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二話 仄かな香りは思い出される

「みんなっ」


教室は、からだった。


静止画の様に一ミリたりと動かない、クラスメイトが教室にいた、と言うべきなのか。

目を擦っても、瞬きしてみても、なにも動かない。


「ねえ、聞こえる?聞こえるなら誰か返事をして!!」


「おやー?なにをそんなに慌てているのかな?」


この場に流れる雰囲気をよそに陽気で飄々とした明るい声が、返ってきた。

暗闇に突如現れた太陽の如く。


振り向いた寸前に目は塞がれ、体勢が崩れる。

(嗚呼、懐かしい匂い)

覚えのあるその手は大きくて、さらさらしてて、指が長くて。

でも、あの手とは決定的に違う点があった。

なんというか、

(冷たい)

あの日のあの時の手には温もりがあった。その手は、誰だったかさえ忘れてしまう程昔のことらしい。

どうしようもない霞み加減に唇を噛んだ。


「大丈夫、君は何も怖くない。怖れることはない」


「えっと、私まだなにも言っていないんですけど」


恐らく同じ生徒だろうが知らない人に突然後ろから抱きしめられるのは抵抗がある。

おまけに目を塞がれている状態である。

膝をついたままにしてるのもそろそろきつくなってきた。


「あの、どうなっちゃってるんですか?」


「だから、何もおそれることはない。僕が君を導くから」


(いや、状況を把握できていないから怖れようにも無理があると思うんですけど)


大事なことをわすれかけてる気がして必死に記憶を手繰り寄せる。

(なんだったけ・・・・?今、思い出さないといけないのに)


「あなたの、名前はなんですか?」


「目を閉じて」


周りがはてなでいっぱいになっている明乃を彼はぎゅっと抱きしめた。


「僕が君の傍にいる限り、僕は君を守り抜くと約束しよう」


(あの人は、誰だったけ___)


懐かしくてたまらないのに、どうしても思い出せない切なさに胸がつまり更に謎は深まるばかりで。


「僕の名前は結衣」


彼は耳元で囁いた。




「君はたったひとりの救世主だ」





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