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OTOGI WORLD 〜和の国編〜  作者: SMB
絵本の地にて、の巻
5/35

裁判の支配者


赤と黒の服を着た兵隊達が、綺麗な列を作って歩いて行く。

お城の兵士達とは違い、ブリキの人形で見た事があるような格好。

毛皮のような帽子が特徴的だった。


ここの使用人達は、赤と黒の制服で統一されている。

その胸元の刺繍は、ダイヤだったりスペードだったりクローバーだったり。

なんだかトランプの柄のように見えてくる。

むしろ、トランプをモチーフにした制服だ。


使用人「こっちは私が担当しますから、あなたはそっちをお願いしますね」


海希「分かりました」


赤い薔薇の香りが広がる庭園。

棘のある赤い花は美しいが、たまに毒々しくも見える。


花を傷付けないように、持っていた箒で掃いていく。


これを少しでも傷付ければ、私の首が飛んでしまうのだ。

簡単な仕事なのに、こんな命懸けな場所で働いているなんて、やはり私はジャックに言われた通り、命知らずなのだろう。


日差しは暖かい。

これで稼げるのだから、ありがたい事だと思う。


自分の分担場所の掃除を終え、今度は室内の拭き掃除。


キラキラと光る大理石の床を滑るように、モップ掛けをしていく。

意外に埃が溜まっていたようで、隅に集めていたゴミが、着々と溜まっていった。

私はそれを、綺麗にちりとりですくい上げる。


セリウス「今日も真面目なんですね、貴女は」


海希「わっ!!!」


耳元にかかった吐息に、思わずちりとりを落としそうになってしまった。

せっかく集めたゴミがバラバラになってしまっていたら...危うく彼を殴る事になっていた。


海希「急に驚かさないでよ!」


しかも近い。

振り返れば奴がいた。

気配を消して近付いて来るなんて、このウサギは殺し屋の素質があると思う。

そんな事を思いながら、すぐに彼から必要最低限の距離をとった。


セリウス「おや?私は驚かしたつもりはないのですが」


彼の存在自体が心臓に悪いのだ。

このウサギ男は、私にとって要注意人物。

女性のような綺麗な顔立ちをしたウサギ男。

その頭には、真っ白な長い耳が付いている。


海希「あなたの存在自体が、私の中で驚きなのよ」


セリウス「そんなに私を意識してくれていたとは光栄です。でも、正直今の反応はあまり色気を感じないですね」


光栄な事ではない。

むしろ、恥だと思え。

しかも、色気が無いとは大きなお世話だ。

お前には一生見せる事の無い色だよ、と心の中で毒付いておく。


セリウス「休憩中なんですが、良かったらランチでもご一緒しませんか?」


海希「しない」


冷たく言うと、私は仕事を続行した。

しかし、隣のウサギ男はまだここにいる。


セリウス「つれないですね〜。ここの食堂メニューのにんじんサンドは美味なんですよ?ウサギではない人からも人気があると言うのに....」


惜しいとは思わない。

"にんじんサンド"が嫌な訳じゃない。

カロリーを控えてある上に、絡めてあるソースがなんとも絶品で、ダイエット中の女性からすれば、人気があるのも分かる。


私の場合、ただこいつが難点なのだ。


海希「今は仕事中なの。休憩は後半だから、駄目ね」


きっぱりと言い切ってやった。

躊躇はしないし、もちろん同情なんてものもない。

これくらいしなければ、彼はしつこいのだ。


しかし、結局いつも流されてしまう。


セリウス「なら尚更ですね。上司命令です。私のランチにご一緒しなさい」


さっきまでの明るい声とは違い、冷たい印象を覚えてしまうほどの命令口調。


思わず彼を睨んでしまった。

ここで仕事をしていなければ...こいつが上司でなければと、どんなに願った事か。

それならば、確実に彼の耳を引っ張り回していただろう。


海希「〜〜っ!!!」


文句は言えない。

それが仕事だと言われたのなら、従うしかないのだ。

ご飯くらい....それで済むのなら、ありがたい事だった。

いつ彼に変な注文をされるか、毎日ヒヤヒヤしている。

