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絶叫除霊師ミソギ  作者: ねんねこ
2話 勝手に鳴るピアノ
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02.別棟=旧校舎

 自分の発言ではない吹き出しを削除し、スマホをポケットにねじ込む。一息吐いた南雲は、不意に視線を感じて顔を上げた。


「うわっ!?」

「ど、どど、どうしたの!? 何、何か居るの!?」


 階段横の教室から青白い手が自分達に向かって手を振っている。不自然に教室から突き出された手は、ゆらゆらと所在なさげに揺れていた。

 が、それは目の前にあるにも関わらずミソギの目には写っていないようだ。彼女はあらぬ方向を怯えた様にきょろきょろと見回している。


「そこじゃないっす、目の前の教室! 手、手が出て……」

「手!? い、いや私には見えないや……。南雲くん、霊感値幾つよ。私もそんなに低くはないはずなんだけどな」

「えええええ!? じゃあ俺だけ見えてるって事っすか!? あ、でも、今相当腹が減ってるし、その関係かも」

「幻覚でも見る程にお腹減ってるの? のど飴しか持ってないや」

「幻覚じゃないっすよ! 俺、空腹時には霊感値? にも影響が出るらしくて、いつも視えねぇもんまで視えるみたいっす」

「へぇ、珍しいね。だけど君の場合、マイナスにしかならないみたいだけど」

「いやあ、確かにそうっすね。悲しい事に」


 ねぇ、と不意にアカリが口を開いた。黙々と歩いていたが、女子中学生の霊だし会話に混ざりたくなったのかもしれない。そんな事を考えていたが、それは大外れだったようだ。

 アカリは廊下の先を指さすと、困ったように眉根を寄せた。


「あのね、今から別棟に入るよ」

「あ、そーなの? え、別棟とやらは何か問題でもあったり?」

「色んなのが棲んでて、あたしもちょっと苦手なんだ」


 ――色んなのが棲んでる……?

 不穏極まり無い言葉に嫌な予感が止まらない。本能が警鐘を鳴らしている、別棟は危険だと。ぎしり、と踏んだ床の感触が変わった。酷く古い、年季の入った板を踏んだような音に。

 アカリがなおも言葉を続ける。こちらが怖がっている事などお構いなしだ。


「別棟はね、前は本校舎として使っていたらしいんだけど、新しく校舎を建てた時に、特別教室用に変わったの」


 つまり、と眉間の皺を親指でグリグリと伸ばしていたトキが会話を要約するかのように訊ねる。


「旧校舎だとか、そう言った立ち位置の建物か?」

「うん、それだそれ! 別棟って言われてるけど、実は旧校舎って呼ばれてるような建物だよ!」

「チッ……。おい、不穏な噂のある教室は避けて通れ。七不思議以外の怪異と遭遇するのは面倒臭い」

「え、でも……。別棟はそんなに広くないの。全部避けて通るのは無理だと思う。特に理科室は絶対に通らないと、3階の音楽室へは行けないよ」


 ――音楽室は3階にあるとサラッと言われたが、3階なんてほとんど最上階のようなものだ。つまり、別棟ツアーは避けて通れない道という事である。

 案の定、折角眉間の皺を伸ばしていたトキは再びその眉間に皺を寄せた。


「おい、理科室にはそういった類の噂話があるのか?」

「うん。えーっと、人体模型が動くとか何とか。でも、七不思議のラインナップには入ってないよ!」

「中学生謎いなあ。七不思議のラインナップって何を以て決めてんだよ……」


 思わず愚痴のような言葉が口から漏れた。

 そうこうしているうちに、特別教室の前を通ること無く階段に到達する。今まで並んでいた教室は一様に準備室というネームプレートが差し込まれており、ゴチャゴチャと教材が散らかっている部屋ばかりだった。準備室というか、ただの倉庫である。


「つか、このまま3階まで上れない訳?」

「上れないよ。東階段は2階までしか階段が無いの。奥の西階段は1階から3階まで上れるけど」

「面倒な構造だなあ。ってか、じゃあ西階段までは絶対に教室の前を通って行かなきゃなんねぇじゃん!」


 とんでもない事実に気付いてしまい、ゲンナリした気分になった。自分と同種の人間であるミソギもまた同じだったようで渋い顔をしている。

 ――と、不意に天井を見上げたトキがポツリと呟いた。


「ピアノの音は聞こえて来ないな」

「音楽室だから防音されてるんじゃない? ほら、壁に丸い小さな穴がたくさん空いてるやつ」

「……それもそうか」


 ミソギの言葉に納得したのか、或いは学生時代を思い出していたのか。トキは軽く目を眇めている。


「そういえばミソギ先輩は高校行ってました?」

「行ってたよ。中退させられたけど」

「あ! 俺と全く同じ感じで親近感湧いてきたっす。え、どんな高校に行ってたんすか?」

「女子校……あの、ミッションスクールとかいうやつ。朝礼と昼食べる時と、帰りにお祈りしなきゃいけなかったのが今では懐かしいわ」

「あー! 俺も俺も! 男子校だったけど! 何か、男女交際禁止とかいう校則ありませんでした?」

「あったあった。女子校だから彼氏とか出来るはずないのに、1年間で何人かの生徒が何故か校則破って停学になってたなあ」

「分かる! あるあるっすよね!」


 思い出が懐かしかったのか、ミソギが柔和に微笑む。最初に出会った時の硬い表情が嘘のようだ。今は学校の七不思議を追っていて恐ろしい気分だから暗いが、本来はこういう性分なのかもしれない。


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