背筋も凍りつく恐怖
ただの刀には思えない禍々しさを持った刀を構える村雨くん。
さっきの信乃ちゃんたちの反応は、その禍々しさを感じ取っての事。
そう思った私に、意外な言葉が届けられた。
「村雨殿。これは失礼つかまつった」
「おしまいくだされ」
「村雨殿の刀では、人は斬れぬ。
やはり、犬村殿を殺めたのは他の誰かに違いあるまい」
「えっ?
そうなの?」
どう見ても、人を斬れそうな。いえ、それ以上にもっと危険なものを感じてしまう。
でも、刀と言うものに詳しくない私には分からない何か理由が?
そんな思いで、信乃ちゃんに目を向ける。
「姫。失礼ですが、この事は内密に」
信乃ちゃんが、悪い事をした的な表情で私に言った。
村雨くんの刀には隠さなければならない何か秘密があって、人を斬れない。
その秘密を誰にも言わないでって事?
でも何か違うような?
もしかして、竹光に見えているとか?
「えぇーっと、あれって竹光?」
私の言葉に信乃ちゃんたちが静かに頷き返した。
どう言う事?
信乃ちゃんたちにはあれが竹光に見えたらしい。
いいえ。以前に見た時、確かに私も竹光に見えた。
でも、今は真剣と言うより、もっと禍々しい、そう妖刀に見えた。
二回目に見ると、妖刀に見えるの?
妖刀?
その言葉に、信乃ちゃんと出会った時に教えてもらった話が、脳裏によみがえって来た。
「抜けば、刀の付け根より……」
「妖力を吸収された物の怪たち……」
私の頭の中にこれまでの出来事が浮かんできた。
突然現れたお侍の一団、風にも流されない不思議な霧。
そして、幻術を破られた化け猫。
もしかすると。
私の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。
その仮説が正しくて、村雨くんの刀が竹光でなかったとしたら、多くの謎が解ける気がする。
その仮説を確かめるためには、確かめなければならない事がいくつかある!
村雨くんにかけられた疑いが無くなり、悲しみと、向ける相手を失った怒りだけに満たされた静かな部屋を一人、私は後にした。
旅籠の外。
人通りもない通りを照らしているのは、月明かりと星明り。
右手を差し出し、人差し指だけを伸ばしてみる。
小さな炎。
心に描いたとおりの炎が私の人差し指に灯った。
やっぱり。
そう思った時、暗闇の中に人の気配を感じた。
通りの端に身を寄せて潜めながら、ある事を試すチャンスに感じた。
恐ろしい物の怪で、人を化かしそうなもの。
狐か狸?
九尾の狐。その姿を思い浮かべた。
夜の星明りを打ち消す金色の光が夜道を照らし出すと、通りを歩く怪しげな二人の男の姿を浮かび上がらせた。
天より降り注ぐ金色の光に、空を見上げる二人の視線の先には金色に輝く九尾の狐が怪しく空を舞っていた。
「あ、あ、あれは」
その声を聞きつけたのか、九尾の狐が男たちに視線を向けて、ぺろりと舌を出した。
「ひぇぇぇ」
九尾の狐と言うとんでもない物の怪。
そんな物の怪に視線を向けられ、舌なめずりされたのだから、その恐怖は計り知れない。
男たちが情けない声を上げて、逃げ出して行く。
やっぱり。
私は自分の仮説の正しさを確信した。
これで今まで起きた不思議な事が何だったのか、村雨くんの刀が私にだけ竹光に見えなかった理由も説明できる。
そして、角ちゃんを殺した理由も。
でも、その先の理由が分からないし、敵意を今も隠し続けている理由も分からない。
いえ。
もしかすると、敵意は無い可能性も。
だったら、目的は何なの?
そこが分からなければ、どうしていいのか分からない。
ただ、危険と隣り合わせ。それだけは確実っぽい。
私の脳裏によみがえった、人を突き刺した状態で笑みを浮かべた村雨くんの横顔に、背筋が凍りつかずにいられなかった。
主人公は二つの事に気づきました。
でも、一番大事な相手の目的はまだ分かっていません。
その目的は何なのか?
そこに敵意があるのか?
引き続き、よろしくお願いいたします。




