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 喫茶店から一時間ほど歩き、町外れの閑静な地域に塔はあった。周囲は住宅が多く、人はまばらだった。中心地と比べると人通りが極端に少ない。さすがに塔の真横に民家があるということはなく、塔の周囲には縦横それぞれ、民家三つが入るくらいの範囲は林となっていた。


「ここが?」


「はい」


 アルマは目前の塔を仰ぎ見る。首が痛くなるほど高い割に太さはそれほどではないようだった。先細りしていないようなので、太い煙突の様にも見えた。聞くところによると十階が最上階らしい。よくこんなに高い塔を作れたものだなと感心する。およそ一五年前に建ったらしいが、それほど古びた感じはしなかった。閑静な住宅地の中で塔は著しく浮いていて、少しだけ不気味に感じた。


「広くないからすぐに上まで行けそうだな」


「この塔は迷路や謎解き要素が主なので、なめてかかると痛い目にあいますよ」


 なぜか挑発的なペルク。お前がこの塔の主というわけでもあるまいに……。


 ペルクについていこうとしたが、ミュウがいない。彼女の姿を探すと、未だにダンジョン前の道路に立っていた。


「何してるの? 早く行こうよ」


「……やっぱり入るの?」


「ここまで来といて何言ってんの? ほら」


 震える手を引くとミュウは全力で抵抗した。その顔はやや青ざめ、くちびるの色が悪くなっていた。


「だってお化けが住んでるんでしょ? 鉢合わせしたらどうするんだよ!」


「超新星と呼ばれた君はどこに言ったんだい……」


「怪談は苦手なんだよう……」


 いつまでも抵抗する彼女の手を引っ張り、ペルクの後を追って塔に入った。鉄製の扉を押し上けて重く沈んだ空気に突入した途端、アルマの足が軽くなり、身体に力が満ちるのを感じた。


「……なんだ今のは。いや待て、そうかもしかしたら……」


「え、え、なに!? やっぱりお化けが出たの!?」


「違うから。いったん落ち着けよ」


 腕の動きを確かめ、先を歩くペルクを気にしながら、ミュウの耳に顔を寄せた。


「今、俺のステータスがわずかに上昇したんだ」


「なんだよいきなり、なんの話?」


「敵対ダンジョン内にいると、ダンジョンの強さに応じてパワーアップするスキルが発動したってこと」


「それってもしかして……」


 アルマはああ、と頷く。


「ここはダンジョンだ」


 するとなぜか彼女はほっとした様子を見せた。それを奇妙に思いながら続けた。


「でも上昇量から見ると大したダンジョンではないらしい。そんなに心配する必要はないはずだ」


「ふうん。まあでもダンジョンだっていうなら安心だね。年を取らない謎の人物とやらは決して霊的存在だってことではなく、この塔に幽霊は出ないってことだもんね」


 彼女の言っている意味がいまいちわからなかった。アルマは幽霊を信じていないが、ダンジョンなら幽霊型モンスターがいる場合もあることを知っている。


「ダンジョンの方が幽霊とかは出やすいと思うぞ」


「ぎゃああああああ!」


「ってミュウさん!?」


 ミュウはペルクを軽々と追い越し、はるか先に消えていく。それをはために、一人嘆息した。


「まあここがダンジョンなら用心するに越したことはないな」


 陽光の少ないところで透明になるモンスターであるインドアメアと、何体かの護衛モンスターを召喚する。ダンジョンポイントで取得したスキル『小型化』の効果によって、インドアメアは膝丈ほどの大きさになった。そこに護衛モンスターがくっついてひとかたまりになると、途端に透明になった。これで他の人には見えないはずだが、マスターであるアルマにはうっすらと見えている。


 未だに慌てていたミュウをなだめて逃げないようにがっちりと捕まえた。塔の中の道は細く、外から見たときよりもずっと狭く感じた。塔の中はずいぶんと入り組んでいる。よくある迷宮型ダンジョンだ。


 あまりパズルとか迷路とかだとは得意ではないので、きっと苦戦するだろうなとアルマは考えていた。しかしペルクはこの塔を知り尽くしているのか、すいすいと登っていく。謎解きにぶつかった時に考える素振りは見せないし、迷路に詰まって道を引き返すことは一度もなかった。


「もしかして慣れてる?」


「いや……まあそこそこですね」


 楽であるのは確かなのだが、ダンジョンを攻略しているという興奮はなく、それほど面白いと感じなかった。そして五階を歩いている最中、道の真ん中にそこそこ大きな箱が置いてあった。


「ってなんだこの箱は」


「宝箱ってやつです。時々高級な物が入っているらしいですよ」


 高級品と聞いて聞いて思わず胸が踊る。鍵はついていないらしい。かちゃりという音のあとに勢い良くふたを開く。期待を込めて中を覗くと、底に小さな輪っかがあるのが見えた。ミュウがわくわくを隠そうともせずに横から覗き込んできた。


「な、何が入ってたの?」


「……指輪?」


「ただの指輪みたいですね。……まあ大抵はほとんど価値のないがらくたばかりなので、子供の小遣い稼ぎにもなりませんよ」


「なあんだ、つまんない」


 塔を登っていく途中、塔の外へ出っぱっている階段があった。そこにさしかかった途端アルマは急に身体が重くなったのを感じた。これは単純なことである。塔からはみでた部分はダンジョンの領域外で、敵対ダンジョン内でステータスが上昇するスキルの効果がなくなるので身体が重くなったのだろう。


 アルマはおやっと思う。ダンジョン内で領域を区切り、ダンジョンを歩かせるだけで撃退ポイントを得る仕組みはアルマのダンジョンと同じである。なんとなく親近感を覚えた。


 さらに軽快に進み、十階に到達して終わりが見えてきた頃、少しだけ大きな部屋に出た。これまで通ってきた場所とは違い、奥に続く通路に鉄の柵がかかっていた。


「なんだここは」


「行き止まり……って、わけでもなさそうだね」


 ミュウが鉄の柵に手を触れ、しゃがむ。地面をよく観察しているらしい。


「アルマくん、ここもやっぱり謎解きだよ」


 ほら来てみなよと言われ、アルマもミュウの隣にしゃがむ。その際リュックサックがひっかかってしまったのを見て、ペルクが声をかけてくる。


「アルマさんいったん荷物持ちますよ」


「おっとすまない」


 そのまましばらくミュウとああでもないこうでもないと話しあっていると、今来た通路の方から派手な音がした。驚きながら振り返ると、部屋の入り口に柵が降りていた。その向こうにはペルクがいる。――閉じ込められた。


「おい! どういうつもりだ!」


「すみませんねアルマさん。僕が付き合えるのはここまでです」


 ペルクはきびすを返して去っていく。その時なんとも言えないような顔をしていた。何度も声をかけるが、彼は結局一度も振り返らなかった。

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