目標の達成
昨日の22時10分と24時10分に投稿することができなくて本当にごめんなさい!夜遅くまで起きていられませんでした……。
本日は4話更新するつもりだったのですが、6話投稿しますので、それでなんとか許していただけたらなと思います。
アルマは店を出たあと、しばらくの間街の散策を再開していたが飽きてしまい、夕飯の材料を買ってから家に帰っていた。
家に着いたのは四回目の鐘がなってから二時間近く。時間的には午後五時を回る少し前ぐらいだ。季節は春に入りかけているため、辺りは流石にまだ明るかった。
アルマは安っぽい造りのベッドに腰掛けながら、次は何をしようかと一人空想する。今から調理を始めれば、次の鐘がなる前には料理が完成するだろう。食べ終わったら、少し早いが今日は寝てしまおうか。これからの予定を時間と相談するアルマ。しばし悩んだ後、調理をするために台所に向かった。
アルマはキッチンの脇に置いた袋から、近くの店で買ってきた野菜をいくつかまな板の上に置く。そしてニンジンやニラ、玉ねぎなどを食べやすい適度な大きさまで刻み、油を引いたフライパンに次々とぶちこんでいく。最後にあらかじめ切っておいた豚肉をクーラーボックスから取り出して、野菜をどかしてフライパンの上に敷いていく。
炒める順番なんかもあるのだろうが、これはいわば男の料理。アルマの前ではそんなものなど意味をなさない。
火を点けると油の弾ける音と、肉の焼ける香ばしい臭いが空間を埋めつくした。
それから五分ほどの時間様子を見てると、ちょうどよく仕上がったようだ。触れると硬い感触のする木の皿の上で、炒めた野菜をこぼさないようにフライパンを傾けた。
――少しこぼしてしまったようだが問題など一切ない。三秒ルールならぬ、アルマルールだ。マナーなんて犬にでも食べさせてしまえ。
彼は夕飯の入った木の皿を、テーブルに小走りで運ぶ。箸を片手に、乱雑に椅子に座る。そんな彼の行動を非難するかのように、椅子の脚が悲鳴を挙げた。
「いただきます!」
両手の拳を突き合わせながら祈る。祈る対象は初代魔王でも歴代勇者達でもない。幼い頃からの習慣のようなものである。
何から食べるかなんて下らない脳内議論はしない。まずは当然肉からだ。アルマは大口を開けて豚肉にかぶりついた。
柔らかな肉をアルマの歯が貫き、中からあふれでた甘い肉汁が彼の口内を遠慮もなしに蹂躙する。美味い。彼の口からため息と共に小さくもれた。
更に箸を止めることなく、ちょうどよく炒められた野菜もほお張っていく。肉とは違うがこれもまた、こしょうがよく効いていてたまらない。
それからしばらくの間、彼は無心になって食らい続けた。部屋には箸と木の皿がぶつかり合う硬質な音と、そしゃくする音だけが存在していた。
「くふぅ......」
皿の上から物質が消失するまで、時間はそれほどかからなかった。体感では五分もなかった。
よほど腹が減っていたのだろう。今日は歩き詰めだったということもあり、かなり疲れていたというのも空腹に拍車をかけていたのかもしれない。
食後の余韻にひたり、背中を椅子に預ける。ダンジョンにある豪奢な椅子とは大違いだ。クッションは安っぽく、圧力をほとんど吸収できていない。そのため背もたれが背骨に当たって少しだけ痛い。長く座っていたらお尻も大変なことになるかもしれない。さらには木がきしむ嫌な音がした。
アルマはおもむろにダンジョンウインドウを開いた。特に何のためというわけでもないが、リラックスしている時にわざわざ立ち上がるのは非常に面倒くさく、手近でできることがそれしかなかったという理由である。
小さな駆動音と共に青色の半透明の板が空中に出現した。いつも自分が呼び出しといて何なんだが、いったい全体どういう仕組みなんだろう。ふと気になって指でつついてみるが、目の前で静かに滞空している正体不明のこれは相も変わらず硬質な反応を返すだけだった。
つらつらと表示された情報にざっと眼を通し、タッチして画面を切り替える。何度か情報群が変わったあと目的のページにたどり着いた。
