1話 始まりの始まり
『知ってる?最近トイレに変な霊が出るらしいよ』
先刻の友達との会話でオカルトの話に花が咲いたあと、トイレに行こうと立ちあがった瞬間にそう言われたのである。
(大丈夫、この世に科学で証明できないものなんて存在しないんだから)
霊だって元は人間だ。自分から好んでトイレに住み着くものなんているわけがない。
昼間とはいえ相変わらず暗い。
(これも校舎の向きのせいだから気にしない)
向こうから聞こえる休み時間特有のざわめきが明乃の脚をすくった。
少しほどけていた編みこみを直し、鏡の前で何度も確認をする。対称的な赤茶色の髪は、腰まで届く長さだ。
今日は髪に潤いがある。別にシャンプーやトリートメントの種類を変えたわけじゃあない。特別、綺麗になる日がたまにあるのだ。
「変な霊か。幽霊も含むのかな・・・だとしたら、るい兄に会いたいな」
鏡に映ってる自分と数秒間見つめあって溜息を吐いた。
(なに言ってんだろ自分。幽霊なんているわけないのに)
さっと手を洗ってからトイレを出る。
ふと、異変に気がついた。恐ろしいほどの静かさだ。
(もしかしてもう授業始まった?)
時計を見てみると、授業が始まるまでにあと5分ある。13時40分。
(じゃあなんで、こんなに静かなのっ)
だんだんと小走りになってきて、しまいには廊下を思いっきり走っていた。
「みんなっ」
教室は、空だった。