三匹が居る
白「.......」
レイル「.......」
......。
............。
..............どうしよう。
はっきり言って、どうしようもこうしようもない状況だ。
かなり気まずい沈黙が流れている。
その為か、空気も淀んでいるように感じる。
周囲の人々を見れば、この世界はとても平和に廻っていると思う。
珍しいものがあれば驚き、楽しい事があれば笑い、気にくわない事があれば怒る。
全ては、私達には全く関係ない事であり、そして私達のこの状況も、周囲には全く関係のない事だ。
そろそろ、淀み過ぎたこんな空気に耐えられない。
出来る事なら、今すぐ逃げ出したい。
季さんの元へ急ぎ、彼の大人の空気を味わいたい。
秀吉「お嬢以外の子のお供をすんのも、なかなか楽しええな!白が海希ちゃんにくっ付いてんのも分かる気するわ〜」
1匹だけ、馬鹿みたいに明るい猿がいる。
ニマニマと笑い、さっきからネチネチと私に絡んでくる。
尻尾をうねうねと動かしながら、かなり上機嫌そうだ。
海希「話し掛けないでよ」
隣にいる秀吉に、ボソリと呟く。
レイルがいる前でと言う事もあるが、あんなに喋り倒していた明るい白が静かなのだ。
静かなのは良い。
ただ、静か過ぎて怖い。
たまに、唸り声が聞こえてくるのは気のせいではない。
秀吉「はっ?なんでや?」
海希「いいから話し掛けないでよ。気まずいでしょ!」
喋りたいなら1人でやっていればいいのだ。
世界共通で、独り言というものが存在しているのだから、大いに活用すればいい。
それに、こいつに酷い事されたのは忘れていない。
許し難い行為だった。
こう見えて私は根に持つタイプなので、彼を好きにはなれない自信がある。
警戒網は解かない。
秀吉「はは〜ん、分かったで?俺と2人で歩きたいっちゅう事やな?」
こいつは何も分かっちゃいない。
と言うより、どうしてそんな妄想が出来るのだろう。
それとも、そんな風に思わせている私が悪いのか(言ってもいないし思ってもいないしそんな素振りも見せているつもりない)。
桃太郎は、こいつに空気を読む術を教え忘れている。
白に至ってもそうだ。
海希「あんた、馬鹿なの?」
秀吉「恋っちゅうもんは、人を馬鹿にさせるんや....せやろ?」
そんな話はしていない。
恋をすれば盲目になると言うが、今の私には彼のアホ面がはっきりと見える(確かに男前な顔はしているが、発言がアホなので)。
私が何と言い返そうか悩んでいると、私の肩に秀吉の腕が手慣れた感じで回された。
女の子が大好きな、遊び人。
やっぱり、見た目通りだな。
この通りチャラついているし、耳たぶのピアスだってチャラチャラと音を立てている。
こう言うタイプは嫌いだ。
やはり、こいつを好きになる理由もないし、メリットもない。
秀吉と虚しいだけのやり取りをしていると、急に腕を掴まれる。
勢いのままに、レイルの方へと引っ張られた。
おさまるべくしておさまったようなレイルの隣。
違和感はない。
レイル「アマキに近寄るな、山猿。じゃないと、お前を殺してやる」
と、レイルのオッドアイが秀吉を睨む。
秀吉「なんや?さっきは俺を殺し損ねた癖に。さっきはこの子に止められたけど....決着つけさせてもええねんで?」
こんな所で、またやり合うつもりか。
睨み合う猿と猫。
私の肝はヒヤヒヤだ。
海希「やめなさいって...わっ!!!」
再び誰かに引っ張られてしまった。
見上げてみれば、今度は白に引き寄せられていた。
白「猫だって彼女に近寄るな!俺の目が光ってる内は、手は出させないからな!」
レイル「なんだよ、馬鹿犬。俺に喧嘩を売ってるのか?」
今度は、いがみ合う猫と犬。
更に私の肝が冷える。
が、私が止める前にまた腕を掴まれた。
引っ張り込まれた秀吉の隣。
また、スタート地点に戻って来たのだ。
秀吉「はいはいはい、お前らは向こうでケリつけて来い。犬と猫の可愛さ争いは古の頃から続いとるからな」
...その決着、ぜひとも見届けたい。
いや、そんな事を考えている場合ではない。
本気でそんな事をおっ始めたら、ニャーニャーワンワンの可愛い喧嘩ではなく、血塗られた思い出になってしまう。
秀吉「俺らは仲良くデートでもしよか。こいつらおらん方が、海希ちゃんも落ち着けるやろ?」
レイル「アホか!なんでお前とアマキがデートする必要があるんだよ!!!」
秀吉「ちがーーーーうっ!!!アホの力み方が違うねん!そこはもっと腹に力入れんかい!アホか、や!!!気付けろボケ!!!」
怒るとこはそこなのか?
