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絶叫除霊師ミソギ  作者: ねんねこ
3話 質問おばさん
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07.怪異『質問おばさん』

 『質問おばさん』のルームを開き、特にログを改める事も無く素早く書き込む。


『赤札:ウィーッス! 今回は『質問おばさん』退治するぜ!』


 書き込みはよくする方だ。情けない話だが、大抵の怪異は苦手。ホラーは全然駄目だ。ゾンビ物は意外といけるのだが、形の無い迫り来る恐怖は本当に苦手。そういった類の相手と対峙した時、気を紛らわせられるのはやはりお喋りである。

 案の定、すぐに反応があった。


『白札:あ、お前あのビビリ赤札じゃん。大丈夫? 今日の怪談、相当怖いぞ』

『白札:お前色んな怪異に首突っ込んでんじゃん。怖がりなのに!』

『白札:え? 前に書き込んでた赤札はまだ生きてんの? 嫌な予感しかしないが。あ、主催で進めてた赤札の助っ人がお前なの?』

『白札:人選ミス過ぎる』


 こちらから白札の選別は一切出来ないが、逆は出来る。毎回のようにアプリを使う自分は、そこそこ有名人になっているようだった。


『赤札:俺、助っ人に代わりに助っ人として呼ばれた助っ人なんだよな、今回』

『白札:訳分からん。でも、何か複雑な事情はありそう』

『赤札:いや、絶叫さんと交代したんだっての! 喧嘩しまくる連中の輪に入りたくなかったんだと思う』

『白札:ウケる。え、もしかして今、メンバー内でメッチャ殺伐?』

『白札:雑用押し付けられてんじゃねーか。つか、主催さんって絶叫さんと面識あんのか』

『赤札:あるよ。つか、赤札なんてみんなほぼほぼ顔見知りだし。現場でも会うし、知らない方が無理だって』


 コンビニの店員なんかが客にあだ名を付ける現象。実はアプリ内でも当然のように起こっている。うるさい赤札とかビビリの赤札は自分の事だし、絶叫云々はミソギの事だ。主催さんは今回の場合、十束の事を指しているのだろう。


 無表情で流れて来る吹き出しを眺めていると、とある吹き出しが目に飛び込んできた。


『白札:あと1分で12時だぞ!』

『赤札:うわ、マジだ。俺、うっかり叫ばないように気をつけとくわ』


 打ち込んで送信した直後。コンコン、という小さなノックの音が不思議と響いた。トキと十束はそれぞれが別の作業をしていたが、全く同じタイミングで玄関を見る。

 ペン立てからボールペンを取り出した十束が、塩を大量購入した時に発生したレシートに何やら書き込む。


『絶対に返事するな。声も出すな』


 口頭ではなく筆談で告げられたそれに、言い知れない恐怖が湧き上がってくる。その念には念を入れた行動がむしろ恐怖を煽るのだ。

 十束は慣れたもので、険しい表情で玄関を伺っている。トキはというと、持参した模擬刀を片手で弄んでいた。どっちも余裕かよ。


 返事が無かったからか、こんこん、と控え目だったノックは次第に間隔が狭くなり、そして激しい音へと変わっていく。ガァンガァン、と工場か何かのような音が響き始めた。

 ――ヤバイヤバイヤバイ! メッチャ怖いじゃねーかこれ!!


 やがて、今まであんなに煩かったドアを叩く音がピタリと急に鳴り止む。しかし、ここからが本番だった。

 細くて少ししゃがれたような声が、不思議とダイレクトに耳に入ってくる。


「髪と、ちょう……長いのは、どっち……?」


 ――長いのはどっち!? 何を言ってんだよコイツ! あああああ、マジ無理! センパーイ、助けてくださーい!!

 怖さが臨界に達した。涙目でトキに助けを求めるも、その視線は欠片もこちらに向いていない。玄関を凝視。しかし、悲鳴を上げる訳にもいかない。


「赤いボタンは……好き? それとも、嫌い?」


 再びの問い掛けに、今度こそを悲鳴を上げかけた。しかし、十束にクッションを顔面に押し付けられた為、それが音になる事は無い。

 南雲を一瞥したトキが、先程のレシートの余白に『今開けるのか?』、と書き込む。

 十束がゴーサインを出した。素早く立ち上がったトキが、俊敏な動きで玄関のチェーンと鍵を外し、ドアを開け放つ。霊符を両手に装備した十束が腰を浮かせた――


「何……?」

「いない、な。逃げられたか? それとも、条件不成立でどこかへ消えてしまったか……」


 そこに広がっていたのは、アパートの錆びた柵だけだった。人の姿も無ければ、何かいたという気配もそっくり消えてしまっている。


「ヒィ……、こ、怖かった……」

「南雲。お前、こういう怪談が苦手だったのならミソギの要求は断れば良かったじゃないか。先輩に意見し辛いのなら、俺から言っておくぞ?」

「余計な事すんじゃねーよ!! 嫌だったらちゃんと断ってるっての! あと俺、別にミソギ先輩の使いっ走りって訳じゃねーから!!」

「そ、そうか。しかし、ミソギは少しだけそういう所がある。どういう仕事なのか、確認してから引き受ける事を勧めるぞ!」


 模擬刀を片手に、部屋の中へ戻って来たトキがボソッと呟いた。


「十束ァ……。今の発言は、しっかりミソギに報告するからな……」

「えっ!? いやいや、勘弁してくれよ。俺は同期のよしみでだな! それに、最近ちょっと彼女からは避けられているんだ、これ以上は本当に勘弁してくれ!」


 と、不意に隣の壁からガァン、という音がした。不意討ちに驚いたのか、トキも十束も静まる。それが何の音であったのか。南雲はすぐに思い至って手を打った。


「煩いって隣の住民に怒られたのか!」

「えー、静かにしてくれ、トキ。俺は引っ越しなんて面倒な事はしたくないぞ……」

「おい、さり気なく私のせいにするな。今煩かったのは他でもなく貴様だぞ」


 時刻は午前12時21分。こんな時間に騒いでいれば、そりゃ壁ドンされるわけだ。


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