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『彼』らのスキル、その共通点

7月6日AM7:10

前話の中で物語において致命的な欠陥を発見したので、それが解決するまで更新できなくなるかもしれません……。もしかしたら二ヶ月ほど暇をいただくかも……。本当にごめんなさい!出来る限り早く直しますので、どうかそれまで気長にお待ちください。



ps,7月6日AM7:11

解決しました。前話の最後、『八つ墓村が大好きな山田君』がどう略しても『ユだヤ』にならない部分を改め、『ゆくとしくるとしが大好きな山田君』に変更しました。ご迷惑をおかけしました。

 と、ここで受付のある方向から歓声が聞こえた。胡乱げに見れば何人かの男達が誰かを取り囲み、お祝いの声をかけているようだ。アルマはこんな緊急事態に何を不謹慎な事をと小さくうめく。

 騒動の原因がいったい誰のせいなのか、そんな事はとうの昔にすっぽりと頭から抜け落ちているようだ。


 彼は小さな人だかりに歩み寄り疑問の声を投げかけた。


「よう、何をしてんだ?」


 するとアルマに気付いた一人の男が彼の肩を叩きながら、いいからこれを見ろよと彼を騒ぎの中心に押し込む。アルマは強引に押し込みやがってと舌を打ちながら、面倒臭そうに、されど多少の興味に瞳を輝かせながら人だかりに割り込んでいった。


 中心には一人の少女がいた。なんだなんだ可愛らしい女の子をむさ苦しい男どもが囲むだなんて、中々物騒なことしてんじゃねえかと内心吐き気のする思いで眉をしかめる。


 よし、仕方がないから自分は脚を担当すると危うく口走りそうになったところでその少女の正体に思い当たった。自分よりも二十センチ程低い背格好、鮮やかな青色の髪、これはもしかしなくてもティグマではないか。


 彼女は小さな紙を握りしめて小刻みに震えていた。最初は男達に取り囲まれて怯えているのかと思ったが、表情を見る限りどうやらそうではないらしい。彼女は口と眼を大きく開いて顔中を驚きの色に染めていた。


 周りの男どもは口々にはやし立てている。アルマは少しでも情報を取り入れようと耳をすましてみる。しかし彼の耳に入ってくる内容は、暗いニュースばかりではないんだな、まさかうちのギルドから選ばれるとはな、俺は前からやるやつだとは思っていた、などのティグマを褒め称えているとは伝わるのだが、情報量が少なくてなかなか要領を得ない会話ばかりだ。


 アルマは、手にした紙を穴が開くのではないかと思う程見詰めてふるふると小動物のごとく震えているティグマの肩をつつく。彼女は肩を一段と大きく震わせた後、アルマに視線を向けて軽くのけぞった。


「ア、アルマ君!?」


 よっとあいさつ代わりに右手を軽く上げ、その手を降ろすこともなくティグマの持つ紙をつまみ上げた。彼女は奪われたその紙に気を向けることも無く、前髪を慌てていじり始めた。


 アルマは手元の意外と上質な紙に眼を落とし、その内容に眼を通した。どうやらティグマに当てられた特別依頼らしい。依頼人の書名を視界に入れてその名前の意味を理解すると同時に、アルマはその紙を危うく取り落としそうになってしまう。


「王国からの特別依頼!?」


 かなりの大声を出したのにも関わらず、周りのやつらはアルマにちらりと視線を向けるだけだった。もうこのような反応など見飽きたという事だろうか。


 アルマは鋭くティグマに問いかける、いったいなんの依頼なのかと。彼女は彼のあまりの剣幕に小さく悲鳴を上げて、まるで弁解するかのように喋り始めた。


「か、紙を見ればわかると思うけど、新しく召喚される勇者パーティの仲間を頼みたいんだって!」


 勇者。なるほど、A級魔王が現れたんだもんな、その流れまでは容易に理解できる。しかし、なぜティグマがその役割なのか。そこがどうも腑に落ちない。


「そりゃあよお! ティグマの能力の高さが評価されたんだろうよお!」


 ティグマを取り囲んでいた男の一人がアルマの肩に馴れ馴れしく手を回した。そんなことはわかってる。ただ自身の感情が理解したくないだけだということは自分が一番わかってる。


 だがなぜ、本当にティグマが選ばれてしまったのか。勇者の仲間として選ばれること、アルマが魔王であるということ、これら二つの出来事が意味するのはすなわち両者が殺し合う未来のみである。


 しかしまあ自分が夢を叶えるために多少の犠牲が伴ってしまうのは致し方ないことであり、一度正体がばれてしまえばたとえ顔見知りでも命を狙い合う関係になってしまうというのも、ダンジョンマスターになったとうの昔に覚悟していたことでもある。


 アルマは自分に言い訳をするかのように繰り返し、悲哀の混じったため息を吐いた。

 だがそんな悲壮感をただよわせるアルマをよそにティグマ達は楽しそうに盛り上がっている。いや、盛り上がっているのは周りの男たちだけのようだ。


 とりあえずこれ以上悩み続けるのも面倒臭い。雑念を振り払うかのように頭を何度か振ったあと、アルマは彼らの会話に意識を向けた。


「――っていう効果なんだよね? 本当にすごい、確かに勇者と組むにはうってつけの能力だ!」


「ねえねえ、それ名前なんて言うんだっけ?」


 隣の男達は必要以上に盛り上がっている。やはりギルドという男臭い環境の中で、多少可愛い女性というだけでとても可愛く見えるのだろう。それ故ティグマほど可愛ければ苦労も絶えないに違いない。

