一枚の和紙
最近全く投稿できなくてすみません。アイデアは浮かぶもののなかなか文章にすることができずに四苦八苦していました。今回は初挑戦の怪談ものです。人によっては怪談?と思うかもしれませんが楽しんで読んで下されば幸いです。
昔、あるところに和紙職人の母親と十歳になる一人息子の一志が仲良く暮らしていた。和紙職人の母親の腕はとてもよく、職人の間でも尊敬されていて一志も職場に行くといつも可愛がられていた。しかし母親は病に伏せってしまい余命わずかと宣告された。一志は日に日に衰えていく母親を必死に看病したがよくなる気配は全くない。そんなある日、母親は一志を呼び寄せ一枚の小さな和紙を渡した。
「これは私が和紙職人になって初めて作った和紙なの。これをお守りとして、いつも持っていなさい」
母親はその日の翌朝、自分の死期を悟っていたかのように亡くなっていた。
一志は母親を失った悲しさでいっぱいになった。しかし母親と一緒に働いていた和紙職人たちや近所の人に支えられ、一志はなんとか立ち直っていった。そして母親のような和紙職人になろうと和紙の修行をするようになった。
そんなある日のことであった。
一志は紙漉が上手くできず悩んでいた。その夜、自分の机で勉強している時ふと机の右上に置いてある母親がくれた和紙に目をやった。
「どうしたらいいんだろう・・・母さん・・・」
一志はそうつぶやいた、その時だった。和紙に文字が浮かび上がってきたのだ。一志は驚きながらも浮かんできたその文字をおって読んでみると、そこには紙漉のコツが詳しく書かれていたのだ。小さい紙だったので途中で文字は途絶えていたもののその内容は一志に希望を与えてくれた。一志はその内容をすぐに書き写した。すべて書き終えたら、和紙に書かれていた文字は消え、その続きが再び現れた。一志はそれにまた驚きながらも内容をうつしていった。そしてすべて書き終えた時、再び文字が浮かんできた。そこには、
【がんばってね、一志】
と書かれていた。一志は母親が和紙を通じて助言をしてくれたんだと悟った。一志はそれ以来、疑問があるとその和紙に聞くようになった。一志は助言を上手く活かし、着実に成長していった。しかし、周りがその成長を称賛する一方、それを面白くないと思う人がいた。同じ工場で一志のように修行している稲瀬という、一志よりも三つ年上の男だった。稲瀬は修行したてのころになかなか伸びなかった一志がある日を境に一気に上達し、今自分を追い越していることに嫉妬し、また疑問を感じていた。そして稲瀬は何か秘密があると思い、一志の家までつけていった。そして稲瀬は見てしまった。一志が一枚の和紙に話しかけた途端そこから文字が浮かんでくる瞬間を。そしてそこには和紙を作る上で適切な助言が書かれていたのだ。稲瀬は一志に目にもの見せてやりたいと常日頃から思っていた。そして思った。あの和紙がなくなれば一志の成長もここまでなのでは、と。邪魔ものが一人いなくなるのでは、と。
「それにあんな便利な和紙、あいつより俺が持ってたほうがふさわしいぜ」
そして稲瀬は一志が家から出るのを見計らって忍び込み、机の上の和紙に手を伸ばした。すると突然和紙に文字が浮かび上がった。
【でていきなさい】
稲瀬は背筋に冷たいものが流れ顔をひきつらせたが、それを無視し和紙に手を伸ばした。しかし和紙は何かでくっついているかのようにとることができない。
「くそ!なんで取れないんだよ・・・!」
「おい!なにしてるんだ!」
後ろからの声に稲瀬は振り返ると、いつの間に帰ってきたのか、一志が信じられないといった顔で立っていた。稲瀬はしまったと思ったが、机の上に偶然あった金槌を手にして襲いかかった。一志はなんとか逃げ続けるがしりもちをつき、追い詰められてしまった。これで終わりだとばかりに稲瀬は金槌を振り上げた。その瞬間、机の上の和紙が稲瀬に向かって飛んでいった。
「うお!?」
和紙は稲瀬の顔に貼りつき視界を遮った。邪魔をされた稲瀬は怒り、張り付いた和紙をびりびりに破いてしまった。一志はそれに顔を歪ませながらも再び襲ってこないよう後ろ首を叩いて気絶させた。
一志はボロボロになってしまった和紙を手ですくい、涙を流した。すると和紙は光りを放ちくるくると回りだした。そして、その中心に一人の女性が現れた。一志の母親であった。
「母さん・・・!?」
≪もう教えることはなにもないわ。りっぱになったわね。私の自慢の息子≫
母親はそう言うと、和紙に包まれ淡い光を放って窓の外から空へと消えていった。
それから一志は稲瀬と和解し、よきライバルとして修行していき、のちに双壁の和紙職人として名をあげることとなる。
和紙とは和紙職人の汗と努力の結晶。そこに何かに対する強く思う力があれば、魂をも宿らせてしまうかもしれませんね。
どうでしたでしょうか。もしかしたらこれからも怪談ものの小説を投稿するかもしれないのでそちらも読んで下さるとうれしいです。