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1-7 実はステータスってあるんです

  ◇


 名前も決まって一段落する。さて、これからどうしようか、ということを考えて兎月はふと思うことができた。


「ところでここは、どこなんだ?」

「ここはダンジョン最下層ね。無駄にある階層の一番下よ」


 カシューは666階もあるのよ、と呆れたように付け足した。潜る方も面倒になってくる深さだ。ゲームと違って一回一回の広さも半端ないのだから。


「あんたは『憤怒のピエロ』に飛ばされたはずよ。ピエロ、いたでしょ?」

「ああ、あいつね」


 確かにそのとおりだ。


「あまりに暇だから、魔物を弄くって作ったのよ。送る階層はランダムになっちゃったんだけどね。私が行くのは面倒だし、転移は一応DPがかかるし、そこまでしても行きたくなかったから。結局ここまで来た人はいなかったから、意味なかったけど」

「で、歌ってたと」

「そ、基本的に暇なんだもの。……ねぇ、どうだった? 私の歌。変じゃなかった?」


 カシューは暇といった後、すこし間を置いてうつむきがちに聞いてきた。恥ずかしがることはないと兎月は思うのだが、どうなのだろうか。まぁ、素直に感想を言うだけだ。


「少ししか聞いてないけど……綺麗な声だなぁとは思ったよ」

「ほんとっ!? こほん、ふふん、当然よ」


 顔を勢いよく上げ真紅の瞳を輝かせる。それから、咳をしてごまかし。


「じゃあ、聴かしてあげるわ。ありがたく聞きなさいよね」


 勢いよく立ち上がり言う。兎月の上着を羽織っているとはいえ、いろいろ見えそうで非常にまずい。見えないうちに忠告を試みる。殴られそうだけど。


「あのー、その前に、その、着替えたら? ほげっ」


 予想通り緋色に殴り飛ばされる。宙を流星のごとく飛んで壁に叩きつけられた。クレーターができるが、ボロボロになった部屋にホコリが舞うだけでもはや何の問題もなかった。兎月は血を吐いて倒れこむ。口は災いの元である。まぁすぐに治るだが。


「げほっ、何すんだよ!」

「ナニ、見てんのよ!」

「見てないっての!」


 見ないように忠告したのだから当たりまえといえる。


「私の服をずたずたに剥いだのはあんたでしょうが!」

「人聞きの悪いこと言うな! カシューも俺の服剥いだじゃないか!」

「あんた直るじゃない!」

「それと、これとは……」


 言いかけて止める。こういうときは男の方が謝るべきだろうと思ったからだ。俺大人、と兎月は自分に言い聞かせた。


「何よ。文句があるなら言いなさいよね」

「いや、悪かったよ」

「そ、そう?」


 視線をそらしてだが謝った兎月にカシューは拍子抜けしたようになる。そう、兎月はこう見えて大人なのだ。元の世界ではちょうど二十歳だった。いろいろあって今のような残念な感じになってしまっているが、ひとつ目の異世界でも一年は立っているので立派な青年のはずだった。何の因果か、小さく子どものような男の娘になってしまったが。


「早く着替えてきなよ。待ってるからさ」

「わ、分かったわよ」


 兎月に言われて、カシューは王座があった方に行く。目立たないようにだが扉があった。おそらくその向こうが居住空間になっているのだろう。扉の向こうに行ったカシューを見送り、さてどうするかと考える。特にすることはないがずいぶん壊してしまったので少しは片付けたほうが良いかなと考えてみる。


「はぁ、面倒」


 とりあえず、大きな石の塊を隅に放ることから始める。両手でしっかりと掴んで端まで持っていく。放り投げてもいいがホコリが散るのでやめておいた。汚れそうだからだ。もっともすでに血やら何やらで悲惨と言っていいほど汚れているが。


 女の子の着替えは長い。いや、それは兎月の偏見だが今回に限っては当たっていた。十数個の塊を運んでもまだカシューはでてこない。あらかた大きめなのは運んだので、後は拳サイズなど手では面倒なものしかない。これを素手で片付けるのは遠慮したかった。


「あ、そうだ」


 一つ暇つぶしを思い出してステータス、と念じる。そう。異世界によっては定番と言っていい、あれだ。

 兎月の場合、死にかけないと変化がそうないのでこれまでは見ていなかった。面倒だから、と見てもそれほど意味がなかったから、の二つの理由があったために。今回は死にかけたという程ではなかったが、【再生】はそれなりに動いていたので少しは変化があるかもと思ったからだ。まぁ、見たところで何かができるということはなかったのだが。


