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怪異妙奇譚伝  作者: 片宮 椋楽
壹譚目〜即白骨-ソクハッコツ-〜
41/81

 何人もの男女の悲鳴が聞こえ、男はケータイを離す。赤いボタンを押し、通話をやめる。続けて画面をタップし、再び耳につけた。


『はい』相手は若い女である。


「ちゃんとできたみたいだね」男は不敵に笑む。


『いや……その……』


「ん?」


 男は、言葉を詰まらせたことに引っかかりを感じた。だが、悲鳴や衝突音はしっかり耳に届いている。


「もしかして、ズレちゃったりしちゃったかしら?」


『……はい』苦々しい返事だった。隠せておけるものならば隠しておきたい、そんな感じだった。


「もぉーせっかくタイミング合わせてあげたのに~」


 男は唇をとんがらせ、肩を落とす。


『も、申し訳ありませんっ』


 空を切る音が聞こえた。それが、勢いよく頭を下げたことにより生じたものだと男はすぐに理解する。


「ちゃんと逝ったのね?」


『はい。頭部がちゃんと潰れていますので』


「動いては?」


『おりません。ぴくりとも』


「なら、今回は大目に見てあげよう」


 多少誤差は生じたものの、自身と繋がる情報を持ったまま殺すという大元の目的は果たせた。であれば、一件落着。他に問題があっても、構わなかった。


『ありがとうございます』またしても空を切る音。


「んじゃ、轢いた車の処分はよろしくね」


『御意』


「あぁ、そうだそうだ」切ろうとするところを、男は慌てて呼び止める。「死んだ、その……なんとか君ってさ、頬っぺたに傷付けてたんだよね?」


『はい。シク(・・)様と同じ位置に』


「ふーん……」シクと呼ばれた男は口をとんがらせた。「なら、マスクは?」


『つけていた、と本人は申しておりました。後を尾けていた際や店員として対応した際に』


「例の、記者と女子高生が2人と一緒にいるって話してたやつね。そういやあ、誘導した悪霊は?」


『倒されてしまいました』


「オッケーオッケー。ま、証拠を消すため(・・・・・・・)の時間稼ぎ(・・・・・)だったから、別に問題ナッシング。んじゃ、さっきの頼むね~」


『御意』


 再度同じ返事を聞いて、シクと呼ばれた男は電話を切った。


「ったく……」シクは目を細める。「ボクに繋がるようなことはやめてって言ってるのに、なーんで傷つけちゃうんかな」


 呆れたように小声で呟き、頬を掻く。逆五芒星の痣(・・・・・・)がある辺りを何度も何度も。


 そして、シクは手を空にかざすと、「怪異だってなんだって、みんなみんな生きているんだ。ともだちなんだ〜」と歌い出した。

 周りから向けられる訝しげな目線など、何一つ気にしていない。


 扉が手前に開く。中からサラリーマンが1人。と、ハチマキをした女性が1人後から。ラーメン店の名が入った黒シャツを身につけている。


「お次の方ぁ、どうぞ」


 首元を拭く。細かな汗がこれでもかと噴き出している。日差しが照りつける外に30分以上並んでいれば当然と言えば当然であった。相当暑いのだろう、服のどこに汗をかいているかが一瞬で把握できるほど。


「おっ、やっとだ〜」


 外にいたというのに、1人だけ空間が違うかのように微塵も汗をかいていないシクは、事前に店内の券売機で購入した白い券を女性店員へ渡した。そこには大きく黒い文字で、“特製とんこつ”と印字されている。


「特製ですね。はい、こちらへどうぞ」


 女性店員は手で示し、薄暗い店の中に誘導する。シクは満面の笑みを浮かべる。その表情からは、これからやってくる幸福を心から待ち侘びている、という喜びと幸せしか感じない。


 そうしてシクは、「いらっしゃいませ」と後追いの掛け声が響く店内へと消えていった。

怪異妙奇譚伝 壹譚目を最後までお読み下さり、誠にありがとうございます。

そしてお久しぶりです、片宮椋楽です。


楽しんで頂けたでしょうか? であれば非常に嬉しく、そして幸いでございます。


(※以下ネタバレを含みます)

幼稚な態度振る舞いを見せながらも、自分の身長の何倍もある怪異に対し勇敢に立ち向かっていくイチ、過去にシクに対しては少し感情的になるものの、イケメンで冷静沈着で頭脳派な好青年トーは。あっあと、オカルト誌の記者として(何より視点者として)怪異に立ち向かった一般人坂崎は。難がありながらも互いに信じ、行動していきました。そして、「実はもう何度も3人は出会っており、その度に坂崎は忘れていた」という真実が最後明かされましたが、驚いてくれました?そして、あらすじにあった“誰も知らない物語”の真意が伝わってたら嬉しい限りです。(あらすじから伏線はあった的な……はい)

