ステップ〜3
父親が嬉しそうな顔で入ってきた。義母さんが電話したようだ。
「夢人、良かったなぁ。災い転じて福と為す、だな。父さんの顔も分かるか? トラックに撥ねられたと聞いたときには心臓が止まったぞぉ」
「良く覚えていないんだよね」
「警察の人から聞いたが、信号無視だったそうだ。わざわざ反対車線に出て前の車を追い越したと言うから性質が悪い。逃げようとしたらしいぞ? すぐに捕まったと聞いたがな。いやぁ、それにしても良かった」
異常なほどに喜ぶ二人が目の前にいる。良かったとしか言わない。嬉しくて泣いているのだろうか。それを見ると奇跡が起こったのだと思った。
『引き受けたら良い思いができるのよぉ』
あの気色悪い声を思い出した。ついでに謎の『横河亜里沙』という名前と仕事の内容も。
病院に一泊した。
早々に帰宅して、家中を見回った。記憶している通りの配置だった。
父親は早く帰宅した。よっぽど嬉しいらしい。
喜んでもらえるのはありがたい。二人は自分の事のように泣いて喜んでいる。
「杖も要らなくなるのか…。良かった…。本当に良かった…」
良かったと何度も言っては泣いている。つられて泣いてしまうところだった。
お祝いだと言って二人は夜遅くまで飲んでいた。
そして夜中にリビングで愛し合っていた。二人の声が自室にまで聞こえてきた。
毎日の事だから驚きも興奮もしなかった。
義母さんはまだ三十歳にもなっていない。綺麗で優しいから父親が夢中になるのも無理は無い。