九尾の狐
穏やかな日差しの下、子犬が小さな村の中を駆けまわっている。
猫ちゃん好きの私でも、かわいい! と、言いたくなる。
そんな風景は巨大な蜘蛛の物の怪に打ち破られた。
人々を襲う物の怪。子犬は怯えながらも、立ち向かったけど、蜘蛛の足の一蹴りで吹き飛ばされて、意識を失った。
意識を取り戻した子犬が目にしたのは、変わり果てた飼い主の姿に、荒れ果てた村の姿だった。
大好きだったものを失った子犬の悲しみ、怒りが伝わってくる。
その負の心は闇を引き寄せ、やがて子犬自身を物の怪に変えて行った。
それは八房の生涯だった。
「遠き時代に生まれたのも、何かの導きやも知れぬ。八つの物の怪の力全てをこの時代から消し去ってほしい」
人間の姿に変化した八房が、私に向かってそう言った。
「はっ!」
上半身を起こして、周りを見た。
「今のは夢?」
私を包み込んでいるのは、障子から差し込むのは朝の気配を漂わせた暖かな光だった。
私たちは殺されてしまった角ちゃんを弔うと、足利成氏の館を目指して旅を進める事にした。
その日は、朝から歩いていると言うのに、全く町に着かない。と言うか、人とも会わない。
ずっと細い道を歩き続けている。
「いつになったら、休める場所に着くのかな?」
不満げな口調で言ってみる。
「これだけ何も無いと言うのは、変な気がします」
信乃ちゃんが言う。
「バス停無いかなぁ?」
「またそれですか?」
村雨くんの言葉は冷たい。あんたばかぁ? とか思っていそう。
「でも、あったりするんだよね。
ほら、あそこ」
少し離れた先に見えているバス停の標識を指さして言った。
七○山行。稲荷○。
また、これ?
すでに一度経験した事。
幻術の世界。何者かが、私たちを幻術の世界に招き入れている。
信乃ちゃんたちが刀の柄に手をかけて、敵を探し始めた。
チャッ!
刀を抜くを音がした。
来た!
私はみんなの反応を確認する。
誰も敵を見つける事が出来ていない。
村雨くんに目を向けると、緊張の面持ちであたりの気配をうかがっていた。
右手を腰の刀の柄にかけ、鎺が鞘からのぞいている。
「あそこ!」
私が近づいてくる猫バスを指さした。
「また、あの化け猫なのかな?」
「あやつは倒したはず。
また別の物の怪かと」
「あの時、妖術の猫バスは解けて、化け猫の姿に戻ったよね。
今度も戻るのかな?」
「それは分かりかねます」
「こ、こ、こ、今度はそ、そ、そうはい、い、」
信乃ちゃんに続いて、村雨くんが口を挟んで来た。
どもりながら、目を泳がせている。
「村雨くん、何が言いたいのかな?」
「そ、そ、それは分かりません」
泳いでいた目が止まったかと思うと、そう言い切った。
「それだけですか!」
それ以外に言う言葉は無い。
そんな事をしている内に、猫バスは私たちの前にやって来て停車した。
プシュー。
そんなリアルな音を立てて、猫バスのドアが開いた。
「えぇーっと、これって、幻術だよね?
あなた誰?」
小首を傾げながらたずねてみると、猫バスは頭を曲げて、私を見てにんまりとした。
「なんじゃ。ばれておったのか」
「て言うかさ。私の記憶ベースに幻術って、あり得なくない?
だって、この時代に無いものだよ」
「お前の言っている言葉はよく分からんが、ばれたのなら仕方ない」
そう言い終えた瞬間、猫バスは大きな狐になった。
「しっぽが多いんだけど」
私の言葉に、信乃ちゃんたちに緊張が走った。
「九尾の狐か。
倒され、殺生石になっておるのではなかったのか?」
狐の物の怪に、細い目でにんまりされるとちょっと不気味。
舌をぺろりと出したかと思うと、にんまりとしたほほ笑みを浮かべたまま空に舞い上がって行った。
青い空をかける妖狐。
広がる九つの尾は結構長い。
「逃げたのかな?」
「分かりませんが、あのような危ない物の怪がまだ残っていたとは」
「村雨くん、あの狐には勝てそうだったかな?」
小首を傾げながら、村雨くんに聞いてみた。
「封印を解けばですが」
きっぱりと言い切った。
「いざって時は頼りにするからね」
にこりとした笑顔で、村雨くんに言った。
前話に続いて再び現れた九尾の狐。
とりあえず何もなく立ち去りましたけど、なんで?
そして、今回も不思議な村雨くんでした。
次週末あたり完結の予定です。
もうしばらく、お付き合いいただければと思います。
よろしくお願いします。