ダンジョンステータス。
上の方はすでにお馴染みとなっている。初めて眼にした時から変わらない、中々変動しない文字列。一と表示されたままダンジョンのレベルはそこで止まっている。いつになったら上がるのだろうか。
「――って、上がるわけないか」
敵も倒してないのに上がるわけがない。当たり前のことだ。アルマは内心で苦笑した。
アルマはそれよりも下の方に眼をやり、とある項目に視線を合わせた。変動することのないこのページの中で、唯一アルマが注目している部分。いわずもがなダンジョンポイントである。
右手を挙げるような、はたまた瞬きをするような、そんな何気ない仕草でポイント欄に視線をやり、――彼は大きく眼を見開いた。
それは衝撃的な光景だった。いつもその速度に違いはあれど、絶え間なく上昇していたポイントが、停止していた。
いや、そこではない。実のところポイントが付加されない理由についてはアルマは理解していた。なんてことではない。ポイントの表示限界に到達した、それだけである。
しかし、問題はそこではない。大事なのはなぜ、今この時点でポイントがたまっているのか。
いや、紛らわしい言い方をした。確かに三年もの時間をかけて一兆ポイントという目的にたどり着けたのは非常に嬉しい。普段なら狂喜乱舞して、激しく踊り狂っていたことだろう。いつもは寡黙で冷静沈着かつ、特殊な性癖などひとつも持ち合わせていないアルマですらそうさせる。それほどまでに一兆とは莫大なポイントなのだ。
ではいったいアルマが何に戸惑っているのか。それは早すぎたからだ、目標に達するまでに。
目算ではあと一週間ほどかかる予定だった。全体目標の一パーセントとはいえ、母数の量からして誤差の範囲と馬鹿にできる数字ではない。
アルマは急いで情報を記録しているページに移動する。その中のポイント取得に関するところだ。いくつかのページを経由してそこにたどり着く。アルマは興奮と緊張で右手を震えさせながら、叩く勢いで指を押し付ける。数秒のラグを持って、左側に大量の名前らしき文字列、右側にほぼ最低数値の一ばかりが並んだ。
下にスクロールしてもほとんど同じ内容ばかりが並ぶ。全部撃退ボーナスだろう。やはり、とアルマは確信を強める。
撃退は討伐よりもポイント効率が落ちるとはいえ、対象者の能力に依存する。この国に恐ろしく強い人間などはいない。そのため、ほとんどの人間からは一程度しか得られないのだ。今日は少しばかり人が多い気はしたが、いくらなんでもいつもより数十倍も増えたとは思えない。
そこでふと、アルマはスクロールしていた手を止める。ありえない、ありえない。小さくもれた呟きは空中にかき消えた。
そしてそんな彼の顔は驚愕に染まり、眼は限界まで見開かれていた。
今アルマが眼にしたもの、それはいくつかの名前だった。ありふれたとは言えないが、何回か耳にしたことはあるもの。それだけならまだいい。だが問題なのはそれの右側に表示された数値だ。
上下に位置する人達の数倍、いや数万倍はある。これは小さめに見積もっても、街ひとつ分の戦力は保有している可能性がある。更にやっかいなことにこの異常な能力の高さを誇る彼、彼女らが、ポイント取得時期から見てパーティであるということ。
せっかく念願の目標を達成したというのに幸先が悪すぎる。
ポイント回収をさせてくれたことに感謝はしているが、なんでこの時期に来てしまったのか。
アルマは偶然だと片付けようとしたところで、ひとつの可能性に思い至る。恐らくだがこの前出現したというC級魔王のせいだろう。本当にはた迷惑なやつである。カスはカスらしく、目の前にいきなり飛んできた虫に驚いて、転んだ拍子に頭でも打って悶え苦しんでいたらいいんだ。アルマは半ば本気でそう思った。
9時10分に第八話「野望、三年越しの実現」、
12時10分に第九話「出会い頭」、
13時10分に第十話「魔王だと、正体がばれるということ」、
17時10分に第十一話「勇者の怒り」、
20時10分に第十二話「アルマが最強だという証明」を投稿させていただきます!