ある意味ショッキングで悲しい事実に対し、正直イチとトーのメンタル強過ぎだろーと書きながら思っておりました。だって、助けても助けても自分たちのことは忘れられるのに、毎回命を張ってよく知らない人(今回は違いましたけど……)を助けてる——ある意味究極のボランティアですよね。(自分だったら無理ですね……寂しくて死んじゃいます)

ですが、記憶をなくして理由が分からないのに、坂崎は涙を流しました。それはある意味、忘れる忘れないを超越した何かであり、坂崎に関しては何度も一緒に戦ったことで芽生えた友情なのかもしれません。


そして、記憶の要素について私が提唱したいことがあります。

それは、「この物語の中で起きたのは、実は現実の話なのかもよ?」ということです。

もし怪異が仮に存在し、倒されたことによって我々全員の記憶から消えたとしたら……世間で起きている事故や病死にはもしかしたら怪異が、はたまたイチやトーのような妙奇士&妙奇人が関わっているのかも……要するに、この物語そのものが都市伝説的な存在になるというわけですw

我々が知らないところで何かが動いている。そして、我々が見ているものはただの表だけ、ほんの一部だけなのかもしれない……ということです。

これで、フィクションがフィクションだけで終わらず現実に多少なり影響を与えられれば成功で、嬉しいです!


さて、ここからは少し真面目な話を。

本作は完結までに大変長い時間を要しました。その理由は2つ。

1つは、他作があったから、です。『グラニスラ』や『天使と〇〇』の連載、そして当初は短編1本のはずが好評につき、描くテーマをiで統一したiシリーズの新規連載などそちらに執筆が傾きがちでした。

そして2つ目。これが割合的には9割を占めるかもしれないので、実質これが原因です。それは、“記憶が全てなくなる”という要素を本当に取り入れるべきか悩んだから、です。三十六・三十七にて大々的に明かされる、本作最大の衝撃であります。形として斬新にした要素であると思い、「早く明かしたい〜」と思いながらワクワクして伏線を張り、執筆を進めていきました。

ですがある日、「これは、これまでの不安要素を全て一瞬でなかったことにできるズルい要素ではないか? 夢オチにも等しい要素ではないか」と感じたのです。自分の詰めの甘さを責めました。そして同時に、続編の壁となりました。どんな難題を課しても窮地の追い込まれても「いや、でもどうせ記憶消えるんでしょ?」という読者の方々の読み進めていくワクワクやドキドキを打ち消してしまうような、興ざめになり兼ねない要素に変わってしまうからです。

そう考えて考えて考えた結果、『怪異』の執筆ができなくなってしまいました。筆をとっても常に不安がよぎり、書くことに楽しみを持てませんでした。最低でも自分が自信を持って「楽しい!」と思えるものを書かなければ読者の方が楽しいなんて思えず、それどころか負の感情が伝わってしまうと思ったのです。そのため、他作品に逃げ、『怪異』の連載を何度も休止するという応援してくださる方々に対して、失礼極まりないことを私はしました。改めて、謝罪をさせてください。まことに申し訳ございませんでした。

ですが、本作を書くきっかけでもあったこの要素で最後まで書くと強く決意し、またこれから先に入れようとした要素(指名手配etc.)を全て先に出すことであえて自分を追い詰め、記憶が無くなるという要素が逃げでないことを自分なりのけじめとして示した上で、執筆を再開しました。そうして作品の完成・本日の完結に至ります。

結果、たったの12万文字強に1年5ヶ月も費やすこととなってしまいましたが、自分の中では当初予想していた物語よりも良い作品となって、皆様にご提供できたのではないかと思っております。


最後にこれからの展開ですが、もしやと思ってる方もいらっしゃるかもしれませんが、次の視点は坂崎ではありません。

そうなんです、坂崎とはまた別の、今回でなかった全く無関係の人が視点者として出てきます。あっ、イチとトーは主人公なので出てきますよ。ただ、もう書き始めた時から本作は物語毎に違う怪異・違う目線で2人を描いていこうと決めていました(まあグラニスラの視点変更がない感じと捉えていただければ……)。

老若男女様々な視点から2人をどのように捉えていき、そして解決していくのか。少し時間は空いてしまいますが、一人称という視点では普段できないようなこともしていきますので、勿論、2人とシクとの因縁など今回散らばらせておいただけのことも後々回収してまいりますので、ぜひ楽しみに待っていてください!


では、また逢う日まで!

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