 〈願いを叶えるものより、贈り物が届いています。【自己確認】がバージョンアップできます。バージョンアップを開始しますか? ■■より介入を受けました。バージョンアップを開始します。…………完了しました。【自己確認】は【自己管理】にバージョンアップしました〉


 ステータスを開いた途端、機械的な音声が響く。ビクッと跳ねる。いままではこういうことがなかったからだ。


 ◆

 冬池兎月

 スキル

【毒耐性Lv42 Lv23】【魔力感知Lv41】【受入体質(全)Lv90】【再生Lv793】【痛覚耐性Lv65】【危機察知Lv39】【気配察知Lv21】

【物理耐性】

 {【打撃耐性Lv86】【刺突耐性Lv78】【斬撃耐性Lv65】【衝撃耐性Lv57】【熱変耐性Lv47】【摩擦耐性Lv48】【酸塩基耐性Lv13】【侵蝕耐性Lv77】【圧力耐性Lv55】【光圧耐性Lv34】【急変耐性Lv42】【重力耐性Lv3】【吸熱耐性Lv3】【電子変動耐性Lv5】【軋み耐性Lv8】【振動耐性Lv9】【エネルギー耐性Lv18】}

【暗視Lv3】【硬化Lv10】【不食不眠Lv16】【無呼吸Lv46】

【魔耐性】

 {【風耐性Lv23】【火耐性Lv16】【氷耐性Lv27】【土耐性Lv31】【水耐性Lv9】【雷耐性Lv13】【光耐性Lv24】【闇耐性Lv7】【対変耐性Lv9】【精神耐性Lv14】}

【魂再生Lv354】【回復促進Lv1】new

 異能

【効率変換】【適応改変】【自己管理】【アイテムボックス】


 スキル【再生】が規定レベルを超えました。上位スキルに進化できます。

 進化しますか? 〈YES NO〉

 スキル【魂再生】が規定レベルを超えました。上位スキルに進化できます。

 進化しますか? 〈YES NO〉

 ◆


「なんじゃ、こりゃ……」


 いろいろと変わっていることに驚く兎月。バージョンアップって何さ。進化って何さ。形式が前とまったく違うのは何故さ。というか、レベルおかしい。兎月が前に確認したときは二桁だった。何が起こった?

 ぐっと叫び声を抑える。叫びたかった。わけわかめ。進化くらいは分かるけど、それ以外はさっぱりだ。


「というか、願いを叶えるものって誰だよー!」


 知らない人からの贈り物に紛糾する。いや、実際には会ったことも、気づかぬうちにお世話になったこともある。そのことについてあの方々から教えてもらったこともあるのだが兎月はさっぱり忘れていた。仕方ないね。兎月だもの。


「もう、いいや……。好きにせいや……」


 グッと一気に疲れた兎月は思考を放棄した。


「何叫んでるのよ」

「うわっ」


 兎月がステータスを見ている間に戻ってきていたカシューが呆れた声で聞いてきた。兎月は黙ってステータス板を指す。


「何よ。何もないじゃない」

「そっすか……じゃあいいや……」


 もはや、兎月には説明する気力もない。殴り合いからの疲れがどっと襲ってきたようだ。【精神耐性】もこういうものには通じ無いようで、とにかく疲れた。

 その疲れた様子の兎月を見てカシューは。


「何よ。せっかく、着替えてきたのに」


 せっかくおめかししてきたのに、と唇を尖らす。

 見れば相変わらず赤を基調とした服だが、今度はアイドルみたいな服になっていた。かなりかわいい。どこで手に入れてくるのだろうか。と普段なら思う兎月だが今はそれより眠かった。


「ごめん……」

「仕方ないわね~。もう」


 眠そうな兎月に、また今度という流れになる。


「まぁいいわ。明日でもいいし。付いてきなさい。寝るとこ用意してあげる」

「ありがと……」

「い、いいのよ。別に」


 素直にお礼を言うと慌てたように手を振る。先程からそうだが、どうもカシューは素直に言われると弱いようだ。そんなことを考えているとウトウトとしてくる。


「ちょ、ちょっと兎月! こんなことで寝ないでよ! あーもう――」


 そんな声を最後に兎月の意識は眠りに落ちた。

 倒れそうになる兎月を抱きとめ、カシューは仕方なさそうに首を振る。そして兎月をお姫様抱っこして奥の部屋に入っていった。



 ◇


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