プロローグ
異世界っていいよね。憧れる。
――なーんて、思う人がいたりする。
未知があって、ロマンがあって、夢にあふれている。
――なるほど、言われてみればその通り。おっと、ここでいうのはもちろん、魔法のある異世界だろうね。魔法のない異世界なんて、過去の歴史に紐解いたようなものだろうし。それはそれ、という人がいるのかもしれないけど、夢やロマンを求めるものはそんなことは求めちゃいない、はずだよ?
そんな異世界で、そこにだ。そんな夢や希望にあふれた異世界で力があったら最高だ。チカラを振りかざして異世界を満喫できるだろう。これはどんな聖者だって変わらない。
――ニンゲンだもんねぇ。まぁ、わからないことない。
何も力に頼るのは傲慢な者たちだけじゃない。例え謙虚な心を持っていたとしても生きるためだ、何だと言って力からは逃げられない。知らぬ間に、無意識に力に頼っていることだろう。いや、べつに何も悪いと言っているわけではない。生きたいのは命ある者にとって自然なことだし、その手段が与えられた力でも誰にも文句をいう資格はない。妬みや嫉妬、歪みが付き纏うかもしれないがそれはまぁ、仕方ないことだ。
――そりゃ、そうさ。誰だって何かには頼っている。それに生きる者には仕方ないと思うけどね。本能とかあるし。
それでも異世界に憧れるものは多いだろう。異世界に行きたいと願う者は必ずいると思う。馬鹿らしい、現実逃避だろ、と自分をごまかしている者も叶うなら、話は別になってくる。ヒーローになりたいだろう? 自由気ままに生きたいだろう? そんな誰もが願う夢の舞台が異世界だ。在りえない仮定によって、それは実現する。
――そうだねえ。現実に不満を持ったことがある人なら特にそうだろうねえ。届かないからこそ、願うんだよねえ。
だけれども、水を差すようで悪いがそれは一部の才能ある者たちだけだと忠告したい。言ってはなんだけど。最初に何かもっている者がやっぱり一番影響強いのだ。
――そ。その通りだね。勇者召喚なんてそれの最たるものだし、転生ものだって結局のところ周りの環境、そして資質がものを言うのさ。努力はそれを後押しするだけだよ。最初がゼロだったらどうしようもないからねえ。
物語を創る者はいつだってなにか持っているのだ。凡人はそれを見上げるだけ。いつだって主人公は特別だ。苦難したって、思い悩んだって、絶望に負けそうになってもその何かを持っている主人公なら必ず、どうにかする。どうにかできてしまう。それは凡人にはできないことだ。
だったら凡人はどうすればいいのか。一部の才ある者には絶対に敵わない。それに指を咥えて見ていればいいのか。
――いやいや、そんなことはない。凡人にだって、チャンスはあるよ。
――それが異世界ものの醍醐味だね。とんだ偶然によって、もたざる者はあら不思議。もつ者に生まれ変わる。そうじゃなきゃ物語は始まらないからね。何かを持っていないと人は集まらないし、物語は生まれないさ。
まぁ、仕方ない……よな。凡人は凡人らしく日常を生きる。それが世界の定めだろう。諦め、ようか。
――安心してよ。君は自分で思うほど、普通の人生は送らない。幸か、不幸かわからないけどね。
――さて、何が言いたいのかわからなくなってきただろうね。この辺で切り上げるとしますか。感想と意見がごちゃまぜでわかりにくいだろうからね。今は頭が悪い設定だからごめんね。これ以上は語るに落ちるから、強引に締めくくるとしようか。
――これは、かつて主人公を諦めた者の物語。
――ある日突然もたざる者から変化した者のお話だ。
――身体が、力が、魂が。変化してもなお、非凡足りえなかった者のお話さ。
――さぁ、物語を綴ろうか。ワクワクもドキドキもない、非凡ならざる物語を。