クソゲー認定
「……おお……成功……のか……?」
「……いや……この時点では……確認……どうやって……」
「まず拘束を……それから……いや……でも……かもしれない……?」
遠くの方がザワザワしてるな。うるさい……頭がぼーっとして声が途切れ途切れしか聞こえない。
何て言ってるのか、意味がとれない。よくわからない言葉が行き交っていてイライラする。
ああ、もっとよく聞きとれたらいいのに。
「召喚は成功のようだが……本当に異世界からの召喚からはわからないだろう。」
すると偉そうな、野太い声が聞こえた。今度ははっきりと。
掠れて重々しく、気難しそうな声だ。
しかし指先の一本に至るまでが重い。
夢、ではないのか。
確認しないと。
ゆっくりとまぶたを開けると明るい色が滲んだ。頭をあげてみると、周りから声が上がる。
「起きたぞ!」
「生きていたか…だが意思疎通ははかれるのか?」
「見たこともない衣服だ……」
だんだんと目が慣れていくと、そこには神殿のような、王宮のような作りの、真っ白で豪奢な空間が広がっていた。
滑らかな石で作り上げられた煌びやかで開けた空間。そこに、中世ヨーロッパの貴族のような格好をした人々が円を描くようにこちらの様子を伺っていた。
夢、じゃない。明晰夢でもない。ハッキリとわかる。
これは夢ではない。
本当に転生とやらをしたのか。
「勇者よ、よくぞ我らが呼びかけに応えてくれた。ぜひ我らの力になって欲しい」
俺の近くでジロジロと様子をみている人だかりからではなく、奥の赤い絨毯がまっすぐ引かれた階段の上、仰々しい玉座に腰かけた人物が声をかけてきた。真っ白で長いヒゲの上に、彫りの深い厳しそうな表情が張り付いている。偉い人のテンプレートみたいな顔をしている。威圧感がすごい。有無を言わさない感じ。もうすでにちょっと嫌いだ。
「こちらの言葉はわかるかな?」
何も答えずにどうしたものかと思っていると、言葉がわからないのだと勘違いしたのか、再度そう聞いてきた。言葉はなぜかわかる。同じ言葉なのか、神が気をきかせてくれて言葉がわかるような何かしらをしてくれたのか。
「言葉は、わかります。」
答えると、おぉと周りがどよめいた。
「力を貸すとはどういうことでしょう?」
「我が皇国サリアは隣国であるヤシキアリ大聖国と戦争をしている。大聖国とは教義を同じくする同盟国であったが、裏切り侵攻してきたのだ。正義の名の下にこれを成敗せねばならない。神もそう望んでいる。」
よくある話に聞こえる。元の世界でもあったような話だ。しかし神が望んでいるとは、大嘘も甚だしい。ご神託だとかいってそれらしいこと言って国民に触れ回ったのだろう。戦争に正義はない。対立する2つの権力があるだけだ。まぁそれだけならまだいいが、その解決に多くの命を犠牲にしたってのはやはり腹立たしい。それに巻き込まれたのも釈然としない。丁重にお断りさせていただこう。
「嫌…ですね。」
そういうと再度周りがどよめいた。
「無理やり呼び出されただけで、協力する義理もないですし……」
あらかじめ神に聞いたこともあって、随分と印象が悪くうつった。好きに生きろと言われていたし、はっきりとそう言った。
すると貴族たち?の動揺は少しずつ怒りへと変わり、罵声が飛んできた。やれ契約がどうとか、召喚によって隷属契約がされているだとか、逆らえるはずがないだとか、悪神の手先かとか、邪悪だとか、殺してしまえとまで聞こえてくる。ものすごい剣幕だ。
あれ?これ結構やばそう?
よく見れば遠巻きに鎧兜に身を包んだ屈強な男たちが控えている。俺の言葉を聞いて槍を握り直し殺気だった目をこちらに向けている。絶対勝てなそうだけど。これはいきなりゲームオーバーか?即殺し?あまりにも難易度の高いゲームじゃないか。ゲームではないか。ゲームみたいな世界なだけで。
いや、神の話だったらほぼゲームの世界だったはずだ。じゃあなんかコマンドとかないのか。あそこの兵士たちはどれだけ強いんだ?そんなことを思うと頭にある情報の羅列が浮かんだ。
名前:ユリアス
性別:男
年齢:26
職業:兵士
LV:19
HP:192/192
MP:108/108
攻撃:96
防御:112
敏捷:78
魔力:66
スキル:
槍術lv23
火魔法lv13
おおう。これはあれだ、ステータスだ。
隣の兵士は?