むしろ、言い返すのはそこだけで良いのか?
そう思っているのは私だけだろうか。
レイル「だいたい、なんであんたはこんな奴らといるんだ!?いつからそんなに動物が好きになったんだよ!!?」
そう言って、レイルは私の腕を掴んだ。
動物って....お前も動物じゃないか。
そんな耳を生やしておいて、どの口が言っているのやら。
私だって、何故こんなメンバーで歩いているのか分からない。
なんだか目的も分からなくなってきている。
私が願うのは、ただ1つ。
早く季さんに会いたい、それだけだ。
白「君だって、なんでついて来るんだ!?海希も甘いって!こんな猫、置いてくれば良かったのに!」
レイルから、白へと引き剥がされる。
何故か、縫いぐるみのように抱き込まれてしまった。
レイル「てめっ...離れろ!!!」
白「俺はこの子にとって必要不可欠なんだ。俺達、似た者同士だしね」
と、得意気に鼻を鳴らしている。
そんな彼には悪いが言わせて貰う。
いつ誰が必要不可欠と言ったんだ。
残念な事に、ここにも妄想癖の奴がいる。
私の頭が徐々に痛くなってくる。
秀吉「こら、馬鹿犬!!!くっつき過ぎや!離れんかい!!!」
再び、スタート地点に戻される。
まるで、ベルトコンベアの上を流れているようだ。
ぐるぐると回る様は、私の頭を痛くするだけ。
こんな乙女ゲームのようなものは求めていない。
どいつを選んでも同じ人種。
プロローグで見るキャラ紹介の時点でどいつもこいつも第一印象が悪い。
なんなら、遠慮せずスキップする。
誰一人として攻略したくない。
私はRPGものが好きなのだ。
1人でゆっくりとアイテムを揃えて、地道に攻略するのが良い。
なのに....なのに....
こんな愉快な動物アイテムを集めてしまうなんて...まるで移動動物園だ。
たとえ召喚士を極めていたとしても、こんな召喚獣は嫌だ。
頭が痛い。
とにかく頭が痛いのだ。
レイル「お前こそ離れろ!バナナ臭いのが移るだろ!」
秀吉「なんやて!?バナナの悪口言うたら承知せえへんぞ!!!」
白「君だって魚臭いだろ!あぁ、もう!秀吉もその子から離れてよ!」
秀吉「何言うとんや、この露出犬め!お前は臭いより、その癖直さんかい!!!目に悪いんじゃ!!!」
レイル「お前こそ、その変な喋り方どうにかしろよ!それに、アマキにちょっかい出しやがって!」
白「えぇ!!?秀吉、海希に何かしたの!!?」
秀吉「ちょっと遊んでただけやろ?一々うっさい猫やで!」
白「秀吉はそうやって女の子にすぐに手を出して....お嬢にいつも怒られているだろ!?良い加減、反省しなよ!!!」
秀吉「お嬢の前では良い顔してるんですー。あっ、これお嬢には言うなや!しばかれるからな!」
白「って言うか、そこの猫だって海希に怪我させてるだろ!人の事言えるのかよ!!?」
レイル「お前には関係ないだろ!お前だって、アマキに変なもん見せやがって!」
秀吉「ほんまや!それもお嬢から散々言われてたやろ!?お前はほんまに馬鹿犬やな!」
白「あれは違っ....事故だ!そんなつもりはなかったんだ!!!」
あぁ...なんて空は青いんだろう。
広い広いこの青空。
こんなに広い世界なのに、どうして私のいる場所はここなんだろう...
