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OTOGI WORLD 〜和の国編〜  作者: SMB
絵本の地にて、の巻
6/35

女王様の君臨


海希「.......」


仮休憩が、既に一時間は経過していた。

あぁ、目の前の私のお昼ご飯...

ふっくらしていたバンズが、今や悲しげにしぼんでしまっている。


イザベラ「なんだ、お前は食べないのか?」


フォークとナイフを使い、トリフがふんだんに乗った、孔子のステーキを食べている。

ランチと言うより、ディナーに近い食事。

小さく切り分け、丁寧に口に運んでいく。


あなたのせいですよ、あなたの。

目の前のお偉い方のせいで、簡単に喉を通る筈もない。


青い空、白い雲、赤い女王様。

今日の私は、なんて運に恵まれていないのだろう。


イザベラ「休憩が終わるぞ?」


お前のせいだ、と言いたくなる。


セリウスと一緒に昼食を始めてしばらくした後、彼女は姿を現した。

私達の姿を見つけると、やけに興味津々で声を掛けてきたのだ。


この異色なメンバーでお昼休み(私は休み時間ではない)を過ごすと言う、なんとも不思議な体験。


私はたかがバイターなのだ。

けれど、私を誘ったウサギ男張本人は、さきほど仕事へと戻っていった(彼は無事に仕事部屋へ戻れるのだろうか)。


無責任にも、この裁判長と私を置いて....


もう一度言うが、私はたかがバイター。

どうしてこんなお偉い様と食事をしているのだ、いや私にこんな意思はないと、さっきから自問自答を繰り返している。


海希「はぁ....食欲がなくて...」


私にとって、彼女も苦手な存在だ。

全身が赤色で目に悪いからではない。

彼女の人間性の問題だ。


イザベラ「チェシャ猫に手を焼かされているのか?」


彼女は、私とレイルが恋人同士だと勝手に思い込んでいる節がある。

とても迷惑な勘違いだった。


海希「恋人じゃないからね」


イザベラ「分かっておる。で、あの猫との生活はどうだ?猫というのだから、手に負えないほど盛る時もあるだろう」


やっぱり分かっていないじゃないか。

どいつもこいつも、ここの住人は本当に人の話を聞いていない。


海希「レイルは元々、私の飼い猫なの。家族なの。分かる?」


イザベラ「ほぉ、そう言う設定なのかお前達は。意外な趣味をしておるな。お前ではなく、あやつがペット...まぁ、悪くはないだろう」


海希「そんな趣味はしていないわ!」


まだ変な話を続けさせるつもりか。

上司の上司に、声を張り上げてしまった。

ただイザベラは、クスクスと笑っている。


イザベラ「そう怒るな。ただの冗談だ」


ワインの入ったグラスを手にしながら、とても楽しそうに。


どう見ても、私で遊んでいる....

最初の内は敬語を使っていたのだが、彼女がいつも私で遊んでくるので、いつの間にかタメ口になっていた。

彼女も何も言ってこないので、それで浸透してしまっている。

それでも、いつ首を飛ばされないかヒヤヒヤしている毎日だ。


イザベラ「お前は面白い奴だ。一々反応が大きいから、セリウスにもからかわれる。まぁ、その分可愛がっているのだ。多めに見ておくれ」


私がジャックに求めるものと同じ。

やはり私も、ジャックには悪い事をしていると言える。

ジャック...いつもごめんなさい。

今ここで、軽く謝っておく事にする。


海希「昼間からワインって...仕事に差し支えないの?」


赤いワインをグラスで軽く回している。

香りを楽しんだ後、少し口に含んだ。


イザベラ「ワインだと思うからいけないのだ。これはただの水。水ならば問題ないだろ?」


問題あり過ぎだ。

そのワインではなく、彼女の思考がだ。


イザベラ「最近はつまらない罪人しか来ない。なんだか、この仕事も飽きてしまうな」


海希「平和だって事でしょ」


つまらない罪人という意味を、小さな罪を犯した人間と言うニュアンスで捉えた。

この世界が平和になるなら、私だって過ごしやすい。


イザベラ「平和のどこが面白いのだ?つまらないさ過ぎて、片っ端から首を刎ねてしまいたくなる」


海希「あなた、それでも裁判長なの?」


それではまさに地獄になってしまう。


イザベラ「相変わらず生意気な娘だな。まぁ、そんな事をすれば王妃に怒られてしまうからな。わらわだって、これでも大人しくしている方だ」


アルムヘイム城の王妃様。

ガラスの靴を履いたお姫様だ。

かぼちゃの馬車に乗り、あの日に会話した事は、今でも覚えている。

とても気品ある女性だった。


海希「仲が良いのね」


イザベラ「もちろんだ。あやつとは昔からの仲だからな」


海希「王妃様は元気にしている?」


私が最後に彼女を見たのは、舞踏会の夜だ。

彼女は、ほとんどの時間を城の中で過ごしているようで、なかなか外で見かける事はない。

さすがおとぎ話の王道。


イザベラ「あやつは....少し気が滅入っているようだったな」


飲み干したワイングラスを、ゆっくりとテーブルに置く。

布巾で真っ赤な口元を拭い、顎に手をやった。


海希「体調でも悪いの?」


優しい王妃様の事だ。

悩みをたくさん抱え過ぎて、病んでしまったのかもしれない。


イザベラ「いいや、そうではない」


海希「違うの?」


イザベラ「あやつは神経質なところがある。真面目で気質で...くだらないところで頭を使う」


きっと、くだらなくはないだろう。

私にとっても、とても重要で大切な事のような気がする。

なにせ、あの王妃様だ。

くだらない事でギャーギャーと言っているのは、むしろ目の前の裁判長様の方。

だが、そんな事は口には出さない。


ふと、イザベラが人差し指をテーブルに置く。

真っ赤なマニキュアでコーティグされた綺麗な爪。

黙って見ていると、コツンっとテーブルを軽く叩く。


イザベラ「お前は、確か他所の世界から来たのだろう?」


海希「え?」


突然の質問に、私は危うく聞き流すところだった。

それは、とても今更な質問だった。


海希「そうだけど...それが?」


イザベラ「....和の国を知っているか?」


聞いた事のない名前が飛び出した。

私からすれば、ちんぷんかんぷんだ。

なので、首を横に振る。


イザベラ「ガリバーから旅の土産話に聞いた事があってな。お前のいた世界とは、また別の世界が存在するらしい」


海希「和の国...」


やはり聞いた事がない。

この世界のように、メルヘンな所なのだろうか。


イザベラ「とは言っても、そう遠くない場所にあるのだろう」


一体何が言いたいのだろう。

彼女の話に、私は必死に耳を傾ける事しか出来ない。


イザベラ「楽しそうだとは思わないか?そこへ渡るには相当な時間を費やする事になるが....ふふっ、本当に興味深い。セイラを誘って旅行にでも誘いたい所だが、どうにもうまくいかなくてな」


スクッと立ち上がり、イザベラは広がったドレスを引きずりながら、食堂を出て行った。

その後ろ姿も、とても堂々としている。


彼女の威圧に勝てる人間など、存在するのか微妙なところだ。


海希「和の国ね...」


結局、イザベラは私に何が言いたかったのかは分からない。

病んでいる王妃様の為にも、気分転換に遠出をしたい...そう言いたかったのか。


海希「あ...仕事に戻らないと」


どちらにしても、厄介ごとに巻き込まれるのは、もう御免だ。

食べ損ねてしまったバーガーと飲み物を掴み、私は食堂を後にした。


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