名前:ゴリアス
性別:男
年齢:31
職業:兵士
LV:23
HP:209/209
MP:120/120
攻撃:119
防御:111
敏捷:88
魔力:70
スキル:
槍術lv28
剣術lv18
強さを知りたいと念じてみると、どうやらその人物の強さがわかるらしい。この能力も神が授けてくれたのか。
あれ?
いや待てよ?
これもしかして、神にもらった3つの願いを叶える権利を、知らずに使っちゃったってことじゃない?
強さを知りたいって思ったから?
というかどうやったらその権利を行使できるかの説明ってなかったよな?
残り回数もよくわかってないし。
もしかしたら言葉がわかるのも、すでに願いを使ったってこと?
はっきり聞き取れたらいいのに、とか願った気がする。
としたら、
残り一回?
待って全然好きに生きれないじゃん。
おもてたんとちがう。
「隷属契約が働いていないのか……?仕方がない。このまま我らに仇なすことになっては厄介だ。」
王らしき人物が右手を挙げた。途端貴族っぽいやつらは道をあけ、そこへ兵士たちがガシャガシャと鎧を揺らして駆け込み、あっという間に俺を囲んでしまった。
やばい!
やばいやばいやばいやばいやばいやばい。
どうしよう。
残り一回の願いをどう使う。
むっちゃ強くなるか?いや、ただ強くなるだけで、この先生きていけるのか?
なんかもっと都合よくこの先も行けるようにできないか。
そうだ。
神の説明では、この世界の人間はスキルに頼って生活しているという。鍛錬し、レベルを上げて、そこで得たスキルポイントで新たなスキルを得て、仕事に生かす。それがこの世界で生きる者の大原則だと。
だったらこれだ。
おれは強く願った。
神よ、スキルポイントを10000ptください
そう願うと、
俺の腹を槍が貫いた。
「ぁぁぁあああ!?」
俺は叫び声をあげた。痛い。ものすごく。なにこれお終いじゃん。
そして他の兵士が槍の持ち手も俺のクビに押し当て足をかけて倒してきた。そこに他の兵士がなだれ込み取り押さえられる形になる。その勢いで槍は引き抜かれさらなる激痛が走る。
なにこれなにこれなにこれ。
願い叶ってなくない?何も起きてないよなこれ?
スキルを得た感じもないし、やり方もわかんないし。
どうすればよかったの。なにを間違えたの。
ああ神よ、ひどすぎます。
せめてもう一回やらせてよ。
意味わかんなかったよ。
―――――――――――――――
「おお、成功したのか?」
「いやわからないだろう。この時点では、判断のしようがない。確認しないといけないだろうが、言葉が通じるかもわからない。一体どうやって確認をすれば…。」
「まず拘束をするべきでは?それから尋問するとか。いや神の使徒にそのようなことをしたら問題か?でも悪神の使徒かもしれないし、ああどうすればよいのだ…?」
気づくと俺は床で寝ていた。
周りが騒々しい。
頭が重い。
ゆっくりと体を起こし、目を開けると、不可解な景色が広がっていた。
俺を抑えていた兵士はなにもなかったかのように無表情で立っていて、貴族はジロジロとこちらを観察している。玉座には王様。痛みはない。先ほどの騒ぎが嘘のようだ。
この光景はまさか。
「起きたぞ!」
「生きていたか…だが意思疎通ははかれるのか?」
「見たこともない衣服だ……」
少し遅れて理解が追いつく。
ゆっくりと立ち上がりながら腹を探ると傷がなくなっていた。
戻った。
願いが聞き入れられた。
死に際だ。もう一回やらせてと、別れ話から一ヶ月後、ムラムラを抑えきれなくなった元彼が元カノに送る深夜3時頃のメールのようなことを願った。
あれが受理されたんだ。助かった……!
いやまてよ?
俺の頭に恐ろしい推測が浮かんだ。
時を戻すのに願いを使った。 ということは、だ。
言葉がわかるようになって、1つ目
ステータスが見られるようになって、2つ目
時を戻して、3つ目。
てことは、
もう3つの願い終わり?
「クソゲーじゃねぇか!」
思わず叫ぶと、びっくりした貴族が一人ひぃっと言って尻餅をついた。