表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/48

九尾の狐

 穏やかな日差しの下、子犬が小さな村の中を駆けまわっている。

 猫ちゃん好きの私でも、かわいい! と、言いたくなる。


 そんな風景は巨大な蜘蛛の物の怪に打ち破られた。

 人々を襲う物の怪。子犬は怯えながらも、立ち向かったけど、蜘蛛の足の一蹴りで吹き飛ばされて、意識を失った。


 意識を取り戻した子犬が目にしたのは、変わり果てた飼い主の姿に、荒れ果てた村の姿だった。

 大好きだったものを失った子犬の悲しみ、怒りが伝わってくる。

 その負の心は闇を引き寄せ、やがて子犬自身を物の怪に変えて行った。


 それは八房の生涯だった。



「遠き時代に生まれたのも、何かの導きやも知れぬ。八つの物の怪の力全てをこの時代から消し去ってほしい」



 人間の姿に変化へんげした八房が、私に向かってそう言った。



「はっ!」



 上半身を起こして、周りを見た。



「今のは夢?」



 私を包み込んでいるのは、障子から差し込むのは朝の気配を漂わせた暖かな光だった。





 私たちは殺されてしまった角ちゃんを弔うと、足利成氏の館を目指して旅を進める事にした。


 その日は、朝から歩いていると言うのに、全く町に着かない。と言うか、人とも会わない。

 ずっと細い道を歩き続けている。



「いつになったら、休める場所に着くのかな?」



 不満げな口調で言ってみる。



「これだけ何も無いと言うのは、変な気がします」



 信乃ちゃんが言う。



「バス停無いかなぁ?」

「またそれですか?」



 村雨くんの言葉は冷たい。あんたばかぁ? とか思っていそう。



「でも、あったりするんだよね。

 ほら、あそこ」



 少し離れた先に見えているバス停の標識を指さして言った。

 七○山行。稲荷○。


 また、これ?


 すでに一度経験した事。

 幻術の世界。何者かが、私たちを幻術の世界に招き入れている。


 信乃ちゃんたちが刀の柄に手をかけて、敵を探し始めた。


 チャッ!


 刀を抜くを音がした。


 来た!


 私はみんなの反応を確認する。

 誰も敵を見つける事が出来ていない。


 村雨くんに目を向けると、緊張の面持ちであたりの気配をうかがっていた。

 右手を腰の刀の柄にかけ、はばきが鞘からのぞいている。



「あそこ!」



 私が近づいてくる猫バスを指さした。



「また、あの化け猫なのかな?」

「あやつは倒したはず。

 また別の物の怪かと」

「あの時、妖術の猫バスは解けて、化け猫の姿に戻ったよね。

 今度も戻るのかな?」

「それは分かりかねます」

「こ、こ、こ、今度はそ、そ、そうはい、い、」



 信乃ちゃんに続いて、村雨くんが口を挟んで来た。

 どもりながら、目を泳がせている。



「村雨くん、何が言いたいのかな?」

「そ、そ、それは分かりません」



 泳いでいた目が止まったかと思うと、そう言い切った。



「それだけですか!」



 それ以外に言う言葉は無い。

 そんな事をしている内に、猫バスは私たちの前にやって来て停車した。


 プシュー。


 そんなリアルな音を立てて、猫バスのドアが開いた。



「えぇーっと、これって、幻術だよね?

 あなた誰?」



 小首を傾げながらたずねてみると、猫バスは頭を曲げて、私を見てにんまりとした。



「なんじゃ。ばれておったのか」

「て言うかさ。私の記憶ベースに幻術って、あり得なくない?

 だって、この時代に無いものだよ」

「お前の言っている言葉はよく分からんが、ばれたのなら仕方ない」



 そう言い終えた瞬間、猫バスは大きな狐になった。



「しっぽが多いんだけど」



 私の言葉に、信乃ちゃんたちに緊張が走った。



「九尾の狐か。

 倒され、殺生石になっておるのではなかったのか?」



 狐の物の怪に、細い目でにんまりされるとちょっと不気味。

 舌をぺろりと出したかと思うと、にんまりとしたほほ笑みを浮かべたまま空に舞い上がって行った。


 青い空をかける妖狐。

 広がる九つの尾は結構長い。



「逃げたのかな?」

「分かりませんが、あのような危ない物の怪がまだ残っていたとは」

「村雨くん、あの狐には勝てそうだったかな?」



 小首を傾げながら、村雨くんに聞いてみた。



「封印を解けばですが」



 きっぱりと言い切った。



「いざって時は頼りにするからね」



 にこりとした笑顔で、村雨くんに言った。

前話に続いて再び現れた九尾の狐。

とりあえず何もなく立ち去りましたけど、なんで?

そして、今回も不思議な村雨くんでした。


次週末あたり完結の予定です。

もうしばらく、お付き合いいただければと思います。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[勝手にランキング]よかったら、クリックお願いします。
評価・感想いただけたら、うれしいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