疑うなどと、万死に値します。断罪いたしますのでどうかお許しを。」
天使?いや待って待って。そんなつもりじゃないってば。
待ってって、かわいそうじゃん、そんなつもりじゃないから待って、
と言いたいのに、さっきの槍の痛みが頭によぎって声が出ない。余計なことを言わないように言わないようにと、場を乱さないように乱さないようにと、口がガッチガチに固まって動かない。
「お助けを……お助けを!救世主様ぁ!」
救世主?
ギークはそのまま連れ去られてしまった。
あの必死さ、とんでもない拷問が待ってるのは確実である。俺のせいで罪なき青年が……。
しかし俺はどうしていいかわからず、とにかく怪しまれないように例の満足げな笑みを浮かべることしかできなかった。
そしてそれをみて、貴族の1人が何を思ったか恐ろしげに呟いた。
「喜んでらっしゃる……」
いや違う違う。