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序章

 物見やぐらの上、見渡す限りの荒野。周囲には動物一匹、植物だって一切見当たらない。禍々しい瘴気があふれる巨大な城が遠くに見えるだけで、他に建物などはなかった。


 あの城はこの大陸で一番危険とされる初代魔王のダンジョンである。時折自信と活力に満ちたパーティが挑戦に訪れるが、誰もがみな、二度と姿を見せることはなかった。


 そんな危険な場所だというのに、やぐらの上にはたった二人の兵士。はしごを降りたところにある小屋には誰もいない。


 異変が起きたら報告することが、ここに配属された兵士の主な業務である。

 大陸で最も危険なダンジョンであるし、中には危険な怪物たちがうごめいているのだが、中に入らない限りは安全だ。

 なので基本的に暇で楽な仕事ではある。しかし誰も近づきたがらないので、新人や若手の兵士に押し付けられるのが常だった。

 例にもれず、この仕事をむりやり押し付けられた、やぐらの上にいる二人には全くやる気がなかった。任期を終えるまでの数ヶ月間、適当に流していくつもりだった。


 そして今日も同じようにくだらない話をして時間を潰していたその時、一迅の風が吹いた。やぐらの脇を何かが目にも止まらぬ速さで駆け抜けていく。一人は気づかなかったが、もう一人は視界の端に捉えることができたようだ。


「おい、今誰かが通らなかったか?」

「……はあ? いや見てないけど」

「おかしいな。確かに凄まじい速度で何かが駆け抜けて行ったと思ったんだけどな」


 きょろきょろする相方につられて同じように辺りを見回していると、周囲がにわかに暗くなった。地面に影が広がり、魔王城に向かって押し寄せていく。雨でも降るのかと考えながら空を見上げて、思わず目を疑った。


 普通では考えられないくらいに真っ黒な雲が、カーテンで光をさえぎるように空を覆い尽くそうとしているのだ。暗雲はぱっと見た限りでは一つの塊のように思えたが、目がいいからこそわかる。あれは無数のなにかが身を寄せ合っているに違いない。虫か、鳥か、判断をつけるために目をこらして――――悲鳴をあげた。


「おいどうした?」


 兵士は確かに見た。その視線の先には闇と変わらない黒衣をまとった骸骨、瞳の代わりに青い炎、そして血の色をした大鎌を手にしているあいつらは――――。


「死神だ!」


 もう一方の兵士も遅れて気づく。足をとられて尻もちをつき、上ずった声で叫んだ。


「おい、おいおいおい! なんなんだこれは!?」

「わからない、でも明らかに異常事態だ! れ、連絡を急がないと!」


 未知の恐怖に冷や汗が噴き出した。足は震え、腰が抜けそうだ。手のひらににじんだ汗をすそでぬぐい、はしごに手をかけたところで、気づく。


 遠くの魔王城、その手前に人影が見えたのだ。思わずやぐらから身を乗り出す。目を細めると複数人いるのが確認できたが、すぐに影がさして見えなくなった。


 空本来の青色ははるか遠くに見えるだけ。空いっぱいに広がった黒色はしばらく止まったままだった。様子を見ていると一つの黒い点が落ちていき、魔王城の入り口に吸い込まれていった。それを追いかけるように黒い点が連なる。少しもしない内に一本の線になり、次第に太くなった。黒い塊が波打ち、まるで滝のようだった。


 流れ落ちるのに伴って天を埋め尽くす死神がみるみるうちに減っていき、やがて消えた。


 闇が空を覆い、晴れるまで、わずか数分の出来事である。いつの間にか人影は消えていた。目撃していた二人の兵士をのぞけば全てが元通り、いつもの荒れ果てた土地が広がっているばかりだった。


「な、なんだったんだ今のは……。もしかして白昼夢……じゃないよな」

「ああ……、とにかく連絡を急ごう。俺は馬を出すけどお前は……無理そうだな」


 相方に視線を向けると、彼は腰を抜かしているようだった。幸いここらへんに危険な野獣はいないので一人きりでも問題はないだろう。そう判断し、はしごを伝って降りる。必要最低限の武器を身につけたあと、馬を操り悪路を駆けた。


 その時魔王城の中では、歴代最強と称された初代魔王と、AAAトリプルエーランクと評された魔王との頂上決戦の幕が切って落とされようとしていた――――。

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