セクハラ発言だってされ兼ねない。

いや、これも所謂パワハラなのだが。


海希「....分かったわよ」


セリウス「それが上司に対する言葉ですか?」


冷ややかに笑う。

両目の赤い瞳に射殺されるような気分に、背筋がゾクリとした。


海希「承知しました!」


ワザと強調して言った。

すると、彼は満足そうに微笑む。


セリウス「そうですか。それでは参りましょう」


参りましょうと言っているが、先頭を歩くのは私だ。

このセリウス・アクランドと言うウサギは、とてつもない方向音痴。

彼について行けば、食堂まで辿り着くのにどれだけの時間を費やすか分からない。






海希「.......」


赤の裁判所の食堂は屋上にある。

席は屋外と屋内と二ヶ所にあるが、私は屋外のテラス席を使っていた。


床も壁もテーブルも、どこを見ても赤と黒のモノトンカラー。

なんだか目に悪い(ピーターがいれば、目の保養になっていた)。


セリウス「う〜ん、やはりこれは美味ですね!売り切れギリギリで間に合って良かったです!」


あぁ、この濃厚なソースのなんとも言えない風味が口の中に広がって...(以下所略)と、このウサギ男は食事を楽しんでいた。


こいつ...マジもんのウサギだな。

その耳だけじゃなく、人参を絶賛しているのがまさにウサギと言える。


グラスに入った水を口に含み、言いたい言葉を喉の奥へと流し込んだ。

楽しそうにパクパクと食事にありつくセリウスの姿は、少しだけ可愛くも見える。


海希「間に合って良かったわね。まさか、あなたがそんなに人参好きだったとは...予想通りだわ」


セリウス「貴女にも差し上げましょうか?私が食べさせて差し上げますよ」


クスッと小さく笑ってから、彼は私の口元にそれを持って来ようとした。


海希「いらないってば」


セリウス「そんなに恥ずかしがる事ないじゃないですか」


海希「嫌がっているのよ!」


セリウスの相手をしていると、頭が痛くなってくる。

私もどさくさに紛れてごく普通のハンバーガーを買ったが、食べる気にならないでいる。


セリウス「仕事には慣れました?まさか、あなたがここで働きに通うなんて、私はとても嬉しいですよ」


お前には慣れないよ。

そんな事は、口に出来ない。

なので、心の中で毒付いた。


海希「まぁ、こう言う仕事には興味があったし。でも、雑用ってのもいろいろ大変ね。きっと、セリウス達の仕事はもっと大変だろうけど」


セリウス「私の心配をしてくれるんですか?大丈夫ですよ、私のスケジュールは多少変更があったりしますが、仕事に差し支えありませんし、なんなら余裕があるくらいです」


ティーカップに入った紅茶を口にしたセリウスは、やけに堂々として見える。

どの口がそんな事を言っているんだ。


海希「へぇ、余裕ね...それ、さぼっているからでしょ?」


セリウス「ちょっとした息抜きも必要なんですよ。だから、たまには私の部屋にも遊びに来てくださいね」


この遅刻魔のさぼり魔め。


彼が毎日存分に道に迷っている事によって、仕事が遅れ、時には私のような雑用係が手伝う事だってあった。

とても迷惑な上司...彼は即刻クビにするべきだ。


セリウス「ほら、貴女も早く食べないと、冷めてしまいますよ?」


赤い瞳が細くなる。

優しい口調で、それもとてもつもなく綺麗な笑顔を作っている。


美形なウサギに促され、私は小さな溜息を吐いた。

とりあえず、せっかくなんだからこのタイミングで昼食を済ませておこう。

それに、この男に付き合わされるのはいつもの事。

今日捕まってしまったのは、私の不覚。


目の前のバーガーに手を伸ばす。

それと同時に、コツコツとヒールが床を叩く音が耳に入ってきた。


徐々にそれが近付いてきたのが分かり、何故かその音が止んだのは、私の真後ろでだった。

何気なく振り返ってみたが、彼女の姿が目に入った途端、せっかく湧きおこっていた食欲が失せてしまった。


イザベラ「2人でランチを楽しんでいるのか?なら、わらわも混ぜてもらう事にしよう」




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