言い争う3匹から距離を取り、私は彼らより早く歩いた。
側に居たくない。
私は他人...私は無関係...
自分に何度もそう言い聞かせた。
私があえて割って入ろうとしないでいると、彼らの話はどんどんズレたレールの上を進すんでいく。
白「だいたい、裸の何がいけないんだ!!?お嬢も秀吉も、いつも頭ごなしに怒るだけじゃないか!!!」
秀吉「怒るに決まっとるやろ!羞恥心を持てと言うてるんや!女の前で見せるんは勝負の時だけや!それまで大事にしまっとけ!」
白「意味が分からないんだよ!勝負ってなに!?なんで他は駄目なんだ!?俺、全然恥ずかしくないし!」
レイル「お前の存在自体が羞恥の塊なんだよ!!!犬にはそんな事も分からねぇみたいだな!」
白「猫にだけは言われたくないね!なんだよ、その頭!白なのか黒なのか、よく分からない髪質の方が、よっぽど恥ずかしいよ!俺は白だから、恥ずかしくない!」
秀吉「これやからこいつは〜〜っ!!!お前は純粋過ぎる!!!もっと世間の荒波に揉まれて汚れて来いっ!!!その無駄に白い毛を汚して来い!!!」
白「なんだよ!!!俺は海希とお風呂にも入ってるんだ!もう体の付き合いなんだからな!!!」
それを言うなら裸の付き合いだろうがぁあ!!!
かなり意味が違ってくる。
そんな付き合いでも、そんな関係でもない。
だいたい、たとえ裸の付き合いだとしてもそんな関係になったつもりはない!!!
今の私は、顔どころか耳まで熱い。
そこだけは譲れないと、私が訂正しようと口を開きかけた時だ。
レイル「なっ....」
秀吉「なんやて!!!?」
銃声が聞こえてくる。
それに、何かが駆け回るような音や何かを引き裂くような音。
火蓋が切って落とされた熱き闘い。
かなり激しく殺し合っているようだ。
...ちなみに、レイルや秀吉が思っているような感じゃない。
あの時は千鶴ちゃんもいたし...
それに、あれこそ大事故だ。
大惨事に至らなかったのは、白の少年のような純粋さがあったからだ。
それに私は救われた。
あれがレイルや秀吉だったら...いや、考えるのはやめよう。
今でさえ頭が痛いのに、更に頭が痛くなってくる。
余計な事は考えない方が身の為だ。
....それにしても騒々しい。
まだ争っているのか、物騒な音が続いている。
私が遠ざかっている事にも気付かず、まだ争っている。
もはや、喧嘩をしたいだけではないかとさえ思えてくる。
なんだか、苛々してきた。
どうして動物同士、仲良く出来ないのか。
....このまま、置いて帰ろう。
3匹の喧嘩に、町の人々が一瞬にして輪になって囲む。
所謂、野次馬というやつだ。
面白がって煽る人もいれば、迷惑そうに冷たい視線を送る人もいる。
そんな事にはおかまなしに暴れ回る3匹。
レイルとは、もっと話すべき事があるのに....
でも、彼が喧嘩が出来るほど元気でいてくれた事に、私も少しだけ楽になった気がした。
いつものレイル。
だから、私もいつものようにいられる。
話をするのは、今じゃなくても良さそうだ。
それにしても、一体、あの怪しい亀は何処にいるのだろう。
それもこれも、全部あの亀が悪い。
青い魔法陣が、徐々に数を増やしている中、それに私は背中を向けた。
何処にいるのかも分からない亀に怒りをぶつけ、私はまた歩き出す。