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足りないモノ

昨日の20時10分に投稿できなくてすみませんでした!

今日は一話だけ投稿するつもりでしたが、一話追加で投稿するので、それでなんとか許してください……。

 しかしアルマが愉悦に浸っている時に、それを邪魔する者が現れた。彼の配下である死神がアルマに向かって、両腕に携えたその大鎌を降り下ろしたのだ。

 ダンジョンマスターの配下が主人に逆らうことなど絶対にあり得る事ではない。なぜならば、通常は召喚されたモンスターに感情が付随することはなく、大体が半自立型の操り人形のような状態になるのだから。


 やはりアルマに襲いかかった死神も例から漏れることはなく、凶刃がアルマに脅威を振るうことは無かった。アルマに当たるかと思われたその鎌は、彼を素通りして後ろにいる者に牙を()いたのだ。


「くっ......」


 小さなうめき声を耳にして振り返れば、左手首を右手で押さえる獣人の女性を眼にした。良く見ると地面に落っこちた小型のナイフは、毒々しい液体を(したた)らせている。


 アルマは感嘆の声を上げる。今の今まで存在さえも忘れさっていた彼女が、まさか命を狙ってくるなんて。あの身のこなしを見る限り、暗殺者かなにかだろうか。


 そんな余裕を見せるアルマの様子が気にさわったのか、彼女はアルマに向かってつばを吐いて怒号する。まるで子供のかんしゃくだ。人が吐いた大した速度もない唾液を、魔王であるアルマが避ける事なんて朝飯前である。

 彼はどこか楽しそうにひょいひょいと軽やかに身体をひねった。


「このっ......下衆野郎!」


 罵倒と唾液を顔面に豪快に浴びたアルマは、袖で顔をぬぐいながらいやらしく嘲笑った。そんな事は分かっていると言わんばかりの笑い声だ。


 彼女が気配を消していたのは何らかの魔法だろうか。いや、そんな特殊な魔法は聞いた事がない。恐らくというか、十中八九スキルだろう。


 改めて周りを見渡せば、汗にまみれた獣人の女性。死に怯える虚ろな眼をした勇者。膝を着いて小さく震えている老齢のエルフ。エルフだけは無傷だが、完全に戦意を喪失している様子のため、少し注意を向けていれば問題はないだろう。


「さあて勇者様方。一度こちらに注目していただきたい」


 そう呼びかけるとエルフと獣人はおぼつかない足取りで勇者のもとに向かった。そして怯えた様子でアルマに視線を向ける。まるで寒さに身を寄せ合う小動物のようだ。


 既に満身創痍、死にかけの彼らだが殺しはしない。まだやって欲しいことがあるのだ。


「大丈夫、殺しはしないさ。やってもらいたいことが有るんだ」


 すると空虚だった勇者の眼は、警戒混じりだが明らかに希望の色を浮かべた。

 ありったけの金をよこせとか、誰々を殺せだとか、無茶苦茶ではないし難しい内容でもない。


 非常に単純で、簡単な事である。


「王宮に行ってこう言ってほしいんだ。『俺達ではまるで歯が立たなかった、あれはA級ですら生温い』ってね」


 その際に顔などや、身体に関する情報を言ってはいけないとしつこいぐらいに念を押す。アルマはくすくすと忍び笑いをもらした。勇者はどこか安心した様子でため息を吐く。


 しかし相手が本当に約束を守るかどうかは、はっきり言って怪しい。彼らからしてみればアルマは憎い敵。ここではい開放なんて軽々しい真似をしてしまえば、彼らは喜んで顔の特徴を王宮に垂れ流すだろう。


 アルマとしては、しっかりと足枷をつけさせてもらうつもりだ。

 しかもこの状況におあつらえ向きな、最適のスキルがある。


 上位スキルの『絶対契約』。勇者が恩を仇で返した時、さらなる友好の印に、死を贈るとても素敵なスキルである。


 早速取得するためにウインドウを開いてスキルを探す。数十秒の放浪の後に、目的のスキルを見つけた。淡く輝く文字に軽やかに触れる。


 やはりポイントについては問題ない。問題は取得条件の欄なのだが――――。

 恐る恐る視線を下方向に(うつ)すと、取得には友達が(・・・)十人必要(・・・・)だと表示されていた。


 なんで友達が必要なのかは分からないが、正直な話、少しきつい。実際のところ、アルマに友達は四人しかいない。それも、お母さんと妹とミュウを含めてだ。


 仕事仲間はいるのだが、中々プライベートまで一緒にする仲というのは少ない。

 自分の友達の少なさを改めて認識して、愕然とするアルマ。


 彼は心を覆う謎の空しさを誤魔化すかのように、まるで強がりのように一人ごちる。


「――そもそも友達なんか必要ないだろうがよぉぉおおお……」


 それを目敏く耳にした、勇者パーティの中でも比較的心理的ダメージの少ない獣人の女性がアルマを警戒しながらも口を開いた。


「――友達、いないの?」


「いや、十人はいる」


 待てよ、確か特殊スキルでも似たような効果をもたらすスキルがあったはずだ。このさいだ、上位スキルではなく、特殊スキルでもなんら問題はないだろう。

 天啓の閃きを得たアルマは、早速上位スキルのページから特殊スキルのページに移動する。

 やはり膨大なスキル群の中から見つけるのは非常に骨を折る行為で、しばらくの時間を要する事になったが、探していたスキルを見つける事ができた。


 名前は『契約』。効果は、契約を破った者に致命的な損傷を与えるとの事。完全に『絶対契約』の下位互換だ。


 さて、問題の取得条件の部分だが――ふむふむなるほど。


「友達が五人必要……か」


 全くもって、スキルなんてクソ喰らえだ。




 結局、下位スキルの『擬似契約』を取得した。契約を破った場合は、スキル保持者に報告が行くだけのスキルだ。直接的なダメージは与えられないが、アルマが直々におもむけば良いだけの話である。


 そして勇者達に契約を(ほどこ)す。約束を違えればどのようになるかは再三に渡って説明した。彼らは青ざめながら頷いていたため、情報がもれて指名手配されてしまうような事態になる事はまず無さそうだ。


 全ての用がすんだため、もう行っていいことを告げると、勇者達は剣やお互いの身体を支えにしながら立ち上がる。しかし大きな恐怖によって本能に刻まれた警戒を解く事は難しいのか、こっちに背を向けるような真似はせず、視線はアルマを見据えながら後ずさって距離をとっていた。


 アルマと彼らの間に空間ができた時、獣人の女性が短く、されど力強く息を吐いた。

 すると刹那の後には、もうすでに彼らの姿はなくなっていた。


 わざわざそんな事をする必要は無いとは思うのだが、アルマが思うに、いいようにやられた仕返しというか、最後の最後で一矢報いてやったという意思表示か何かかもしれない。


 一応死神をけしかければ瞬きをする間もなく消せるだろうが、小さなプライドのために今さっきやった事を無駄にするのは、あほを飛び越えて愚か者と言うほかあるまい。


 アルマは小さいが、長い、長い吐息をもらす。少しばかり疲れた。彼は、場にはもうない彼らの残滓(ざんし)をぼけた眼で見つめるミュウの手を取り、夜の闇の中を、街に向けて一歩踏み出した。

17時10分に第十四話「和解」を投稿します。


これにて一段落です。客観的な採点で、ここまでの文章、ストーリー評価をしていただけるとありがたいです!

生意気だとは思いますが、感想もいただけると嬉しいです!!

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