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怪異妙奇譚伝  作者: 片宮 椋楽
壹譚目〜即白骨-ソクハッコツ-〜
5/81

「は?」


 枷が取れたように、口がぽかんと開く。


 「寿命吸われてたの」ただ俺が聞きそびれただけだと思われたのか、少し強めに大声で同じことを繰り返された。


「そのー……寿命を吸うっていうのはどういう?」


 少年はポケットからクシャクシャになった銀紙を取り出す。


「アイツは人間の寿命で生きてんの。ラーメン吸うみたいにチュルチュルっと食ってな」


 「お前もやられたろ?」銀紙にガムを吐き出しながらそう少年に言われた時、そういえば、と俺は思い出す。同時に吸われていたのが寿命だったのかと怖くなった。


 ということは、だ。


「この方もあの怪物に寿命を吸われたってことですか?」


 白骨化した女性を目で示しながら訊ねると、今度は青年が「もう少し早ければ助けられたんですが……」と悔しそうに顔を歪めた。


 少年は新たなガムをくわえ、口の中へ。少し噛んでから「アイツに吸われた奴は老けていくんだわ」と話を続けた。


「で、吸われに吸われた結果、老けを通り越して、こうやって白骨化しちまう。まさに、骨の髄までしゃぶり尽くされちまったってわけよ」


 即白骨の犯人は寿命を吸う怪物です——こんなの、広げるだけ広げておいた大風呂敷を畳まずに終わった推理小説みたいだ。だけど、今回はそれが正解。というかそもそも、これは小説の話じゃない。紛れもなく、まごう事なき現実だ。


 ん? 待てよ……「吸われたら老けるって……もしかして俺も?」


「まあその辺は、自分の目で確かめてみな」


 少年に促されるがまま、俺は慌ててケータイの画面を開き、インカメラで自分の顔を写した。


 何も言葉が出なかった。絶句。


「開いた口が何とやら、ってか」


「イチ、空気を読みなさい」


「へいへ〜い」


 そんな2人の漫才のような掛け合いは耳には一応入っていたものの、頭にはちゃんと入ってこなかった。


 俺の顔はシワだらけ。髪は白オンリー。まだ30代なのに、見た目は完全に70代に見える。いや、80代かもしれない。

 そう思ったからこそ気づけたのかもしれないが、よく見ると手も皺くちゃだ。撮影してる時は気づかなかったけど、その時もずっとこの見た目だったっていうことか?

 袖を捲る。腕も同様、皺だらけ。

 服を捲り上げる。腹や背もそう。

 ズボンの裾を上げる。脚までも。


 「そんな……」心の声が口からこぼれた。受け入れたくないからか、見られたくないからか、自然と顔に手を当てていた。まるで磁石の異なる極のように、強くくっつく。


「心配すんな。5日以内にアイツを倒せば元に戻るから」


 手が、まるで磁石の同極同士のように、顔からパッと離れる。


「ほ、本当ですかっ!?」


 青年の希望ある言葉に俺は食いつく。が、すぐに裏の意味を悟り、肩から力が抜ける。


「……でも、5日過ぎたらもう元には戻らないってことですよね」


 「違う違う」少年は手を顔の前で振る。


「元に戻らないどころか、お前、死ぬ(・・)よ」


 ……ん?


 「今……なんて?」俺は自分の耳を疑った。だから聞き返した。


「だから、5日後に死ぬの」


 「……なんで?」今度は少年を疑った。


「寿命で」


 「……誰が?」もうよく訳が分からなくなった。


「ったく……お前がっ! 死ぬのっ!!」


 怒りのような、面倒くささのような感情が混じった強めの一言で、俺はふと冷静になる。最中、交わした言葉を頭の中で巡らせる。


 そして、整理がついた。「……ええぇっ!?」


 まさかの余命宣告に対し、思いっきり声を大にして叫んだ。当然、人生でぶっちぎりのダントツナンバーワンの音量だ。


「いちいち、リアクションがうっせーよ」

 片目を軽く閉じた少年は、耳に小指を入れ、掻き出す動作をした。


「いや……そんな……えっ!?」


 普通は初対面の相手に「死ぬ」と言われて信じるようなことはないが、今回行ってたのはあんなのと全くビビらずに平気で戦ってたっていう特殊な人。例外とも言える。だから、信じざるをえない。


 「ど、どうすれば……」藁にもすがる思いで、俺は問うた。


「だから言ってんだろ? お前が死ぬ前に、アイツを倒しゃいい。簡単なこった」


 ……いや、全然簡単じゃない。

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