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解放された村雨くん

 村雨丸が倒したはずの八犬士たちと私。

 それが元気に立っている姿に足利成氏は、何が起きたのか分かっていなさそうで、慌て気味。



「ずっと前から、ここにいたんだけど。

 気づかなかった?」



 そう。ずっと私たちはここにいた。

 村雨くんが竜と戦う以前、この場所に私たちが到着したころからずっと。

 私は言葉を続けた。



「幻術よ。幻術。

 はっきり言うと、ずぅぅぅぅっと前から幻術の中に村雨くんはいたんだよね。

 そして、足利さん、あなたたちもね。

 さっき村雨くんが、いいえ、村雨丸が斬った私たちはただの幻なの」

「なに?」



 足利成氏の近習たちが立ち上がり、刀を抜いて構えた。



「あ。人間では勝てないから止めた方がいいかな」



 そう言って、近習たちの足を凍らせた。



「う、う、うわぁぁぁ」



 足掻いて足を動かそうとするけど、地面と一体化した氷に閉じ込められた足は動かすこともできやしない。



「えぇーっと、それは幻術じゃないからね。

 最悪、凍傷で足腐っちゃう覚悟はしておいてね」



 足を凍らした近習たちに、にこりと悪魔の微笑みを向けてから、視線を村雨くんに移した。



「幻術の特性、村雨くん知ってたんだね。

 そして、村雨くんは教えてくれようとしたのかな?

 でも、村雨丸が言わさなかったようだけど。

 村雨丸としては、自分より強い幻術使いの角ちゃんがいると、何かと邪魔だったんだよね?

 だから、角ちゃんを襲って殺したんだろうけど、自分は竹光で無実だと思わせようと、みんなの前で刀を抜いたのは失敗だったね。

 て言うか、私の力を見誤ったのが失敗かな」

「どう言う事だ」

「八房の力の最大の特徴って、他の物の怪の妖力を奪って、自分のものにする事なんだよね。

 八犬士たちの妖力は時間と共に、私に移っていたんだよね。

 ただ近くにいれば、私の中の力を使えたみたい。でも、離れるとそうはいかないって感じかな。

 角ちゃんの力も完全に私に移っていたから、角ちゃんを殺しても幻術の力は私の中から消えなかったの。

 そしてね。幻術って力が拮抗している者同士が発動すると、その空間の幻術は無効化されるんだけど、力に不均衡があると強い者の幻術が勝つみたいなんだよね。

 それだけでなく、幻術を発動していなくても、強い幻術を使える者は弱い者の幻術にはかからないらしいのよね。

 だから、信乃ちゃんたちには竹光に見えた村雨丸が私には本当の姿に見えちゃった訳。

 だから、角ちゃんを殺したのは村雨くんだとすぐに分かったんだよね。

 村雨くんは危険な敵。

 私の力をもって先制攻撃をかければ、村雨くんを倒すことはできたんだけど、その目的が分からなかったのよね。

 なので、ずっと村雨くんを私の幻術の中に閉じ込めていたの」

「おのれぇ。

 村雨丸、こ奴らを倒せ!

 いや、この娘さえ倒せばよい」

「無理だと思うんだよね」



 村雨くんに目を向けた。

 村雨くんは立ち上がろうとしているけど、かなり重力を強めているので、立ち上がる事もできないでいる。


 私は視線を足利成氏に戻した。

 足利成氏の表情は怒りと恐怖が入り混じったもので、体は小刻みに震えている。



「八房の夢を見たんだ、私。

 八房はね、元々は飼い犬だったんだ。

 でもね、かわいがってくれていた飼い主は物の怪に殺されちゃったんだ。

 飼い主を守れなかったその悔しさ、怒り、そんな八房の心が物の怪を呼寄せて、取りつかせてしまったんだよね。

 でも、物の怪に取りつかれても八房は飼い主への想いを失う事なく、いつの頃からか主客逆転して、自分の体を取り戻したんだ。

 だからね、八房の望みは物の怪たちのせん滅と、平穏な日々。

 でも、それを果たす前に寿命を迎える事になったので、自分の力を受け継ぐ者に気を使ったみたいなんだよね。

 だからさ、私は八房の力を野望を抱く者に渡してはだめだと思うんだよね」

「な、な、何が言いたいのじゃ」

「この力で天下も狙おうなんて言うあんたには、この力は渡さないって事」



 そう言い終えると、私は信乃ちゃんの所に向かった。



「信乃ちゃん。

 私、頼みがあるんだけど」



 そう言ってから、信乃ちゃんにこれからの事を頼んだ。



「しかし、それはまことなのですか?」



 信乃ちゃんの言葉に頷いてみせる。



「ですが、姫がそのような危険な賭けをされる必要は無いのでは?」

「これはね。私自身の賭けでもあるんだよね。

 頼んだからね。日時と場所はこれに書いてあるから」



 そう言って、一枚の紙を信乃ちゃんに渡してから、村雨くんに近づいていく。



「ぐっ!」



 鬼のような形相でなんと立ち上がり、私に刃先を向けようとしている。



「だ、だ、だ、だめです。

 ち、ち、近づか」



 どもって、目を泳がせた村雨くんは体中から力が抜けたのか、地面に突っ伏した。



「村雨くん。大丈夫だよ。

 足の怪我、治してげるね」



 そう言って、村雨くんの足の怪我を治すと、村雨くんを見つめた。



「私を信じて」



 そう言って、村雨くんのすぐ前にまでやって来た。

 重力を強めているのは村雨くんがいる狭い領域。

 その力を緩めて行く。



「ぐっ!」



 再び鬼のような形相で村雨くん、いいえ村雨丸が立ち上がり、私にその刃先を向けようとしている。



「大丈夫だよ。村雨くん」



 村雨丸の中にいる村雨くんに語りながら、その刃先の前に立った。



「さあ。

 突き刺しなさい。

 これで、村雨丸は村雨くんから離れるはず」



 満足に動けない村雨丸にゆっくりと近づくと、その刃先を私の腹部にあてがった。


 痛い!

 ゆっくりと、村雨丸が私の腹部を貫いていく。

 温かいものが体を伝うのが分かる。

 きっと、血が流れ出ているのだろう。

 私の体から力が抜けていく。

 これは私の命の力が抜けているだけじゃない。

 私に宿りし、八つの妖力が村雨丸に流れているんだろう。

 脱力感が私を襲った時、村雨丸が眩い光を放った。


 全てを吸い尽くしたの?


 光が消えた時、私の腹部には村雨丸だけが突き刺さり、村雨くんは少し離れた場所で尻餅をついていた。

 村雨くんの表情は悲壮感いっぱい。きっと、村雨丸から解放された素の村雨くんに違いない。



「あ、あ、ありす。

 そ、そ、そんな」

「村雨丸から解放されても、やっぱどもるんだ」


 村雨くんにそう言って、にこりと微笑んだ。

村雨丸の殺戮から一気に逆転したかと思いきや、村雨丸から解放させるため、主人公は……。

次回、最終話です。

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