 はっきり言ってミュウもアルマと出会った頃は大変そうだった。知り合って間もなくして付き合う事になり、しばらく経ってから聞いてみたところ、当時十八歳だった彼女は年上の男性という存在にあまり慣れてはおらず、年の離れた人達に囲まれて戸惑っていたらしい。


 そしてミュウと同時期に加入したティグマも同じような扱いだった。しかしその時ほぼ一緒にギルドのメンバーに名を連ねたはずのアルマに世話を焼くような奇特な人物はほとんどゼロに等しかった。


 それが少しばかり不平等に感じて先輩である彼らに物申した事もある。どうして新人の育成があそこまで偏っているのかと。

 アルマからしてみればただ気になったから聞いてみただけなのだが、彼らからすると後輩に生意気を言われたとでも感じたのだろう。


 アルマに向かっててめえは女の子じゃねえだろうがと声を荒げた後彼を薄暗い路地裏まで引っ張って行き、数人で取り囲んで彼の手足を逃げられないように掴んだあと、アルマの顔面に向かって握りッペをかましていった。


 その後彼らは大笑いしながら去っていった。アルマがあそこまで屈辱を受けたのは生まれて初めてだった。普通なら二度と逆らう気など起きようはずもないが、当然粘着質な彼がそこで泣き寝入りなんてするはずがない。


 アルマは依頼が終わる度に、ギルドから出ていく彼らの後をついていき、一人ずつ拠点を特定していった。骨が折れる作業だったが全員のねぐらを突き止めることに成功する。そして彼らが拠点にいない時、もしくは夜がふけて寝静まった時に忍び込み、装備を傷ませる腐食液をかけて回った。


 それを何度も繰り返して、その後ギルドで彼らの装備に関する愚痴を聞いて愉悦に浸るのは彼にとってまさに至福の一時だった。


 つまるところ、この国の人達の脳内は比較的平和なのである。


 そこで思考が一段落してふと我に返ると、ティグマがアルマを見て恨めしげな眼をしてサインを送っていた。それが何を意味するかはわからないので、とりあえず笑顔は返しておく。彼女は目を細めてため息を吐くだけたった。


 彼女は面倒臭そうに彼らに向き直る。確かスキルの名前を聞かれていたのだろうか。アルマも少しだけ興味はある。効果は知っているのだが、名前を聞いたことはなかった。


「――『彼曰く成長(インフレスパイラル)』……だよ」


「くうぅぅううう! 強そうだよね、それ! 聞いただけでちびるわ」


 冒険者の男の一人が大声で祭り立てる。ティグマはそれに対して、居心地が悪そうに小さくなっていた。


 しかし初めて聞いたがいやに耳につく名前だ。自分自身といい、ミュウといい、ティグマといい。それぞれが持つスキルからはどこか同じ響きを感じる。偶然だろうか? しかし深く考えたところで、共通する『彼』とはなんなのかは分かりそうにない。

 この問に答えがあるのかどうかは知らないが、意味があるのならそのうちわかるだろうとアルマは楽観的に考えることにした。


 そこでティグマが何かに気付き、取り囲む彼らを置いて走っていった。彼女は手を大きく振りながら大きな声を出す。


「――ミュウちゃん!」


 どうやら彼女はミュウを口実に抜け出す事にしたらしい。いまだに看板を見て『ナちス』の思い出に浸っていたであろうミュウは、目元の涙を拭いながらティグマの名前を呼ぶ。

 取り囲んでいた男達はなんだなんだと苛立たしげに彼女が走っていった方に視線を向ける。しかしそれがミュウだという事に気付くと、きつくつり上げた目元を緩めた。中には呟きながら拝む者までいる始末だ。


「『背中合わせの天使達(クロスエンジェル)』だ……」


 そんな彼らを尻目にミュウ達の方に眼を配った。彼女らは世間話に興じているようだ。するといきなりティグマが悲鳴を上げながらのけぞった。


「ええっ、拠点を移動しちゃうの!?」


 なるほど、どうやらミュウはこの国から出ていく事を教えたらしい。ミュウはしきりに頷いている。

 今朝がたミュウと話して決めたのだが、移動する理由としてはアルマの夢が関係している。その夢とはもちろん『生脚王国』を建設する事だ。そのためにはある程度ダンジョンの所有地を広げて土地を確保せねばならず、他のダンジョンの核を破壊して領域を奪わねばならない。


 そして手始めに狙うことにしたのが【原初のダンジョン】である。いきなり最高難度のところに挑戦する理由としては、そこさえクリアすれば他の場所でしくじる心配が低くなるからだ。

 一時期は恐怖で近づく事なんか考えられもしなかったが、今は全く持って心配などしていない。いくら強くてもしょせんはゴブリン。一〇〇〇〇体も死神を召喚すればいいだろうと、口ではなんと言おうが明らかに怯えが抜け切っていないのは安定のアルマと言えよう。


「そうなんだ……私は新しい勇者様と協力して、この国のどこかにいる魔王は倒してみせるから! それまではお別れだね」


 彼女が魔王と言った辺りで苦笑いをもらすアルマとミュウ。ギルドの中でそれに気を留めるものは少なかったし、気に留めたとしてもそれを指摘するような人間はいなかった。


 そしてこの国から離れることを惜しむ声に後ろ髪を引かれながら、アルマとミュウはギルドを後にした。

 この国を出る準備はすでに完了しており、特に何かしなくちゃいけないというわけでもない。だからこの後の目的としてはゆっくり昼飯を食べてから酒場に別れのあいさつでもしていくつもりである。いや、酒場のマスターは日が沈んでくると段々機嫌が悪くなっていく不思議な性格のため、あまりゆっくりはしてられないが。

明日は7時10分に第十六話「彼が言うには」、を投稿します。

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